ウイルス課の業務紹介

−ノロウイルスによる食中毒の検査−

はじめに
 食中毒のほとんどは細菌が病因物質であると思われがちですが、一年に起こる食中毒の約3〜4割はウイルスにより引き起こされています。ウイルスによって引き起こされる食中毒の大半は「ノロウイルス」によるもので、このウイルスに感染すると、24時間から72時間後に嘔吐、下痢、腹痛、軽度の発熱などの症状が現れます。ノロウイルスの直径は約30nm(ナノメートル:1mmの100万分の1)で、大腸菌の100分の1程度の大きさです。細菌による食中毒が夏の気温の高い時期に多く発生するのに対し、ノロウイルスによる食中毒は冬から春先にかけて多く発生するのが特徴です。また、食中毒以外にもノロウイルスは感染症としても冬から春先にかけて流行することが知られています。

 ウイルス課では、食品衛生法に基づき食中毒の原因を究明するためにウイルス学的検査を行っています。 この検査は国立感染症研究所が作成した「ウイルス性下痢症診断マニュアル」に準拠し検査を行っています。

本題に移る前に・・・・・ やさしい生化学 / ウイルスとは


食中毒検査の流れ
(1) 検体の採取・搬入
 検体(糞便、吐物、食品等)の採取・搬入は保健福祉環境事務所の衛生課の職員により行われます。また、同時に原因究明のために、症状や喫食状況や施設についての聞き取り調査(疫学調査)が行われます。採取された検体は、当研究所に搬入されます。
(2-1)遺伝子検査
 ノロウイルスの検査は、ウイルスの遺伝子を検出することで行われます。遺伝子検査は非常に感度が高いため、汚染が起こらないように細心の注意を払いながら行います。最初に、ノロウイルスの遺伝子であるRNAを検体から抽出します(写真1)。次に、RT-PCR法によりノロウイルス遺伝子の一部を増幅し(写真2)、増幅された遺伝子をアガロースゲル電気泳動により確認します(写真3)。ノロウイルスの遺伝子が検出された場合にはDNAシーケンサーを用いて遺伝子配列を決定し、検出された遺伝子がノロウイルスのものであることを確認します(写真4)。ノロウイルスの遺伝子配列が複数の検体について決定することが出来た場合には、コンピュータを用いて各検体の遺伝子配列を比較することで、感染経路の特定に繋がる情報を得ることができます。
写真1 RNAの抽出 写真2 RT-PCR法による遺伝子の増幅
写真3 アガロースゲル電気泳動による確認 写真4 DNAシーケンサーによる遺伝子解析
(2-2)電子顕微鏡による検査

 食中毒の検査は、電子顕微鏡(写真5)を用いてウイルスの粒子を検索することでも行われます。検体を超遠心分離器で濃縮した後に、電子顕微鏡(3万倍から4万倍の倍率)で観察を行います。遺伝子検査と較べると感度は大幅に落ちますがウイルスの粒子(写真6)を直接観察することができます。また、この方法ではノロウイルス以外のウイルスを見つけることが可能で、ノロウイルス以外のウイルスが検出されることもあります。

写真5 電子顕微鏡 写真6 ノロウイルス
(3) 検査結果

 ノロウイルスの検査結果は疫学調査の結果と併せて分析が行われます。これらの調査及び検査結果から食中毒の原因特定が行われ、行政処分の重要な資料となります。


用語解説
 RT-PCR
 RT-PCRとはRNAからDNAを増幅する遺伝子工学的手法の一つです。(RT-PCRのRTは逆転写を意味しています)
 PCRは、DNAからその一部分だけをDNAポリメラーゼという酵素を利用して約100万倍まで増幅する方法ですが、この方法ではRNAからは遺伝子を増幅することができません。そのため、RT-PCRは、PCRを行う前にRNAからDNAへ逆転写(RT)する手順を加えることで、RNAからの遺伝子増幅を可能にした手法です。

*)DNAからRNAを作ることを転写と呼ばれ、RNAからDNAを作ることを逆転写と呼びます。

 アガロースゲル電気泳動
 アガロースゲル電気泳動とは、アガロース(寒天の成分)を用いて、核酸(DNA、RNA)を、その大きさに応じて分離する手法です。
 アガロースで作ったゲルの片方の端に核酸を注入し電気を流すと、核酸は負の電荷をもつため正の電極へ移動(泳動)します。そのとき、寒天の網目構造が「分子ふるい」として働き、大きい核酸は遅く、小さい核酸は早く泳動し、大きさによって分離されます。その後、臭化エチジウムなどの蛍光試薬で視覚化して観察します。臭化エチジウムを用いた場合、オレンジ色に光ります。

 DNAシーケンサー
 DNAシーケンサーはDNAの塩基配列を自動的に読み取るための装置です。
 DNAは、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4種類の塩基が一列に並んだ構造をしていますが、DNAシーケンサーは、PCRの原理と電気泳動の原理を応用し、4つの塩基の並び(配列)を読みとることが出来ます。


(福岡県保健環境研究所 ウイルス課 江藤 良樹)


 


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