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種の解説

ハビタットとその変化

両生類の多くは成体の生息場所と産卵場所が異なっている。近年,両生類の生息する環境,特に産卵場所の環境が大きく変化し,希少種のみならず両生類全体に多大の影響を及ぼしている。

  • (1) 水田域

    水田は人工的につくられた湿地とみなすべきもので,多くのカエル類にとってもっとも適した産卵場所である。水は浅くて日当たりがよいため水温が上昇しやすく,餌となる藻類や小動物も多く,捕食者は少ない。周辺の畦,水路,農道には草本類が多く,成体の隠れ場や昆虫類などの餌動物も豊富であった。ところが,最近では田植え時でも水田の水は非常に浅く,田植え後はしばしば中干しが行われるようになった。通常,水深10 cm程度の浅い水にはニホンアマガエル・ヌマガエル・ツチガエルのように小型で卵を分散して産むカエルは産卵するが,トノサマガエルのように大型の卵塊を産むカエルは産卵しない。また,中干しによってしばしば卵塊や幼生が干上がって死亡している例が目撃されている。このことは普通種であるニホンアマガエルやヌマガエルにも今後大きな影響を与えるものと予想される。灌漑水路も田植えの時期を除くと水量が減少し,収穫時期以後はまったく水のないことが多い。ツチガエルのように幼生で越冬するカエルはこのような環境では生存できない。水田の給水,排水が暗渠となっている場所では,水路そのものがなくなっている。畦がコンクリート製となってまったく草地がない水田も多いが,このような環境では水辺を好むカエル類の生息は不可能といってよい。

    山間部の水田域には水の途切れない水路や湿田が多く,このような場所にはアカハライモリやトノサマガエル・ツチガエルが多くみられる。これらの種は,平地では比較的広くて常時水のある水路にみられる。なお,冬から早春にかけて産卵するニホンアカガエル・ヤマアカガエルは山際の溝や湿地,小さな池などに産卵するが,冬期の水田には通常水が無く,トラクターの轍跡などに溜まった一時的な水溜りに産卵する例が多い。後者の場合,降雨が少ないと卵塊や幼生は干上がって死亡する。ニホンアカガエル・ヤマアカガエルの成体は,産卵期以外は周囲の山林内で生活する。なお,山間部の放棄水田は乾田化して,産卵場所として役立たなくなっている。

    カスミサンショウウオは水田に産卵する種とはいえないが,湿田に産卵することがある。典型的には丘陵地の森林や竹林と水田・畑地の間の溝に産卵し,このような場所は排水がよくなって乾燥化したり造成によって宅地になるなどして,年々減少している。また,近年イノシシによる被害を防ぐためトタン板で囲った水田,畑地が散見されるようになり,両生類の移動の妨げになっているほか,両生類が産卵する水溜りがぬた場となっている箇所もある。イノシシは両生類を捕食することが知られており,その影響も懸念される。

  • (2) ため池,クリーク

    普通種のウシガエルはこのハビタットで生活し,産卵する。最近ウシガエルの数も大きく減少しているが,その原因は明らかでない。ブラックバスなどの外来の肉食魚やミシシッピアカミミガメが増加していることと関連して,例えば幼生がブラックバスに捕食されている可能性があるが,確証はない。ニホンヒキガエルは山林内で生活するが,ため池の浅い場所に集まって産卵することが多く,大量の幼生を見ることも多い。ヒキガエル類は有毒であるから,捕食を免れている可能性がある。アカガエル類はしばしば山間部のため池に産卵することがある。おそらくこれは産卵場所が少なくなったことに伴う非常事態であろうが,現状では貴重な安定した産卵場所であることは疑いない。

  • (3) 山地

    コガタブチサンショウウオ・ブチサンショウウオ・普通種のタゴガエルは山林内で生活し,産卵期に湧水域に移動する。カジカガエルも山林(樹上)で生活するが,産卵は大きな石の多い流水で行われる。このような産卵場所はダムや砂防ダムの建設により,年々失われてきた。ダムの設置される場所はカジカガエルの産卵に最適の場所が多く,これまで多くの産卵場所が消失してきたが,今後も同じことが続くであろう。古い砂防ダムには多量の土砂が堆積し,結果的に周辺の湧水場所を埋めている。

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