福岡県レッドデータブック

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種の解説

危機の要因

生息地の改変:かつて危機要因として最も影響が大きかったのは,ダム開発,道路建設,埋立,土地造成,農地開発などの大型開発による直接的な生息地の消滅であった。しかしその後,経済状況の変化,自然保護意識の高まり,環境アセスメント制度の浸透などにより,無条件に大規模な生息地の破壊が行われることは少なくなっている。福岡県においては,博多湾の埋立開発,東九州道や九州新幹線の整備,ダム開発等の長期に及ぶ大型公共事業が行われているが,大きな土地改変を伴う工程は終了しているものもあり,生息地消滅の危機は少なくなっている。

外来種の影響:外来種による生態系の攪乱が懸念されているが,陸鳥の場合には1970年代から見られるようになったソウシチョウと,1980年代から増加しているガビチョウが問題となっている。ソウシチョウは福岡県では英彦山や脊振山地などでのみ繁殖していたものが,1990年代後半頃からは標高500m以下の低山でも繁殖するようになり,渡り時期や越冬期には市街地でも見られる。生息環境が一致しているウグイスに影響があるのではないかともいわれている。一方ガビチョウは丘陵地や山麓を中心に生息域を拡大している。北部九州では,丘陵地や低山においてガビチョウと生態的に競合する種が存在しないと思われ,生態系の「すきま」にうまく入り込んだ状態のようである。また海鳥の場合では,カンムリウミスズメ及びヒメクロウミツバメ繁殖地へのドブネズミの侵入・捕食が極めて大きな問題となっている。

気候変動:90年代以降夏鳥が著しく減少していることが問題として取り上げられてきた。繁殖地の環境に変化が見られないのに夏鳥が減少していることから,越冬地での森林伐採などが原因である可能性が高いと指摘されていた。福岡県でもヨタカ,サンコウチョウ,センダイムシクイ,アオバズクなどの夏鳥が著しく減少しているが,これらの種に共通するのは昆虫を主な餌とする種であることである。餌の減少がこれら昆虫食の鳥類の減少の一因となっているとも考えられる。餌資源の変化が気候変動と関係しているのかどうか,科学的な究明が求められる。また,魚食性のコアジサシでも,営巣に適した環境が存在するにも関わらず,飛来しても繁殖行動が行われず,繁殖期の途中で個体数が減少していくという現象が見られている。餌となる魚類の減少や発生時期の変化が考えられ,海水温の変化が要因となっている可能性も考えられる。これらの問題に関しては,小手先の対策では解決しない場合がほとんどで,影響が顕在化した時点では,問題を解決することは極めて困難である。

鳥類観察者による影響:近年新たな問題として,観察者の増加に伴う鳥類への影響が挙げられる。特にデジタルカメラの普及により,容易に鳥類撮影ができるようになり,鳥を撮影対象とする人が増加している。情報ネットワークの普及により,ごく短時間で多くの人に情報が広がり,限られた場所に多くの撮影者が集まり,その接近・存在がこれら鳥類に影響を与えている。福岡県でもサンコウチョウ,アカショウビン,アオバズクなどで繁殖状況を撮影するために人が集まり,営巣を放棄した事例が知られているほか,猛禽類やフクロウ類,カワセミ類,コアジサシ,ヤイロチョウなどの人気のある種についても,観察・撮影圧による影響が問題視されている。このように一部の生息数の少ない種は,観察や撮影による繁殖放棄が大きな危機要因となっている。

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