福岡県レッドデータブック

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種の解説

希少植物の生育環境

希少な植物が多く生息している環境として,福岡県内では,以下の環境が挙げられる。

  • (1)山地の落葉広葉樹林
    犬ヶ岳~英彦山,釈迦岳~御前岳,脊振山地,井原山~雷山などの山地上部(主に標高800m以上)には,ブナを伴う落葉広葉樹林が見られる。これらの落葉広葉樹林には,冷温帯性の希少植物が数多く生育している。また,それぞれの山系にのみ生育する希少種がある。犬ヶ岳~英彦山は,冷温帯性の希少植物が最も多い地域であり,ワチガイソウ・クロフネサイシン・ウンゼンマンネングサ・クロクモソウなどはこの地域にのみ生育する。しかしながら,犬ヶ岳~英彦山では,近年シカの増加が著しく,希少植物を含む林床植生はほとんど消失してしまった。このため,犬ヶ岳で発見・記載されたツツイイワヘゴは絶滅し,ユキザサ・オオキヌタソウなどの多くの絶滅危惧種が,絶滅寸前の状態にある。植生防護柵による対策を緊急に実施する必要がある。釈迦岳~御前岳には,ハリモミ,エンシュウツリフネなどが生育する。この山系にもシカが進入しているので,林床植生と希少植物の保全対策を早急に実施する必要がある。脊振山地,井原山~雷山は東西に連続しており,植物相も類似している。アカソ・クサコアカソ・ウンゼンカンアオイなどは共通して見られるが,オニコナスビ・バイケイソウなどは脊振山地だけに,ヤマブキソウ・ツクシトウヒレンなどは井原山~雷山だけに見られる。これらの山系にはシカが生息していないので,林床植生が豊かであるが,ラン科植物,ツクシマムシグサなどは減少している。減少している種はインターネットの通販などで販売されているため,商業目的の採集が減少を促進している可能性がある。
  • (2)常緑広葉樹林
    低地の常緑広葉樹林は古くから人間によって利用されてきたため,成熟した常緑広葉樹林は古い社寺林などの限られた場所にのみ残されている。トキワガキ・キシュウナキリスゲなどはこのような場所に限って見られる。沖ノ島には原生的な常緑広葉樹林が残されており,ヒゼンマユミ・イソヤマアオキ・ミヤコジマツヅラフジ・オオタニワタリ などの絶滅危惧種が生育している。しかし,沖ノ島でも環境は変化しており,オオユリワサビは絶滅し,タチバナ・リュウキュウミヤマシキミは今回の調査では発見できなかった。常緑広葉樹林内の渓流沿いには,アオグキイヌワラビ・タカサゴシダ・ムラサキベニシダ・ホウノカワシダなどの絶滅危惧種のシダ植物が見られる。また,常緑広葉樹林の林床はもともとラン科植物が多い環境だったが,園芸用の採取によって減少し,エビネ・キエビネ・ナツエビネ・ナギランなど多くの種が絶滅危惧種となっている。また,キンラン・ギンランなどは,里山の明るい常緑広葉樹二次林の遷移が進み,林床が暗くなったために減少している。一方で,絶滅したと考えられていたハツシマランが県内数地点で再発見され,ベニシュスランなどが新たに発見された。また,暗い林床に生える腐生ラン(ムヨウラン類,マヤラン,タシロランなど)が,最近各地で確認されている。これらの林床性のランについては,常緑広葉樹二次林の遷移とともに,回復している可能性がある。
  • (3)草地・草原
    萱場の減少や,里山の手入れ不足による明るい草地・林縁の減少とともに,ツチグリ・イヌハギ・マキエハギ・シバハギ・ミシマサイコ・リンドウ・フナバラソウ・スズサイコ・オキナグサ・オケラなど,多くの草地・草原性の植物が絶滅危惧種となっている。また,山地草原の消失とともに,ホソバシロスミレ・キュウシュウコゴメグサ・マツムシソウは絶滅した。
  • (4)湿地・小川・ため池
    最も消失・劣化が著しい生息環境であり,これらの環境に生育する植物の多くは,絶滅危惧種となっている。ハンノキが優先する低地の湿地林はほぼ消失し,ハンノキは単木的にわずかに残るだけとなっている。サワギキョウが優先する低湿地もほぼ消失し,サワシロギク・サギソウなどかつては各地に見られた植物が絶滅寸前状態となっている。また,ため池の三面護岸工事,高水位管理,池干し中止などにより,水位変動のあるため池の水辺に生育していたサイコクヌカボ・ヤナギヌカボ・コイヌガラシ・イヌセンブリ・ミゾコウジュ・ミズネコノオ・ホソバニガナ・ホシクサ類などが絶滅危惧種となっている。小川・水路も三面護岸工事が進み,土手に生えるミズタカモジ,水路に生えるミクリ類などが絶滅危惧種となっている。ため池や小川・水路に生育する沈水植物では,オニバス・タヌキモ・ミカワタヌキモ・ノタヌキモ,ヒメバイカモ・タチモ・ガシャモクなど多くの種が絶滅危惧種となっている。また,かつては水田に広く見られたミズオオバコ・イトトリゲモなどが,水田耕作法の変化に伴い,絶滅危惧種となっている。
  • (5)海岸植生
    ゲンカイミミナグサ・エゾオオバコ・トウオオバコ・コナミキなどの礫浜の植物,カワラサイコ・クサスギカズラ・ハマタマボウキ・ハマニンニクなどの砂浜の植物,イソホウキギ・シチメンソウ・ヒロハマツナ・フクド・ウラギク・シバナなどの干潟の植物が,人間による海岸の利用の拡大とともに減少し,絶滅危惧種となっている。ゲンカイイワレンゲ・イワレンゲ・ダルマギクなどの岩場の植物にも絶滅危惧種が見られるが,礫浜・砂浜・干潟の植物に比べれば生育地の状態が安定している。
  • (6)石灰岩地
    平尾台・香春岳・古処山・井原山(水無)などの石灰岩地には,独特の植生が発達し,ミヤコミズ・キビノクロウメモドキ・チョウジガマズミ・イワツクバネウツギ・オニシバリなど,石灰岩地にのみ生育する絶滅危惧種が見られる。このうち,わが国では古処山だけに生育していたオオベニウツギは,今回の調査では発見できず,絶滅したものと考えられる。古処山ではシカが増えており,その影響も考えられるが,原因は特定できない。香春岳では石灰岩の採掘が進行しており,イチョウシダは消失するものと思われる。ただし,イチョウシダについては,田川市の石灰岩地で生育を確認した。他の石灰岩地では,生育環境は比較的安定しているが,個体数が少ない絶滅危惧種に関しては,継続したモニタリングが必要である。平尾台のカルスト台地には広い面積にわたって草原的環境が維持され,ムラサキ・ヒナノキンチャク・ゴマノハグサ・カセンソウ・ヒメヒゴタイ・コキンバイザサ・ヒオウギ・ノヒメユリ・ツレサギソウ・ハシナガヤマサギソウなど,草原性絶滅危惧種のホットスポットとなっている。
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