発表論文(平成12年度,2000年度)

1 Release of membrane vesicles containing endotoxic lipopolysaccharide in Escherichia coli 157 clinical isolates
  Ikuko Meno*1, Shuji Fujimoto*2, Kazumi Horikawa, Shin-ichi Yoshida*2
Microbiology and Immunology, 44(4), 217-274, 2000.
 大腸菌O157によって放出される膜小胞について抗O157抗体を用いた免疫電顕法を用い検討した.我々は抗O157抗体が小胞のネガテイブ染色を増強し,多数の小胞が菌体表面に形成されていることを見いだした.免疫電顕法による実験は,O側鎖を含むリポポリサッカライド(LPS)が小胞表面に存在することを証明した.ドデシル硫酸ナトリウム・ポリサッカライド・ゲル電気泳動による解析から精製した小胞はリピドAとOサッカライドから成るLPSを含んでいることが分かった.これに加え,リムステストによって小胞にエンドトキシン活性があることを証明した.これらの結果から小胞が大腸菌O157:H7の病原性に重要な役割を担っていることが推察された.
*1 西南女子大学保健福祉学部, *2 九州大学医学部
 
2 Detection of serum thermolabile β-2 macroglycoprotein (Hakata antigen) by enzyme-linked immunosorbent assay using polysaccharide produced by Aerococcus virdans
  Mitsushi Tsujimura*, Chuzo Ishida*, Yasuko Sagara*, Takashi Miyazaki*, Koichi Murakami, Hiroshi Shiraki*, Kazuo Okochi*, Yoshiaki Maeda*
Clinical and Diagnostic Laboratory Immunology, 8, 454-459, 2001.
 β-2 macroglycoprotein (Hakata antigen)は,ヒトの生体防御において重要な役割を担っていると考えられてる.しかし,この抗原の定量に当たっては,今まで確立された方法がなかった.今回,グラム陽性の球菌であるAerococcus virdans のpolysaccharide がβ-2 macroglycoprotein と特異的に反応することを発見した.そこで,これを応用しenzyme-linked immunosorbent assay (ELISA) にてβ-2 macroglycoprotein をヒト血清中より検出,定量する方法を開発した.
* 福岡県赤十字血液センター
 
3 大気粉塵,河川水および土砂の変異原性モニタリング
  後藤純雄*1, 遠藤治*1, 松本寛*1, 酒井茂克*2, 茶川智子*2, 麻野間正晴*3, 平山晃久*4, 渡辺徹志*4, 世良暢之, 塚谷裕子, 多田敦子*5, 若林敬二*5
環境変異原研究, 22(2), 45-54, 2000.
 全国の主要都市で採取した河川水,大気及び土砂試料のメタノールで抽出した有機溶媒画分について,Salmonella Typhimurium TA98,TA100及びYG1024株を用いた変異原性試験を実施した.その結果,河川水では近畿地方を流れる河川の下水処理場近くで,大気試料については交通量の多い地域或いは重工業地域で,土砂では近畿地方の公園で,高い変異原性が認められた.これら試料の変異原性には,経日,季節及び年変動などが認められるものの,変異原性試験が環境汚染の評価及びその対策に有効な指標であることが示唆されるデータが蓄積されてきた.
*1 国立公衆衛生院, *2 北海道環境科学研究センター, *3 名古屋市衛生研究所, *4 京都薬科大学, *5 国立がんセンター研究所 
 
4 Isolation and characterization of methicillin-resistant Staphylococcus aureus strains from nurses and their gowns
  Kazumi Horikawa, Koichi Murakami, Fujiko Kawano*
Microbiological Research, 155, 345-349, 2001.
 看護婦の両側鼻腔内及び看護婦が着用していた予防衣から分離したメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)について言及した.本実験によって50名の看護婦から8株,予防衣から2株のMRSAが分離された.10株のMRSAについてコアグラーゼ型別するとコアグラーセU及びV型の2タイプに分けられた.本研究で我々は,日本で報告のないコアグラーゼV型で毒素ショック症候群毒素及びエンテロトキシンCを産生する株を見いだした.さらに我々は3名の看護婦の両側鼻腔から分離された3組のMRSA及び1名の看護婦の左鼻腔及びその看護婦が着用していた予防衣から分離された1組のMRSAは,パルスフィールドゲル電気泳動によっていずれも同一であるあことを確認した.
 * 前福岡県立看護専門学校
 
5 Mutagenic activity of surface soil and quantification of 1,3-,1,6- and 1,8-dinitropyrene isomers in soil in Japan
  Tetsuya Watanabe*1, Sumio Goto*2, Yutaka Matsumoto*3, Masaharu Asanoma*4, Teruhisa Hisayama*4, Nobuyuki Sera, Yoshifumi Takahashi*1, Osamu Endo*2, Shigekatsu Sakai*3, Keiji Wakabayashi*5
Chemical Researc in Toxicology, 13(4), 281-286, 2000.
 全国の主要な地域の土砂試料について変異原性を調査した結果,近畿地方の2箇所の公園が2年続けて他地域の2〜3倍程度の高い変異原性を示した.この土砂試料の抽出物について変異原物質の検索を行ったところ,1,3-,1,6-及び1,8-ジニトロピレンが1.12-6.81ng/g(土砂)と他地域の20-100倍も高濃度であった.これはこの公園が発電所や工業地帯に近接しているため,これら施設からの煤煙による蓄積の結果であろうと予想された.
*1 京都薬科大学, *2 国立公衆衛生院, *3 北海道環境科学研究センター, *4 名古屋市衛生研究所, *5 国立がんセンター研究所
 
6 8-Hydroxyguanine formed in human lung tissues and the association with diesel exhaust particles
  Hiroshi Tokiwa*1, Nobuyuki Sera, Yoichi Nakanishi*2, Masaru Sagai*3
Freeradical biology and medicine, 27(11/12), 1251-1258, 1999.
 外科的に摘出された肺がん患者の肺組織及びその周辺組織に沈着残留している有機物質による変異原性,その中に含まれる化学物質の定量及び炭粉様微粒子の形態を調査した.その結果,芳香族炭化水素に高感受性なSalmonella Typhimurium YG1024及びYG1029株での変異原性と芳香族ニトロ化合物の蓄積量に関連が認められた.また,炭粉様微粒子は電子顕微鏡による観察の結果,直径1.0〜1.5mmのディーゼル排気微粒子に類似したぶどうの房状であり,その蓄積量は外科手術時の肺がん患者の年齢に相関するものであった.これらの結果から人は大気環境中の浮遊粉塵を吸入し,粒径が小さな粒子は肺胞内に残留すると共に,その表面の多孔質部分に吸着した化学物質も同時に残留しているものと推測された. 
*1 九州女子大学, *2 九州大学大学院医学研究院呼吸器病体制御学, *3 青森県立保健大学
 
7 Salmonella Corvallis の分子疫学解析
  高山優子*, 村上光一, 堀川和美
平成12年度福岡県獣医師会雑誌, 49, 102-104, 2001.
 サルモネラは,食中毒の原因菌として重要であるが,サルモネラに感染しても症状を呈さず一定期間体内に保菌する個体が存在する(健康保菌者).これらのヒトは時としてサルモネラの感染源となることがある.一方,サルモネラのうち血清型Corvallisは,健康保菌者に保菌されることが多い血清型であることを,我々は明らかにしつつある.今回,S. Corvallisのヒトへの感染源を明らかにするため,鶏卵関連施設,健康保菌者等から分離した S. Corvallisを分子疫学的に比較検討した.その結果,いずれの分離株もパルスフィールド・ゲル電気泳動法を用いた DNA の制限断片長のプロファイル(パルスフィールド・プロファイル)の比較において,近似した結果を示した.このことは,ヒトへの感染源のひとつとして,鶏卵を考慮する必要を示しているものと考えた.
* 福岡県食肉衛生検査所
 
8 免疫磁気ビーズ法を用いた人便からの腸管出血性大腸菌O157検査における増菌培養の検討
  中山宏, 川端与志子*, 石橋邦博*, 堀川和美
感染症学雑誌, 74(6), 527-535, 2000.
 日常検査室において,人便から腸管出血性大腸菌O157免疫磁気ビーズ法(IMS)を使用する場合の増菌培地と培養温度について検討した.3株のO157を健常者便に添加し,5種類の増菌培地につき37℃及び42℃での培養温度についてそれぞれのO157の回収実験を行った.使用した増菌培地は,tripticase soybroth (TSB), cefixime・potassium tellurite・vancomycin添加TSB,modified EC broth (N-mEC),novobiocin添加mEC (mEC) 及びBGLBである. IMSを使用した場合のO157の回収率は,IMSを用いない場合に比べ,温度条件,増菌培地の違いに関わらず良かった.増菌培養温度は,42℃より37℃の方がいずれの菌株においても良好な検出率を示すことが分かった.5種類の増菌培地のうちN-mECは,培養温度に関わらず糞便中グラム当たり2-3個の菌量においても検出可能であった.以上の結果から,日常検査において人便からO157 を検出する場合,N-mECを用い37℃で増菌培養後,IMSを用いた検査法が勧められる.
* 福岡県田川保健所 
 
9 野菜中ダイオキシン類測定における振とう抽出法と還流抽出法の比較
  豊田正武*1, 堤智昭*1, 柳俊彦*2, 河野洋一*2, 内部博泰*2, 堀就英, 飯田隆雄
食品衛生学雑誌, 41(5), 316-320, 2000.
 野菜試料における,アセトン,ヘキサン振とう抽出法とトルエン還流抽出法のダイオキシン類抽出効率の比較を行った.抽出試験を3回行った結果,ほうれん草では,振とう抽出でPCDDs,PCDFs及びCo-PCBsが平均0.48,0.80及び7.7pg/g検出され,還流抽出では,同様の順に0.43,0.72及び7.3pg/g検出された.また,ちんげん菜では,振とう抽出でPCDDs,PCDFs及びCo-PCBsが平均0.67,0.50及び2.6pg/g検出され,還流抽出では同様の順に0.81,0.64及び2.6pg/g検出された.両抽出法の間で,抽出量に有意な差はなく,両者の野菜中ダイオキシン類の抽出効率は同様であることが判明した.
*1 国立医薬品食品研究所, *2 (財)日本食品分析センター
 
10 Covalent glutathione conjugation to cyanobacterial hepatotoxin microcystin LR by F344 rat cytosolic and microsomal glutathione S-transferases
  Shigeyuki Takenaka
Environmental Toxicology and Pharmacology, 9, 135-139, 2001.
 本論文では,マイクロシスチン(MCs)の代謝産物であるグルタチオン(GSH)抱合体の生成メカニズムについての知見について述べている.従来よりMCsのGSHまたはシステイン抱合体はマイケル反応により生成すると考えられていた.この反応は,強アルカリ条件下でのα,β不飽和のカルボニル基へのチオール基等の求核剤との共有結合である.ほとんどの報告はこの強アルカリ条件下で行われ,事実,MCsとGSHまたはシステイン抱合体を生体中からも見いだしている.そこで,生理的条件下でMCsとGSHがマイケル反応により抱合体を生成するのかどうか.また,ラットやマウスの肝臓中でMCsのGSH抱合体が見いだされているが,この化合物がグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)により生成するのかどうかについても併せて検討した.その結果,基本的な緩衝液中では,PH3〜8の間でマイケル反応によるMCsのGSH抱合体の生成は見いだせなかった.一方,ラット肝サイトゾル及びミクロゾーム中のGST反応により,MCsのGSH抱合体の生成を確認できた.このことにより,MCsのGSH抱合体はマイケル反応によるものではなく,酵素触媒的に生成するものと考えられた.
 
11 福岡県内の幹線道路近傍の大気環境及び自動車の影響
  濱村研吾, 岩本眞二, 宇都宮彬, 大石興弘, 下原孝章, 久冨啓次
福岡県保健環境研究所年報, 27, 49-53, 2000.
 福岡県内の幹線道路近傍の大気環境を把握するため,大気汚染測定車による大気汚染物質の調査とエアロゾルの調査を行い,自動車の影響について検討した.その結果,大気汚染物質ではNox,CO及びSPMで,エアロゾルではE-Cでそれぞれ自動車の影響がみられた.また,12時間自動車類交通量を1000台減少させることによりNOの平均値が0.53ppb,12時間大型車交通量を1000台減少させることによりE-Cが0.80μg/m3それぞれ減少すると考えられた.
 
12 Characterization of atmospheric air pollutants at two sites in northern Kyushu, Japan -chemical form and chemical reaction-
  Takaaki Shimohara, Okihiro Oishi, Akira Utsunomiya, Hitoshi Mukai*1, Shiro Hatakeyama*1, Jang Eun-Suk*2, Itsushi Uno*3, Kentaro Murano*1
Atmospheric Environment, 35, 667-681, 2001.
 北西の季節風が吹く冬季に,長崎県五島及び福岡県太宰府市の2地点で,ガス及びエアロゾル成分の濃度を測定した.また,カーボンを貼った直径3mmのメッシュ上にエアロゾルを捕集した後,ニトロン,テトラフェニルホウ酸ナトリウム等の試薬を蒸着し,透過型電子顕微鏡下でエアロゾルの化学形態を観察した.これらの測定から,五島では硫酸水素アンモニウム粒子によりエアロゾルは酸性化されていることを証明した.また,硝酸成分はその殆どが硝酸ナトリウムとして存在している現象が認められた.一方,太宰府でのエアロゾルは中和され,硫酸アンモニウムや硝酸アンモニウム粒子,塩化アンモニウム粒子として存在することを示唆した.さらに,これら汚染物質が大陸から九州北部に移流する過程における反応機構について論じた.
*1 National Institute for Environmental Studies, *2 Kyungpook National University, *3 Research Institute for Applied Mechanics Kyoto University 
 
13 Fate of pesticides in a shallow reservoir
  N.Itagaki*1, O.Nagafuchi, K.Takimoto*2, M.Okada*2
Water Science Technology, 42, 217-222, 2000.
 河川及び湖沼中での懸濁態農薬の挙動を明らかにするためダム湖のバックウォーター域で農薬の鉛直分布及び水平分布を調査した.18種類の農薬を分析した結果,MEP,チオベンカルブ,BPMCおよびチオベンカルブの4種類が感度よく検出された.懸濁態農薬は4種の内,イソプロチオアン以外は検出された.懸濁態農薬の河川中では沈降によって減少する.一方,溶存態の農薬はプランクトンに吸着される.
*1 (財)九州環境管理協会, *2 広島大学工学部
 
14 窒素フロー収支からみた畑地施肥量削減の効果 −茶畑の事例−
  松尾宏, 馬場義輝, 徳永隆司, 北森成治, 平田健正*1, 西川雅隆*2
福岡県保健環境研究所年報, 27, 54-59, 2000.
 従来から茶の品質に窒素施肥量が関係していることから,茶畑では多量の窒素施肥量が慣行化していた.近年,窒素施肥量の減量が行われつつあるが,茶畑周辺水域の硝酸・亜硝酸性窒素の環境基準(10mg/l)に適合するように窒素施肥量の制御が求められている.茶畑で,年窒素施肥量の異なる2年間における水収支,窒素収支の調査を行い,施肥量削減が水質に及ばす影響について検討を行った.試験地では,1997年6月-1998年5月(第1調査年),1998年6月-1999年5月(第2調査年)にかけて窒素施肥量を1192kg/haから810kg/haまで減らした.各調査年の試験地での窒素収支は概ね均衡を示した.試験地の域外に流出する窒素負荷量は年窒素負荷量に対して第1調査年の73%から第2調査年の38%に減少した.茶畑流出水の硝酸性窒素のの年平均濃度は34mg/lから29mg/lまで減少し,窒素施肥量の削減効果が認められた.
*1 和歌山大学システム工学部, *2 国立環境研究所
 
15 感潮域の環境基準点における水質の評価
  塚谷裕子, 岩本眞二, 田上四郎, 田中義人, 志水信弘, 北森成治
用水と廃水, 41(6), 20-25, 1999.
 公共用水域における河川の水質感潮域の環境基準点評価には環境基準点の水質がその代表値として扱われるが,感潮域河川の場合は潮汐作用等の影響により水質変動が大きくなることが予測され,その水質評価には多くの問題があると考えられる.そこで,感潮域河川水質の特性を明らかにするために,県内感潮域河川の環境基準点における14年間のデータからその傾向を調べた.また,北九州市内感潮河川の数地点で潮の干満に合わせて水質変動をみたところ,潮の入り方や河川流量等により様々な様相を呈しており,各河川によって固有の水質変動特性を有していることがわかった.さらに,福岡県での類型指定見直しに伴う水質予測においても,感潮域河川では海からの影響を加味した予測が必要であった.以上のことから,感潮域環境基準点では,その水質は河川からの汚濁負荷のみを反映するものではなく,種々多様な水質特性を有することを考慮して水質監視を行う必要があることが示唆された.
 
16 連続モニタによる空間放射線量率の測定と解析
  楢崎幸範
保健物理, 35(2), 187-192, 2000.
 NaI(Tl)シンチレータを用いて求めた環境放射線量率を無降水日,降水日及び降水時に分けて解析した.太宰府市における1991年4月-1995年12月の空間放射線量率は平均14.4cpsであった.無降水日の平均は14.2cpsであった.日変動は気温の日変動と逆相関が認められ,午前に高く,午後低い周期的な変動を示した.日格差は平均0.8cpsで比較的小さかった.無降水日の月変動は規則的で1月及び10-12月に高く,6-9月に低下した.月格差は平均1.9cpsであった.年変動に有意な差は認められなかった.降水日の平均は14.6cpsで,変動幅は平11.1cpsと大きかった.また,降水時の平均は15.9cpsで,最高値は24.1cpsであった.降水時の月変動は1月に高く,8月に低下した.空間放射線量率は降水と同時に急激に上昇し,降水強度,降水時間,降水間隔によって変動した.降水停止後は緩やかに減衰した.月間の平均空間放射線量率にその標準偏差の3倍の値を加えた線量率を超える特異値は年間平均2.2%で,ほとんどが降水時に認められた.また,黄砂が観測された後の降水時にも確認された.
 
17 地下公共施設におけるラドン濃度測定と線量評価 −福岡市天神地下街−
  楢崎幸範, 床次眞司*1, 真田哲也*2, 菅野信行*2, 山田裕司*1
保健物理, 35(4), 435-442, 2000.
 地下空間におけるラドンによる年間線量を推定するめ,1998年4月から1999年6月までの期間,福岡市にある天神地下街においてラドン濃度を測定した.ラドン濃度は1.9-13.6Bq/m3,算術平均で6.9±2.4Bq/m3であった.天神地下街におけるラドン濃度はわが国及び欧米諸国の屋内ラドン濃度に比べて低く,空間分布にも大きな差はみられなかった.この測定と並行して随時アクティブ法によるラドン,ラドン娘核種濃度さらにエアロゾル個数濃度も測定し,それらの変動についても調査した.これによると,ラドン濃度は深夜から午前中に高く,午後に低い日変動を示したが,終日と営業時間内での平均ラドン濃度との間に有意な差はみられなかった.なお,今回の長期間の観測では季節変動は認められなかった.ラドンとラドン娘核種との関係を示す平衡ファクタは0.21±0.10であり,エアロゾルの粒度別個数分布から推定したラドン娘核種の放射能中央径は150nm,経験式によって推定された非付着成分比は0.025であった.天神地下街に勤務する職業従事者のラドンによる年間実効線量は0.026mSv/yと推定された.
*1 放射線医学総合研究所, *2 (財)日本分析センター 
 
18 プラストロン呼吸を行う水生昆虫に対する界面活性剤の影響
  緒方健
環境毒性学会誌, 3, 83-86, 2000.
 カメムシ目及びコウチュウ目の成虫の中には体表面に空気の層を付着させて水中で呼吸するプラストロン呼吸を行う種類がいる.これらの種類について,界面活性剤の影響を調べた. 
 その結果48時間急性毒性では,プラストロン呼吸を行う水生昆虫はオオミジンコよりも界面活性剤の影響を受けやすく,中でもヒメドロムシ科の成虫は特に感受性が高かった.一方,鰓呼吸を行うヒメドロムシ科の幼虫は極めて耐性が高かった.
 
19 福岡県における都市域及びその周辺の照葉樹林の植物 4.香椎宮
  須田隆一, 笹尾敦子
福岡県保健環境研究所年報, 27, 60-68, 2000.
 都市近郊に残された照葉樹林における現時点での維管束植物相を把握するために,1998年5月から2000年7月にかけて,福岡市東区に位置する香椎宮の照葉樹林域(標高10-25m)を対象に調査を行った.その結果,シダ植物10科14種,種子植物81科240種,合計91科254種(4種の植栽種及び5種の逸出種を含む)の維管束植物を確認した.帰化植物率は7.8%であり,1975年時点における福岡県全域の帰化植物率11.5%に比べて低く,調査地内に自然植生が比較的多く残されていることを反映した値と考えられた.香椎宮の照葉樹林域は都市域に残存する森で,維管束植物の種数も比較的豊富であったので,今後も現在の状況が維持されていくことが望まれる. 
 
20 1998-99年日韓海峡沿岸県市道環境技術交流事業“河川水質生物検定共同調査”の概要と経緯
  山崎正敏
全国公害研会誌, 25, 176-184, 2000.
 日本の九州北部3県と韓国の南岸1市3道で行っている日韓海峡沿岸環境技術交流事業の一環として,河川水質の総合的な安全性を評価すると共に評価手法の確立のため,1998年-1999年の2年間“河川水質生物検定共同調査”を実施した.調査は,日本の嘉瀬川と韓国の蟾津江で実施し,生物検定試験(藻類生長阻害試験,ミジンコ急性遊泳阻害試験・繁殖阻害試験),生物相調査(珪藻類,大型底生動物)及び水質理化学的測定を行った.この結果,生物検定試験によりDO,BOD,T-N,T-P等の測定による有機汚濁状況のみでは評価できなかった河川水質の異常を検出でき,一方,生物相調査では種類数,個体数及び多様性指数値の変化を検討することにより生物相における異常を検出できた.これらの結果と水質分析結果を合わせて検討することにより,蟾津江では河川水の異常が生物相に及ぼす影響を明らかにでき,河川水質の総合的安全性の評価にあたって,本調査において行った手法は有効且つ基本的な手段の一つと考えられた. 




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