報告書 等(平成12年度,2000年度)

1 地域診断の考え方と実施に関する研究会(情報処理研修会)実施報告書
  甲原隆矢, 片岡恭一郎, 篠原志郎, 笠由美子*
平成12年度保健所地域保健活動強化事業報告書(保健福祉部企画課), 平成13年3月.
 保健所職員を対象とした保健情報処理研修会を実施し,より効果的に保健情報処理を身につけるための研修のあり方を検討した.研修のテーマは地域診断とし,参加者は19名,平成12年12月から月1回,計4回実施した.内容は保健所へ配布した地域診断データベース(CD-R)の活用に主眼を置き,「地域診断に関する考え方」「データの加工とグラフの作り方」「推測統計学の基礎」「人口動態統計解析」「地域診断演習・実習」などの講義,演習を行った.参加者に対するアンケートの結果,実施回数や参加人数などで改善すべき点が指摘されたが,研修の理解度や地域診断の実施可能性などでは良好な結果が得られた.研修のあり方については研修会の運営体制と地域診断に対する考え方の明確化という2点から検討を加えた.
* 福岡県筑紫保健所
 
2 熱媒体の人体影響とその治療法等に関する研究 −臨床所見とTEQ,PCBとの相関について−
  篠原志郎, 片岡恭一郎
平成11年度厚生科学研究生活安全総合研究研究報告書, 平成12年4月.
 油症患者の健康状況の把握及び治療方法における基礎的知見を得るための研究であるが,平成7年度から平成9年度の福岡県油症検診受診者のうち,TEQ(2,3,7,8-TCDD毒性等価量)が計算で求められた延べ247人を対象にTEQまたはPCBと臨床所見,血液・生化学検査項目との相関分析を行った.TEQまたはPCBと臨床所見ではいずれも内科,眼科,歯科の所見に比べ皮膚科所見で有意な所見が多く見られ,TEQよりPCBとの相関係数が大きい臨床所見項目が多かった.血液・生化学検査項目の中でPCBよりもTEQとの相関が大きい項目は2,3,4,5,3',4'-HxCB,CB%比,T-CHO,TG,β-LP等であった.また,2,4,5,2',4',5'-HxCB,PCQ,MCV,MCH等はTEQよりもPCBのほうが相関係数は大きいことが判明した.
 
3 熱媒体の人体影響とその治療法等に関する研究 −11年度油症患者のライフスタイル等のアンケート調査−
  片岡恭一郎
平成11年度厚生科学研究生活安全総合研究研究報告書, 平成12年4月.
 1968年のカネミ油症発生から32年を経過した今日,患者の高齢化が進む中,患者の健康のための行為や生活状態に対する健康教育や環境的支援が重要な課題になりつつある.本年度は,患者アンケート調査を実施し,従来の検診だけでは把握できない患者のライフスタイルや検診の要望等について検討した.アンケート対象者は福岡県を住所地とする607人(男288人,女319人)とした.調査票は郵送法により配布・回収した.回収された調査票は181枚,回収率は30%だった.生き生き人生のための準備には体力の増進や健康の保持が最も多く61%だった.油症による不利益は健康被害の152件(84%),次いで,精神的被害80件(44%)だった.今後は,検診の継続と共に患者の精神的ケアが重要である.
 
4 平成12年度化学物質環境汚染実態調査結果報告書
  石黒靖尚, 松枝隆彦, 桜木建治, 大野健治, 黒川陽一, 飛石和大
平成12年度環境省報告書(環境省環境安全課), 平成13年3月.
 化学物質の環境安全性確認として化学物質の環境中での残留性を調べるために化学物質の環境中濃度レベルを調査した.大気,水質,底質中の化学物質を一般化学物質及び指定化学物質として分析調査し,その結果について報告を行った.当年度の調査物質は,トリス(4−クロロフェニル)メタノール,トリス(4−クロロフェニル)メタン,ヘキサブロモベンゼン,PCB,1,4-ジオキサン,トリブチルスズ化合物,トリフェニルスズ化合物,クロロホルム,四塩化炭素,1,2-ジクロロエタン及び1,2-ジクロロプロパンであった.
 
5 福岡県におけるHIV-1の分子疫学
  千々和勝己, 石橋哲也, 山本政弘*1, 柏木征三郎*2
厚生科学研究,エイズ対策研究事業,HIV感染症の疫学研究,平成11年度研究報告書, 371-373, 平成12年3月.
 今年度は,新たにHIV-1感染者15名について,リンパ球中のHIV-1プロウイルスDNAのenvまたは gag領域の塩基配列を決定し,分子系統樹解析を行ってサブタイプを決定した.その結果,福岡県においては前年度までには 1例だけ確認されていた,日本人のサブタイプE感染例が新たに2例見つかった.この2例はいずれも異性間性的接触による感染例で,福岡地区においても,関東地区と同様にサブタイプEが増加傾向にあることが明らかになった.なお,その他の13例は全てサブタイプBであった.一方,HIV-1のウイルス分離では,本年度は新たに 4株を分離し,これまでの分離株の合計は,145株となった.
*1 国立病院九州医療センター, *2 九州大学医学部(現国立病院九州医療センター)
 
6 医療用医薬品の品質評価に係る公的溶出試験(案)の妥当性検証等報告書(平成10年度−平成11年度)
  毛利隆美, 森田邦正, 中川礼子, 飯田隆雄
厚生省報告書(厚生省医薬安全局), 平成12年3月.
 平成10年度及び11年度に内服用医薬品の溶出試験法策定事業である厚生省医薬安全局の“医療用医薬品の品質評価に係る公的溶出試験(案)の妥当性検証等”の事業を実施した.本事業は,平成9年3月以前に承認された溶出試験規格が設定されていない経口医薬品を対象としている.平成10年度は,抗生物質及び脳循環代謝薬の2成分3製剤の医薬品についておこなった.平成11年度は,本態性高血,狭心症,脳梗塞・脳出血の後遺症等の血液循環系の4成分18製剤並びに胃炎,胃潰瘍,十二指腸潰瘍等の消化器系の6成分10製剤を対象医薬品とした.いずれも溶出試験(案)に適合し,4液パターンも医薬品申請メーカーと差は認められなかった.両年度,当県で検討した医薬品11成分31製剤中で7成分12製剤の公的溶出試験法が日本薬局方外医薬品規格第3部に収載された.
 
7 平成12年度厚生労働省委託研究報告書“症例にみる血中ダイオキシン類濃度”
  飯田隆雄, 竹中重幸, 平川博仙, 中村又善
平成12年度厚生労働省委託研究報告書, 2001.
 我々はごみ焼却施設において清掃業務に従事していた労働者の血液および面胞試料についてダイオキシン類の測定を行った.油症患者および台湾のYucheng患者は,PCDFsを主な原因物質としPCDDsやPCBsの影響も加わったダイオキシン類の複合的汚染による大規模な人体被害例である.今回の分析結果をこの油症患者,Yucheng患者ならびに一般人の血中ダイオキシン類と比較し,考察を加えた.大阪の1例では,血中ダイオキシン類濃度は1.6pg-TEQ/g (418pg-TEQ/g 脂肪)であった.面胞中ダイオキシン類濃度は43 pg-TEQ/g (474pg-TEQ/g 脂肪)であった.一方,長崎の2例では,血中ダイオキシン類濃度は0.16pg-TEQ/g (31pg-TEQ/g 脂肪)および0.19pg-TEQ/g (38pg-TEQ/g 脂肪)であった.この3例を比較すると,大阪の例は長崎の2例に比べ,約10倍高い濃度であった.これらの値は,一般人の平均値 33pg-TEQ/g 脂肪と比較すると,長崎の2例のダイオキシン類濃度は一般人と同程度であり,大阪の1例は一般人の約13倍であった.発症後27年を経過した典型的な油症患者の血中ダイオキシン類濃度は平均215pg-TEQ/g 脂肪であり,大阪の1例の場合は油症患者の約2倍の濃度であった.発症後20年を経過した台湾のYucheng患者の場合が平均418 pg-TEQ/g 脂肪であるから,これと比較すると,ほぼ同程度の濃度レベルであった.さらに,大阪の事例の血中1,2,3,4,7,8-HxCDFと1,2,3,6,7,8-HxCDFの濃度比は,一般人のものとも異なっていた.明らかにダイオキシン類による健康被害を被っている油症患者やYucheng患者では,1,2,3,4,7,8-HxCDFと1,2,3,6,7,8-HxCDFの濃度比はそれぞれ,約3と8である.一般人では約1である.このことから,被験者のおかれたバックグラウンドがこの濃度比に大きく影響していると推測される.この比が疾病につながる生体指標となりうるかどうかについてはさらに今後の検討が必要である. 
 
8 ダイオキシン類の食品経由摂取量調査研究報告書(平成11年度)
  豊田正武*1, 飯田隆雄, 佐々木久美子*1, 中川礼子, 堀就英, 飛石和大, 松田りえ子*1, 堤智昭*1, 内部博泰*2, 柳俊彦*2
厚生省報告書, 平成12年11月28日.
 全国7地区で集めたトータルダイエット試料についてダイオキシンを分析し,平均的な食生活において食品から摂取されるダイオキシンの量を推計した.平均値は体重あたり2.25ピコグラム(範囲1.19-7.01ピコグラム)であり,平均的な食生活をしている日本人のダイオキシン摂取量は耐用1日摂取量を下回っていると考えられる.国内で購入した個別食品94種288検体についてダイオキシン汚染状況を調査した.また,葉菜類におけるダイオキシン汚染機構並びに調理によるダイオキシン濃度の消長を調べた.
*1 国立医薬品食品衛生研究所, *2 (財)日本食品分析センター
 
9 ダイオキシン類の排泄促進に関する研究
  森田邦正, 飛石和大
平成12年度厚生科学研究費補助金,健康安全確保総合研究分野,生活安全総合研究事業,総括研究報告書, 1-42, 2001.
 食品経由のダイオキシン類を消化管で吸収抑制し,糞中へ排泄促進させる実験を5種類の海藻を用いて行った結果,わかめ,のり,ひじき,こんぶ及び青のりは,食品経由のダイオキシン類を,消化管内で吸収抑制し糞中へ排泄促進し,体内蓄積を防ぐ作用があることが明らかとなった.体内から消化管内へ排出されたダイオキシン類を再吸収抑制し,糞中へ排泄促進させる実験を行った結果,わかめ,のり,ひじき,こんぶ及び青のりは,体内から直接消化管内に排出されたダイオキシン類を,消化管経由で体外に排泄促進する作用があることが明らかとなった.海藻類は,毒性が高いダイオキシン類の排泄速度を2-3倍速め,人の生物学的半減期を1/2-1/3に短縮する効果があることが示唆された.本研究結果より,ダイオキシン類による人体汚染を未然に防止し,ダイオキシン類による健康影響を防止するための食生活の方法として,クロロフィルと食物繊維が豊富な海藻類を多く摂ることが重要である.
 
10 ダイオキシン類の排泄促進に関する研究
  森田邦正, 飛石和大
厚生科学研究費補助金,健康安全確保総合研究分野,生活安全総合研究事業,平成10年度−平成12年度総合研究報告書, 1-52, 2001.
 ダイオキシン類による健康影響を未然に防ぐ食生活の方法として,クロロフィル含有量の多い緑色野菜類(小松菜,みつば,ほうれん草等)や海藻類(わかめ,ひじき,こんぶ,のり等)及び食物繊維含有量の多い穀類,豆,いも類等を多く摂ることが重要である.なお,本研究における10%野菜食及び海藻食は日本人(体重50kg)の摂取量に換算すると,40g/day(乾燥物)に相当する.また,0.01%クロロフィル食は人の摂取量に換算すると0.04g/dayになり,これを新鮮なほうれん草からの摂取量に換算すると,約40g/day(生)に相当する.緑色野菜類や海藻類は,毒性が高いダイオキシン類の排泄速度を2-4倍速め,人の生物学的半減期を1/2-1/4に短縮する効果があることが示唆される.このことから,ダイオキシン類の排泄促進に効果のあるクロロフィルや食物繊維が多い食品を組み合わせて摂ることが大切である.
 
11 高活性炭素繊維を用いた沿道排ガス削減技術に関する調査報告
  下原孝章, 中村又善, 力寿雄, 大石興弘, 濱村研吾, 白濱升章*, 円城寺隆志*, 持田勲*
公害健康被害補償予防協会委託業務, 2001.
 高活性炭素繊維を用いた沿道大気の窒素酸化物削減技術に関する研究を実施した.数種の炭素繊維の中でもピッチ系及びパーアクリロニトリル(PAN)系の炭素繊維が,二酸化窒素窒に対して高い吸着能を持つことが分かった.特に,ピッチ系炭素繊維は1100℃焼成,PAN系炭素繊維では800℃焼成により,高い吸着活性が認められた.しかし,戸外実験の結果から,PAN系炭素繊維は大気湿度の影響により,その吸着活性が少し低下することが分かった.一方,ピッチ系炭素繊維は,湿度等に対する妨害要因は少なかった.これら炭素繊維は,何れも戸外で長期間,その活性を長時間維持できることが分かった.さらに,ピッチ系炭素繊維では,1L/分の速い採気流速であっても,二酸化窒素以外に,二酸化硫黄,トルエン,キシレン類,トリメチルベンゼン及び高級脂肪族炭化水素類についても同時に捕捉されることが分かった.
* 九州大学機能物質科学研究所
 
12 1998年−99年日韓海峡沿岸県市道環境技術交流事業“河川水質生物検定共同調査”報告書
  山崎正敏, 杉泰昭, 緒方健, 石崎修造*1, 植松京子*2, 庄野節子*2, 松本高次*2, 木原幸喜*2, 大窪かおり*2, 北川信吉*2, 野口秀憲*2, 鄭在媛*3, 梁守仁*4, 梁正高*4, 金耕洙*4, 李相祚*5, 李祥僖*5, 玄根卓*6, 文奉?*6(日韓海峡沿岸環境技術交流協議会)
1-230, 平成12年12月.
 日本の九州北部3県と韓国の南岸1市3道で行っている日韓海峡沿岸環境技術交流事業の一環として,河川水質の総合的な安全性を評価すると共に評価手法の確立のため,1998年-1999年の2年間“河川水質生物検定共同調査”を実施した.調査は,日本の嘉瀬川と韓国の蟾津江で実施し,生物検定試験(藻類生長阻害試験,ミジンコ急性遊泳阻害試験・繁殖阻害試験),生物相調査(珪藻類,大型底生動物)及び水質理化学的測定を行った.この結果,生物検定試験によりDO,BOD,T-N,T-P等の測定による有機汚濁状況のみでは評価できなかった河川水質の異常を検出でき,一方,生物相調査では種類数,個体数及び多様性指数値の変化を検討することにより生物相における異常を検出できた.これらの結果と水質分析結果を合わせて検討することにより,蟾津江では河川水の異常が生物相に及ぼす影響を明らかにでき,河川水質の総合的安全性の評価にあたって,本調査において行った手法は有効且つ基本的な手段の一つと考えられた.
*1 長崎県衛生公害研究所, *2 佐賀県環境センター, *3 釜山広域市保健環境研究院, *4 全羅南道保健環境研究院, *5 慶尚南道保健環境研究院, *6 濟州道保健環境研究院




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