論文等発表(平成16年度,2004年度)

1 関節腔内注射による黄色ブドウ球菌集団感染事例−福岡県
  財津裕一*1,堀川和美,野田多美枝,田代律子*2
病原微生物検出情報,25(10), 8-10, 2004
2004年3月福岡県内の病院で,変形性関節症患者に対する関節腔内注射により,黄色ブドウ球菌の集団感染が発生した.注射の準備及び施術に関与した医師及び看護師について調査した結果,2名の看護師が準備した注射液を使用した患者のみが発症していることが判明した.さらに関係者の鼻腔,手指等から検出された黄色ブドウ球菌と患者から検出された黄色ブドウ球菌についてパルスフィールドゲル電気泳動によるDNA解析を行なった.その結果,2名の看護師がそれぞれ関与した患者とDNAパターンが一致していた.疫学及び細菌学的調査の結果から,関節腔内注射調整時に黄色ブドウ球菌が汚染したことが判明した.この治療は一般医療機関で広く行なわれており,対象者も多く,再発防止の参考とするため概要を報告した.
*1 宗像保健福祉環境事務所,*2 田川保健福祉環境事務所
 
2 Evaluation of Clastogenicity of Isoprothiolane and Pyroquilon Using The Mouse Micronuclei Test
  O. Nagafuchi*1, K. Murakami, M. Ukita*2
Toxicol. Environ. Chem., 86, 99-102, 2004
マウス末梢血小核試験を用いて,Isoprothiolane 及び Pyroquilon の遺伝子損傷性の有無を検討した.用いた試料はこれらの化学物質の市販試薬,およびそれらを精製したものである.その結果,市販試薬を投与したマウスでは,末梢血中の小核を有する網状赤血球数が,コントロールと比較し有意に増加したのに対し,精製した試料では,小核を有する網状赤血球の増加は認められなかった.このことから,Isoprothiolane 及び Pyroquilon の遺伝子損傷性に関しては,この試験系では陰性であり,毒性試験に用いる試料の純度は,できうる限り高純度のものを用いなければならないことが再確認された.
*1 千葉科学大学,*2 山口大学
 
3 Association between chemical properties and oxidative damage due to nitorophenanthrenes and their related compounds in primary rat hepatocytes
  Nobuyuki Sera, Hiroshi Tokiwa*1, Hideo Utsumi*2, Shigeki Sasaki*2,Kiyoshi Fukuhara*3 and Naoki Miyata*4
Polycyclic aromatic compounds, 24(4-5), 487-500,
2004
標的臓器が肺であることが明らかとなっている発がん物質ニトロフェナンスレン及びその誘導体をラット初代肝臓細胞に接種して酸化的損傷度を測定した.その結果,フェナンスレン誘導体による酸化的損傷度の指標の1つである8-hydroxydeoxyguanosine(8-OH-dG)の生成は,1電子還元電位,最低空軌道(LUMO)などの化学的データと関連を示した.このことから,フェンナンスレン誘導体による8-OH-dGは置換しているニトロ基の還元的代謝のされやすさと相関することが示唆された.
*1 九州女子大学,*2 九州大学,*3 国立医薬品食品衛生研究所,*4 名古屋市立大学
 
4 甲状腺末を含有する健康食品中の3,3',5-トリヨードチロニン及びチロキシンのHPLC分析法
  森田邦正,毛利隆美,中川礼子
福岡県保健環境研究所年報,第31号,61-65,2004
逆相系の高速液体クロマトグラフを使って,甲状腺末を含有する健康食品中の3,3',5-トリヨードチロニン及びチロキシンの分析法を検討した.健康食品はメタノール及び水/メタノール(1:1)を用いて洗浄後,Pronaseを用いて加水分解した.3,3',5-トリヨードチロニン及びチロキシンは2%アンモニア水メタノール溶液で抽出し,固相抽出法(Bond Elut C18 カートリッジ)を用いてクリーンアップした.高速液体クロマトグラフはカラムにInertsilODS-3 (4.6 x 150 mm, 5 μm)を,移動相に水/メタノール/リン酸(500:500:1, v/v)を用い,測定波長230 nmで分析した.試料をメタノール及び水/メタノールを用いて洗浄することにより共存物質を効果的に除去することができた.また,Bond Elut C18 カートリッジ処理することにより,さらに共存物質を除去することができた.本法による健康食品からの3,3',5-トリヨードチロニン及びチロキシンの回収率は70〜80%,定量下限値は 3,3',5-トリヨードチロニンが0.8 μg/g,チロキシンが1.4 μg/gであった.
 
5 健康食品中のリオチロニンナトリウム及びレボチロキシンナトリウムのHPLC分析法
  森田邦正,毛利隆美,中川礼子
福岡県保健環境研究所年報,第31号,66-68,2004
逆相系の高速液体クロマトグラフを使って,健康食品中のリオチロニンナトリウム及びレボチロキシンナトリウムの分析法を検討した.健康食品中のリオチロニンナトリウム及びレボチロキシンナトリウムは0.1%酢酸メタノールを用いて抽出し,固相抽出法(Bond Elut Certify カートリッジ)を用いて,2%アンモニア水-メタノール溶液でクリーンアップした.高速液体クロマトグラフはカラムにInertsilODS-3 (4.6 x 150 mm, 5 μm)を,移動相に水/アセトニトリル/酢酸(650:350:5,v/v)を用い,測定波長230 nmで分析した.試料抽出液をBond Elut Certify カートリッジ処理することにより効果的に共存物質を除去することができた.本法による健康食品からのリオチロニンナトリウム及びレボチロキシンナトリウムの回収率は77〜82%,定量下限値は リオチロニンナトリウムが0.5 μg/g,レボチロキシンナトリウムが0.7 μg/gであった.
 
6 ダイオキシン類データベースの構築と汚染状況の解析
  岩本真二,松枝隆彦,黒川陽一,大野健治,飛石和大,桜木建治
環境化学,Vol.14,No.4,805-815,2004
ダイオキシン類のデータを集約し,解析するためにデータベースを構築した.データベースは,採取地点,採取日時などの付帯項目,118異性体項目,同族体項目,TEQ異性体濃度などで構成されており,過去の調査で分析された700サンプル以上が収められている.このデータベースから解析したいグループを抜き出し,異性体パターン,同族体パターン,選択した成分のレーダーチャート,TEQ構成などのグラフを作成する.また,ダイオキシン類の土壌,大気などの汚染地域分布をみるために県地図の上に円グラフで表示し,その違いを観察する.また,統計ソフト,ケミカルマスバランス(CMB)計算ソフトを使い,発生源種の推定や寄与率の予測計算を行う.このデータベースを基に,重回帰分析,CMB法で発生源の予測を行ったところ,おおむね似た結果となり,大気では廃棄物焼却炉が60%以上,土壌・河川水ではCNP,PCPの農薬が60%以上寄与していることが推定できた.
 
7 Preparation of activated carbon fibers from polyvinyl chloride
  W.M.Qiao*1, S.H.Yoon*1, Y.Korai*1, I.Mochida*1, S. Inoue*1, T.Sakurai*2, T.Shimohara
Carbon, 42, 1327-1331, 2004
廃ポリ塩化ビニル(PVC)プラスチックは塩素成分を含むため,焼却時にダイオキシンを発生すると言われている.本研究では,PVCを2段階加熱処理することで,ピッチから効果的に脱塩素化する方法を検討した.その結果,脱塩素化した軟化点218℃のピッチを調整した.調整したピッチは紡糸し,炭化,賦活の処理を経て,高活性炭素繊維(ACF)を製造した.製造したACFについてSO2の浄化能について予備試験した結果,従来のACFに匹敵する浄化能を有することが分かった.
*1 九州大学,*2 リサイクル総合研究センター
 
8 Reaction of NO2 in air at room temperature with urea supported on pitch based activated carbon fiber
  N.Shirahama*1, I.Mochida*1, Y.Korai*1, K.H.Choi*1, T.Enjoji*2,T.Shimohara, A.Yasutake*3
Applied Catalysis B: Environmental, 52, 173-179, 2004
戸外大気におけるNO2の還元反応について検討するために,室温で,尿素を担持したACFに50〜1000ppmのNO2を通気する実験を行なった.その結果,NO2は還元,分解され,窒素ガスに変換されることが確認できた.ACF上に担持した尿素は,僅かに消費される反応であることが分かった.この時,導入するガス中の酸素濃度は,NO2の還元,分解能に影響を及ぼしていなかった.相対湿度の上昇は,ACF上でNO2を硝酸に酸化させやすくするため,NO2の還元,分解の寿命を低下させることが分かった.
*1 九州大学,*2 佐賀県工業技術センター,*3 三菱重工 長崎研究所
 
9 採水用器材に由来する鉛汚染事例
  石橋融子,松尾 宏,中村又善,笹尾敦子,上田 修*
福岡県保健環境研究所年報第31号,69-73,2004
海水試料から環境基準値(0.01mg/l)を超える鉛が検出された.鉛が基準値を超過した原因を検討した結果,採水を行った委託業者が使用していたハイロート採水器の台座の中のおもり(鉛が使用されていた)が汚染源であることがわかった.
* 福岡県筑紫保健福祉環境事務所
 
10 Radon and Thoron Exposures for Cave Residents in Shanxi and Shaanxi Provinces
  S.Tokonami*1, Q.Sun*2, S.Akiba*33, W.Zhuo*1, M.Furukawa*1, T.Ishikawa*1, C.Hou*2, S.Zhang*2, Y.Narazaki, B.Ohji*1, H.Yonehara*1 and Y.Yamada*1
Radiation Research, 162, 390-396, 2004
高放射線地域である中国Shanxi及び Shaanxi省にある黄土台地の202戸の洞窟住居にて自然放射能の測定を行った.室内ラドン濃度は19〜195 Bq m-3で,幾何平均値は64 Bq m-3,室内トロン濃度は10 〜 865 Bq m-3で,幾何平均値は153 Bq m-3であった.室内の平衡等価トロン濃度は0.3 〜 4.9 Bq m-3で,幾何平均値は1.6 Bq m-3であった.空間γ線線量率の平均値は,室内で140nGy h-1,室外で110nGy h-1であった.米国National Cancer Instituteの調査では当地の肺ガンリスクをトロンは測定せずに,ラドンレベルの上昇に伴い増加したと結論付けているが,今回の研究からトロンの影響が大きく,その重要性が軽く見積もられた可能性を指摘した.
*1 放射線医学総合研究所,*2 放射線防護研究所,*3 鹿児島大学
 
11 Association of manganese effluent with the application of fertilizer and manure on tea field
  Yuko Ishibashi, Hiroshi Matsuo, Yoshiteru Baba, Yoshitaka Nagafuchi, Toshihiko Imato*1 and Tatemasa Hirata*2
Water Research 38, 2821-2826, 2004
茶畑を起源とする湧水でマンガン濃度が1.1-3.5mg/lと高い値を示した.茶畑からのマンガン流出量は,38,000g/ha(1997年6月-1998年5月),4100g/ha(1998年6月-1999年5月)と推計された.また,梅雨期にマンガン流出量が多かった理由は,梅雨期前に肥料を施肥することにより土壌が酸性化し,土壌中の溶解性マンガンが増加するためであると考えられた.
*1 九州大学,*2 和歌山大学
 
12 博多湾におけるマクロベントスを考慮した水質解析
  熊谷博史,山崎惟義*1,渡辺亮一*1,藤田健一*2
博多湾湾奥で優占種であるホトトギスガイをマクロベントスコンパートメントとして組み込んだ生態系モデルを作成した.本モデルはマクロベントスを関数のみとして扱っている従来のモデルよりも,貧酸素水塊の挙動を詳細に把握することが可能であった.このことは,底質中に生息しているマクロベントスは,貧酸素水塊の挙動を予測する生態系モデルを構築する際の無視できない重要な因子であることを示唆していた.

*1 福岡大学,*2 九州環境管理協会

 
13 安定型産業廃棄物最終処分場の熱赤外線による監視手法の検討
  土田大輔,小宮哲平*,中山裕文*,高橋浩司,宇都宮彬,島岡隆行*
都市清掃,Vol.57,No.262,pp.588-595,2004
安定型産業廃棄物最終処分場において,混入した有機物に起因する発熱現象を検出することを目的として,熱赤外線画像装置を用いた地表面温度調査を行った.まず,屋外予備実験を行い,熱赤外線画像の撮影条件を検討した結果,地表面温度の調査に適した時間帯は夜明け前であることが明らかになった.次に,安定型処分場に立ち入り,熱赤外線画像の撮影を行った結果,埋立地内部の有機物分解反応による発熱箇所を,地表面温度分布から推測することが可能であった.また,ヘリコプターにより処分場全体を上空から撮影する上空調査を行ったが,日射の影響が大きかった.これらの結果から,熱赤外線画像装置による調査方法が,処分場における有機物分解を監視する方法として有効であることが明らかとなった.
* 九州大学
 
14 竹炭を混合したコンクリートの水質浄化特性
  土田大輔,石橋融子,徳永隆司*1,世利桂一*2,倉富伸一*3
全国環境研会誌,Vol.29,No.2,pp.102-106,2004
竹炭を混合した河川護岸用コンクリートブロックを作製した.このコンクリートブロックの水質浄化特性を,コンクリートブロックから溶出する溶解性物質と,コンクリートブロック表面に付着した微生物による有機物分解能の両面から考察した.コンクリート試験片による室内での浸漬実験の結果,竹炭混合コンクリートからは,竹炭由来のカリウムイオンや,使用した特殊セメント由来のアルミニウムイオンなどが,竹炭の入っていない普通コンクリートに比べて多く溶出した.また竹炭混合コンクリートは,普通コンクリートに比べ,六価クロムの溶出が少なく,吸着実験の結果,竹炭に吸着されたことがわかった.試験片を酸化池に3ヶ月間沈めて微生物を付着させた結果,普通コンクリートの約3倍量の微生物が付着した.この付着微生物量の違いにより,竹炭混合コンクリートのBOD除去速度は,普通コンクリートより大きかった.
*1 福岡県リサイクル総合研究センター,*2 福岡県工業技術センターインテリア研究所,*3 くら有限会社
 
15 土壌細菌叢評価法の構築 −廃棄物処分場の硫化水素ガス発生対策のために−
  谷口初美*1,福田和正*1,王 岩*1,山内和紀*1,市原剛志*1,水野康平*2,石松維世*1,世良暢之,濱崎光宏,高橋浩司,堀川和美
産業医科大学雑誌,26 (3),349-367,2004
廃棄物処分場や不法投棄現場においてガス発生が多発している.硫化水素ガス発生予測の基礎となる土壌細菌叢の動態を量的,質的に評価するための遺伝子工学的検査法を構築することを目的に,従来の染色法,培養法による検証とともに,実験手法の確立を行った.硫化水素ガス発生に関与するイオウの酸化または還元菌群の頻度を調べた結果,不法投棄現場では無芽胞硫酸還元菌とイオウ酸化細菌群が高頻度に検出され,廃棄物処分場では有芽胞硫酸還元菌やClostridium属菌が多く検出された.遺伝子工学的検査法が土壌の微生物叢評価および処分場のガス発生予知に有用であることが示唆された.

*1 産業医科大学,*2 北九州工業高等専門学校



研究業績一覧(平成16年度,2004年度)へ    直前のページへ戻る