福岡県保健環境研究所
Fukuoka Institute of Health and Environmental Sciences
092-921-9940
〒818-0135 福岡県太宰府市大字向佐野39
 
トップページ 研究所紹介 研究概要 年 報 啓発資材 リンク集 アクセス
 トピックス トピックス一覧へ戻る
「水銀に関する水俣条約」について 環境科学部 廃棄物課 主任技師 平川周作
 水銀に関する水俣条約とは
 水銀に関する水俣条約は、「水銀及び水銀化合物の人為的排出から人の健康及び環境を保護すること」 を目的として、2013年10月の外交会議 (熊本) において2013年10月に採択されました。この条約では、 鉱山からの水銀産出、水銀添加物製品、水銀を使用する製造工程、水銀の大気への排出や水・土壌への 放出、水銀廃棄物の管理など様々な規制が定められています。
 既に、バーゼル条約やロッテルダム条約では、水銀その他の有害物質の移動・処分・取引に関する 取り決めがされています。しかしながら、水銀の産出から使用、廃棄に至るまでの水銀のライフサイクル 全体にわたって規制を掛ける条約は、「水銀に関する水俣条約」が初めてとなります (図1)。また、 一つの有害物質に限って条約が制定されるのも初めてのことです。
 本条約は50カ国が締結してから90日後に発効することとなっています。
図1 水銀の国際的規則にかかわる条約
※条約のポイント
  • 各締結国の条約発効後、水銀産出の新規鉱山開発は禁止
  • 締結国への水銀の輸出は、
     ① 条約で認められた用途に限定
     ② 環境上適正な保管に限定
  • リストに掲載された水銀添加製品は、2020年までに製造・輸出入を禁止
  • 新設施設、既存施設を対象に大気への排出削減対策を実施
  • 金採掘現場での水銀使用・排出の削減(可能であれば廃絶)
図2 水銀の大気排出量
水銀の特徴
 水銀は、常温・常圧の環境で液体である唯一の金属です。
 揮発性が高く、様々な排出源から環境に排出され、地球上に普遍的に存在します。 他の金属と混ざりやすい性質を利用して、小規模金採掘の精錬や歯の詰め物などに 用いる合金 (アマルガム) として使われてきました。その他にも、水酸化ナトリウム の製造工程、水銀柱血圧計、水銀体温計、蛍光灯、電池など、水銀が利用されている 製品は多々あります。
 なお、有機水銀は生物に蓄積しやすい性質があり、食物連鎖の上位にある生物ほど 高い傾向があります。

水銀の利用・排出の状況
 先進国では水銀の使用量が減っていますが、途上国では依然として利用されている 状況にあります。
 環境中への排出として、揮発性が高いことから、特に大気への排出が問題となって います。国連環境計画 (UNEP) によると、2010年に大気中に排出された水銀の量は、 世界全体で約2,000トンにのぼっています (図2)。
 排出源をみると、小規模金採掘、石炭などの化石燃料燃焼の割合が多いことがわかります。
 アジア地域からの排出が約半分を占めており、次いでアフリカ、中南米となっています。 最大の排出国は中国で、世界の約3割を占めるといわれています。

 これからの課題
 日本では、使用済み電池や蛍光灯、非鉄金属精錬の汚泥などから、水銀の回収・リサイクル が行なわれていますが、多くは国外へ輸出されています。
 水銀に関する水俣条約によって輸出が規制されるようになると、回収された水銀は行き場に 制限を受けるようになります。行き場がなくなった水銀は、長期保管されることが考えられます。 海外の事例として、ドイツでは硫化水銀に加工した後、地下の廃岩塩鉱に保管され、アメリカでは 金属水銀のまま密閉した容器に入れて地上屋内施設で保管されています。
 日本においても、水銀を含む廃棄物の回収、処分、保管、適正な管理の方法やそれらに係る 費用の負担などの課題について、検討が進められています。一方、排出量の多い途上国で水銀 対策を実施するための資金・技術支援なども重要な課題であり、日本がもつ技術や経験を生かし、 世界的に貢献していくことが求められています。

【用語解説】
 バーゼル条約 (1989年採択・1998年発効)
 正式名称は、「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」です。 1970年代、欧米諸国により有害な廃棄物がアフリカなどの開発途上国に放置される環境汚染が問題と なりました。これを受けて1989年スイスのバーゼルで制定された条約です。
 ロッテルダム条約 (1998年採択・2004年発効)
 正式名称は、「国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報 に基づく同意の手続きに関するロッテルダム条約」です。先進国で使用禁止または制限されている 有害な物質や駆除剤が、開発途上国にむやみに輸出されることを防ぐために設けられた条約です。

【参考文献】
 環境省:水銀規制に向けた国際的取組「水銀に関する水俣条約」について
http://www.env.go.jp/chemi/tmms/pdf/full.pdf
 外務省:わかる!国際情勢 水銀被害の撲滅に向けて〜水銀に関する水俣条約〜
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol106/index.html
 厚生労働省:魚介類に含まれる水銀について
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/suigin/index.html
 UNEP Global Mercury Assessment 2013
http://www.unep.org/PDF/PressReleases/GlobalMercuryAssessment2013.pdf

  ©2013 Fukuoka Institute of Health and Environmental Sciences.