福岡県保健環境研究所
Fukuoka Institute of Health and Environmental Sciences
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外来種とは?
 外来種とは意図的・非意図的にかかわらず、自然分布域を越えて人の手で持ち込まれた生物のことを指します。したがって、日本国外のみならず、国内他地域から福岡県内に持ち込まれたような場合も外来種となります。外来種のうち、特に生態系や農林水産業、人体に対する悪影響が大きいものを侵略的外来種として定義し、その中でも外来生物法に基づき「特定外来生物」に指定された外来種については、行政が主体となって積極的な対策が求められています。福岡県内では2017年に特定外来生物であるヒアリが相次いで発見され話題になりました。幸い2018年7月現在では県内での定着は確認されていませんが、ここではヒアリの特徴と対策について簡単に解説をします。
ヒアリの特徴
 ヒアリはハチ目アリ科の小昆虫で、いわゆる蟻(あり)です。英名は「Fire Ant」であり、和名のヒアリはこの英名を直訳した「火蟻」に由来します。原産地は南アメリカ大陸の熱帯域ですが、川岸の土が露出したいわゆる荒地のような環境を好む種とされています。したがって、原産地では熱帯雨林などに生息する多くのアリ類と比べて、それほどメジャーな種ではないようです。しかしながら、こうした荒地環境を好む生態から、港湾や都市域の「荒れた」環境との相性が良く、物流が盛んになるにつれて世界中で外来種として定着・増殖が確認されるようになりました。
 特定外来生物としてヒアリが指定された背景としては、まず人体への悪影響が挙げられます。アリはハチの仲間であるため、一部のアリはハチと同様の毒針を持っています。そしてヒアリも毒針を持っています。ヒアリの毒成分はピペリジンアルカロイドを主成分とし、複数のタンパク質を含有する複雑なものであるとされています。本種の毒性そのものは身の回りでみられる在来のハチ類と比べてもそれほど強いものではなく、1個体あたりの毒量も多くありません。しかし、公園等の身近な場所に営巣すること、人が巣を刺激すると極めて多数の個体が出てきて襲ってくるという攻撃的な性質を持つこと、アナフィラキシーショック(急性のアレルギー反応)を引き起こす可能性があることから、人体に対する危険性は身近なハチ類より高いものと考えられます。過剰におそれる必要はありませんが、かなり厄介な性質であることは間違いありません。
 このほかにも、農作物を食べることによる直接的な農業被害、アブラムシ等の農業害虫を保護することによる間接的な農業被害、家畜に対する悪影響なども知られています。もし日本国内に定着し増加するようであれば、大きな混乱と問題を引き起こす可能性が高いでしょう。


図1.上から見たヒアリ(左)と横からみたヒアリ(右)

ヒアリの対策
 ヒアリが日本国内で初めて発見されたのは2017年6月ですが、同年の7月には福岡県内でも発見されており、2018年になっても継続して日本各地で発見の報告があります。ヒアリが昨年から急に国内で発見されるようになった背景として、中国南部での個体数増加に伴い、これらの地域から船により運ばれるコンテナへの混入個体数が増えたことが挙げられています。幸い、現在まで日本国内での定着事例はありませんが、物流の状況に変化はないため今後も定着リスクの高い状況が継続するものと思われます。
 ヒアリの侵入経路としては海外から輸送されるコンテナへの混入が最も可能性が高いものと考えられるため、その対策としては港湾におけるコンテナのチェックが最も効果的です。しかしながら、日々膨大な量が輸送されてくるコンテナを全てチェックすることは現実的には困難な部分が多いようです。また、最近ではこうした港湾地帯から運搬されたコンテナに混入したと考えられる内陸部の事業所等での発見事例もあります。したがって、定着を阻止する上での重要な対策としては、これらの物流の拠点となりうる場所で、定着の有無を常に確認する体制の構築が重要です。定着の初期であれば個体数も少なく、早期発見により早期駆除を行えば、大きなコストをかけずにその後の増殖が防げるからです。
 ヒアリの定着・侵入の監視において、正確な同定は必要不可欠です。アリ類は小型の種が多く、区別は大変難しい部類ですが、ヒアリの可能性が高い種か否かの判断は比較的容易です。福岡県では2017年8月に県保健福祉環境事務所と市町村の担当者を対象にした簡易スクリーニングマニュアルを作成しました。ここでは、(1)体長が2〜8mmである、(2)触角が10節ある、(3)触角の先端2節が棍棒(こんぼう)状である、(4)前伸腹節に棘(とげ)がない、(5)腹柄節が2節ある、の5項目として整理し、このうち3項目以上当てはまるようであれば当研究所の方で詳細に同定を行うというものです。これにより疑わしい種の定着を見逃さずに、チェックできることが期待されます。
 一方で、普段生活している時にはどのようなことに注意すれば良いのでしょうか?身の回りには在来のアリ類も数多く生息しており、これらのアリ類は生態系を構成する生物として重要な役割を果たしています。一部の研究者は、在来のアリ類が豊富にいることはヒアリ等の外来アリの初期の定着をある程度防ぐのではないかという仮説を提唱しています。したがって、アリだからといってむやみに薬剤などで殺すことは避ける必要があります。また、疑わしいアリがいたとしても、生きた個体を素手で触るのは刺される可能性もあり望ましくありません(死んだ個体も針が刺さるため注意が必要です)。殺虫剤などで殺して、潰さないようにして虫体を確保し、最寄りの県保健福祉環境事務所や市町村に相談してください。繰り返しになりますが、ヒアリを過剰におそれる必要は全くありません。今後定着しないよう様々な取り組みが進められている状況ですので、冷静かつ科学的に対応していく必要があります。


参考資料

[1] 福岡県:特定外来生物「ヒアリ」及び「アカカミアリ」に関するお知らせ
(http://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/tokuteigairaiarirui.html)

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県内で確認された新しい外来種ヒアリについて
環境科学部 環境生物課 研究員 中島 淳
総務課