福岡県保健環境研究所
Fukuoka Institute of Health and Environmental Sciences
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1.はじめに
 私達の身の周りには、実に数多くの化学物質が使われています。食品添加剤、医薬品、化粧品、住宅建材など数えあげればきりがありません。国内で流通している化学物質だけでも数万種におよぶとも言われています。わが国では「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」によって、人体に有害な物質が流通しないようにチェックする体制が整えられています。このため、私達は安心して生活することができますが、川に棲む魚などの野生生物はどうなのでしょうか?実はわが国の排水規制(水質汚濁防止法)の中には、野生生物への影響評価に関する記載がほとんどありません。このため、現在の基準に適合した排水であっても、その周辺に棲息する生物に影響がないとは言い切れないのです。このような状況の中、近年、生態系保全を考慮した「新たな排水管理手法」として「生物応答を利用した排水管理手法(Whole Effluent Toxicity:以下、WET法)の導入が国内で議論され始めました。

2.WET法とは?
 WET法は、バイオアッセイ法を使って排水の水環境への影響や生態毒性の有無を総体的に評価するものであり、すでにアメリカ、カナダ、韓国などでは法規制が進められており、いまや世界標準になりつつあります。
 わが国でもWET法の導入を検討するため、環境省が制度・運用等に関する分科会や試験方法のガイドラインに関する分科会を設置しました。現在、国立環境研究所が中心になり、「日本版WET法」を構築するための様々な検討が進められています。


3.排水の生物影響評価試験
 排水の生物影響評価については、藻類、甲殻類および魚類を用いた試験方法が検討されています。以下にその概要を紹介します。

(1)緑藻類繁殖阻害試験
 緑藻類(写真1)の細胞増殖にあたえる影響を調べます。生態系の最下層にいるため、その増殖量の変化は 上位の生物に影響を与える可能性があります。

(2)ミジンコ類繁殖阻害試験
 ミジンコ(写真2)は化学物質に対する感受性が高いため、排水の繁殖試験用生物として適しています。緑 藻類の捕食者、魚の被捕食者として、生態系の中間層に位置しています。

(3) 魚類胚・仔魚期短期毒性試験
 水系生態系の中で上位層にいる魚類(写真3)を用いて、最も毒性に対する感受性が高いと考えられる卵、孵化および仔稚魚を排水に曝露して死亡数や発生に異常が観察される個体数を調べます。このように、日本版WET法の構築に向けた検討が着々と進んでいます。この手法は生態系環境保全の観点から注目度が高く、次世代の新たな環境モニタリング法として期待されています。


参考文献
[1]第54回日本環境化学会講演会稿集p.35-44

トピックス
写真1 ムレミカヅキモ
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写真2 ニセネコゼミジンコ
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生物応答を利用した新しい排水管理手法について
管理部 計測技術課 主任技師 宮脇崇
総務課
写真3 ゼブラフィッシュ
※掲載写真:(独)国立環境研究所鑪迫典久主任研究員御提供)