Fukuoka Institute of Health and Environmental Sciences
福岡県保健環境研究所
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1.農薬の必要性

2.残留農薬基準値の設定

表1 農薬を使用しないで栽培した場合の病害虫による収穫量の減少率1)

3.食品の安全を確保する取り組み


農薬は、農作物の収穫量と品質の維持、農業従事者の負担を減らし効率的な作業を 行うために重要な役割を果たしています。

 日本は降水量が多く、高温多湿な気候であるため病害虫や雑草が発生しやすい傾向にあります。特に、単一の農作物を生産する広大な農場において病害虫が大量に発生すると作物を収穫することが非常に困難となります。これは過去に行われた実験で、農薬などの対策をせず栽培を行うと収穫量に大きな影響が出ることが裏付けられています(表1)。中でも果樹、葉菜類は影響が大きく、農薬なしでは安定的に供給することが困難であると言えます1)。しかし、農薬はどのように使っても良いわけではありません。農薬取締法に定められた農薬使用基準に従い適用作物、使用量、使用時期、使用回数などを遵守する必要があります(家庭菜園やガーデニングなども含まれます)2)

無毒性量
 ある物質について何段階かの異なる投与量を用いて毒性試験を行ったとき、有害性が認められなかった最大の投与量。

参考

1) 社団法人 日本植物防疫協会, 病害虫と雑草による農作物の損失, 7-9, 2008.
2) 農林水産省ホームページ, 農薬取締法について[2018年6月13日アクセス]
  http://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_kaisei/
3) 厚生労働省ホームページ, 残留農薬[2018年6月13日アクセス]
  http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/zanryu/faq.html
4) 福岡県ホームページ, 食品衛生[2018年6月13日アクセス]
  http://www.pref.fukuoka.lg.jp/life/1/6/22/
5) 佐藤環ほか, 福岡県保健環境研究所年報, 44, 123-128, 2017.


残留農薬基準値は様々な試験の結果を総合的に判断し、長期間(生涯)及び短期間 (24時間又はそれより短時間)に経口摂取した場合にも健康に影響がないように設定 されています。

 使用した農薬は雨により洗い流されたり、微生物や日光の紫外線で分解されることで減少しますが、一部は収穫される作物に残留したままになっています。そこで、残留した農薬を摂取することで健康に影響が生じないように、厚生労働省は食品衛生法に基づき残留農薬基準値を設定しています3)。この残留農薬基準値は毎日の食事を通じて摂取する農薬の量が一日摂取許容量(ADI)の80%及び急性参照用量(ARfD)を超えないように設定されています(図1)。ADIやARfDは動物による毒性試験で得られた無毒性量に安全係数(1/100倍)を掛け合わせて算出したものであり、摂取したとしても健康に影響がないと考えられる一日あたりの量となっています。

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農薬はなぜ必要か?

保健科学部 生活化学課 主任技師 小木曽俊孝

総務課

一日摂取許容量(ADI)
 ヒトがある物質を毎日一生涯にわたって摂取し続けても、現在の科学的知見から見て健康への悪影響がないと推定される一日あたりの摂取量。

 食の健康志向により「有機野菜」など農薬を使用していない事を示す表示が日常的に見られるようになりました。一方で農薬の必要性や基準値の設定についてはあまり知られていないのではないでしょうか。ここでは、農薬に関する説明と当研究所で行っている食の安全と安心を確保する取り組みについて簡単に紹介します。

福岡県では、食品衛生法第24条に基づき、福岡県食品衛生監視指導計画を策定し、 監視指導を実施しています。また、基準値を超過した作物が見つかった場合には生 産者を指導するだけでなく、県内の生産者に対して同様の事例が起こらないように 情報共有を行っています。

 国内産の農作物において件数は少ないですが、毎年残留農薬基準値を超過する作物が見つかっています。基準値を超過する作物が見つかった場合には、関係自治体と連携し原因や流通状況の調査を行い適切に対応する必要があります。そこで、当研究所では食品の安全性を確保するため監視指導計画に従って残留農薬の検査を実施しています。また、厚生労働省が実施するマーケットバスケット方式による一日摂取量調査(国民が日常の生活を介して食品中に残留する農薬をどの程度摂取しているかを調査するもの)にも参加し調査を行っています。これらの結果は福岡県食品衛生監視指導結果4)や当研究所年報5)にまとめ、公開しています。

急性参照用量(ARfD)
 ヒトがある物質を24時間又はそれより短時間に経口摂取した場合に健康に悪影響を示さないと推定される一日あたりの摂取量。

作物 調査事例数 平均減収率(%)
水稲 14 24
畑作物 小麦 4 36
大豆 8 30
バレイショ 2 33
果樹 りんご 8 97
もも 4 70
うめ 2 28
ぶどう 1 66
かき 6 75
みかん 2 57
葉菜類 キャベツ 20 67
レタス 3 77
ほうれんそう 1 100
果菜類 きゅうり 5 61
トマト 7 36
なす 2 48
いちご 1 42
根菜類等 だいこん 12 39
とうもろこし 1 28
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図1 一日摂取許容量(ADI)の設定