発表論文(平成11年度,1999年度)

1 自治体での利用をめざした地域レベルのリモートセンシング
 −自治体研究機関の研究および自治体パイロットプロジェクト−
  大久保彰人, 山崎正敏, 武末保彦*1, 原政直*2, 関口芳浩*3, 寺田弘慈*4
日本リモートセンシング学会誌, 19(4), 71-76, 1999.
 地球観測衛星によるリモートセンシングでは,全球レベルで総合的な地球観測が行われている.しかし,地域に密着した実利用の分野では,センサの空間分解能や波長帯域を適切に選択して,衛星データからの情報抽出を行わねばならない.その実例として,県域データセット作成,土地被覆分類,水環境の把握と評価,地理情報システムとの連携,土壌水分および水かん養機能の解析をとりあげて説明した.
*1 福岡県水資源対策局, *2 (株)ビジョンテック, *3 (財)リモートセンシング技術センター, *4 宇宙開発事業団
 
2 油症患者の臨床検査値と血中PCB濃度の関連
  徳永章二*, 廣田良夫*, 片岡恭一郎
福岡医学雑誌, 90(5), 157-161, 1999.
 1993年の全国統一検診の結果をもとに,血清中性脂肪,血清総コレステロール,GOT,GPT,γ-GTP,総ビリルビン,直接ビリルビンと血中PCB濃度との関連を共分散分析を用いて解析した.血清中性脂肪及び血清総コレステロールと血中PCB濃度との間に正の有意な関連を認めた(それぞれ,p=0.02,p<0.001).他の臨床検査値と血中PCB濃度との関連は有意ではなかった.総コレステロールと中性脂肪は共に心疾患のリスク要因であることから,油症患者の健康管理を進める上で血清脂質に注目しておく必要があろう.
* 九州大学医学部公衆衛生学講座
 
3 福岡県保健環境研究所におけるダイオキシン類分析
  松枝隆彦, 飯田隆雄
全国公害研会誌, 24(3), 126-132, 1999.
 福岡県保健環境研究所におけるダイオキシン類分析について,実験施設,分析機器,分析体制及び研究の概要等について報告した.
 
4 ダイオキシン類の微生物分解
  高田智
環境管理, 35(6), 50-55, 1999.
 白色腐朽菌はキノコの仲間であり,PCBやDDTなどの難分解性物質をはじめ,多くの化学物質を分解し,最終的に二酸化炭素と水に無機化する能力をもっている.現在まで明らかにされている分解酵素及び化学物質の種類についてレビューした.当研究所で行った白色腐朽菌によるダイオキシン類の分解結果について解説し,白色腐朽菌による米国の研究開発状況についても言及した.
 
5 腸管出血性大腸菌O111のL-ソルボース非分解性を指標とした分離培地に関する検討
  田中博*1, 八柳潤*2, 内村真佐子*3, 齋藤眞*4, 小林一寛*5, 堀川和美, 森良一
日本臨床微生物学雑誌, 9(1), 48-50, 1999.
 腸管出血性大腸菌(EHEC)O111のL-ソルボース非分解性が分解のための指標となりうるかを検討するため,EHEC O111とその他の大腸菌について,L-ソルボースに対する分解性試験を実施した.その結果,供試した38株のEHEC O111は,37株が非分解性1株が遅分解性であった.そこで通常のマッコンキー寒天培地に含まれる乳糖の代わりにL-ソルボースを加えたソルボースマッコンキー寒天培地(SorMAC)を作製し,EHEC O111分離培地としての有用性を検討した.EHEC O111はSorMAC上では白色コロニーを形成し,Vero毒素非産生の大腸菌と鑑別が容易であった.
*1 愛媛県立衛生研究所, *2 秋田県衛生科学研究所, *3 千葉県衛生研究所, *4 愛知県衛生研究所, *5 大阪府立公衆衛生研究所
 
6 腸管出血性大腸菌O26の生化学的性状及びその選択分離培地に関する検討
  平松礼司*1, 松本昌門*1, 三輪良雄*1, 斎藤眞*1, 八柳潤*2, 内村真佐子*3, 小林一寛*4, 田中博*5, 堀川和美, 森良一
感染症学雑誌, 73(5), 407-413, 1999.
 全国6カ所の地方衛生研究所で下痢症患者から分離された腸管出血性大腸菌(EHEC)O26について,その炭水化物分解性状及び分離培地の検討を行った.供試した101株は,全株ラムノースを分解せず,他の大腸菌167中166株(99.4%)はラムノースを分解した.マッコンキー寒天培地中のラクトースをラムノースに代えたラムノース・マッコンキー寒天培地(RMAC)を作製し,EHEC O26の分離・培養性について検討を加えた.その結果,RMACはEHEC O26の選択分離培地として有効であることが分かった.
*1 愛知県衛生研究所, *2 秋田県衛生科学研究所, *3 千葉県衛生研究所, *4 大阪府立公衆衛生研究所, *5 愛媛県立衛生研究所
 
7 過去10年間の食品収去検査成績から見た食品の細菌汚染実態
  世良暢之, 中山宏, 村上光一, 堀川和美, 高田智, 牧草由起夫*1, 原田雅一*2, 西原研士*1, 林田公夫*1, 古賀政利*1
福岡県保健環境研究所年報, 第26号, 51-57, 1999.
 平成2年から平成11年の10年間に福岡県内で流通している15種類の市販食品1,779検体について,汚染指標細菌,食中毒細菌及び残留抗生物質など24,314項目について試験検査を行った.その結果,牛肉,鶏肉,液卵・鶏卵などの動物性食品から黄色ブドウ球菌,サルモネラ,カンピロバクター,ウエルシュ菌,セレウス菌などが比較的高頻度に検出された.また,液卵,蜂蜜からテトラサイクリン系抗生物質が検出された.これらの食品収去検査を継続して実施し,その結果を蓄積していくことは,食品の安全性を確保し,食中毒を予防する貴重なデータになるものと思われた.
*1 保健福祉部生活衛生課, *2 嘉穂保健所
 
8 フラーレンを分解する微生物はいるのか
  世良暢之
化学総説「炭素第三の同素体,フラーレンの化学」, 43(9), 1999.
 難分解性化学物質の代表であるダイオキシンを省資源的に微生物分解する最も有効な手段として白色腐朽菌を利用したバイオレメディエーション技術の開発が盛んになりつつある.この技術を活用して,炭素原子が強い共有結合で安定的に結合した特異な球状構造を有するC60について,白色腐朽菌で分解が可能かどうかについて検討した.その結果,約2週間で分解が認められることが明らかとなった.C60の微生物分解に伴う中間代謝産物,反応機構などについては不明であり,今後検討する必要がある.
 
9 Analysis of environmental carcinogens associated with the incidence of lung cancer
  Hiroshi Tokiwa*1, Nakanishi Yoichi*2, Nobuyuki Sera, Nobuyuki Hara*2, Satoru Ohtsuka*2
Toxicology Lettrs, 99, 33-41, 1998.
 九州大学において外科的に摘出された肺がん患者の肺組織中に沈着残留している14種類の変異原,発がん物質についてその蓄積量を測定した.その結果,肺組織内の3-nitrofluoranthene蓄積量が35pg/g(肺組織乾燥重量当たり),1-nitoropyrene蓄積量が18pg/g及び1,3-dinitropyrene蓄積量が15pg/gよりも多い患者とそうでない患者との間で外科手術後の5年生存率の有意な差があることが明らかとなった.また,昭和40年代と現在においては肺がん患者,結核患者いずれの場合にも昭和40年代に外科手術をして保存しておいた肺組織中に高濃度の発がん物質が蓄積していることも明らかとなった.
*1 九州女子大学, *2 九州大学大学院医学研究科呼吸器病態制御学
 
10 Detection and identification of adenovirus from ophthalmological speciments by virus isolation and PCR
  Jumboku Kajiwara, Mitsuhiro Hamasaki, Ryouichi Mori, Shinobu Oniki*
Japanese Journal of Infectious Disease, 52, 18-19, 1999.
 眼科疾患におけるアデノウイルスの流行状況を培養細胞を用いたウイルス分離法とRFLP法を組み合わせたPCR法を用いて解析した.
 その結果,B亜属(3,11型)はウイルス分離法とPCR法で同程度の検出率であったが,D亜属(8,19,37型)ではPCR法に比べウイルス分離法の検出率が1/2以下であった.PCR法ではウイルス遺伝子の断片しか検出することができないため,アデノウイルスの流行状況を把握するためには,アデノウイルスの検出をPCR法のみで行うことは不十分で,ウイルス分離法とPCR法を併用して実施する必要がある.
* 鬼木眼科医院
 
11 Polychlorinated dibenzo-p-dioxins and related compounds: The blood levels of young Japanese women
  Takao Iida, Hironori Hirakawa, Takahiko Matsueda, Shigeyuki Takenaka, Junya Nagayama*
Chemosphere, 38(15), 3497-3502, 1999.
 我々は,将来,母親になるだろう20歳前後の女性,50名の血中ダイオキシン濃度を測定し,次世代への影響をそのTEQレベルから考察した.被験者の血中TEQの平均は0.063 pg/g (全体),21 pg/g (脂肪)であった.PCDD,PCDF及びコプラナーPCBのTEQはそれぞれ,全血中のTEQの43,34及び23%で,脂肪中では44,34及び22%であった.我々は以前,母乳中のダイオキシンレベル及びその子供のリンパ球サブポピュレーション,並びに甲状腺ホルモン機能について調査した.その結果,ダイオキシンのTEQとCD4+/CD8+に相関が認められ,サイロキシン濃度とも負の相関が認められた.ダイオキシンはアトピー性皮膚炎に代表される免疫異常疾患との関連性が指摘されており,今回の調査は,次世代への影響が憂慮される結果であると考えられる.
* 九州大学医療技術短期大学部
 
12 ラットにおけるPCDD及びPCDFの消化管吸収に及ぼす緑色野菜の効果
  森田邦正, 松枝隆彦, 飯田隆雄
福岡医学雑誌, 90(5), 171-183, 1999.
 16種類の野菜について,ダイオキシン類の消化管吸収に及ぼす影響をラットを用いて検討した.その結果,小松菜,みつば,ほうれん草及び青じそは基本食に対して,食餌に添加した2,3,7,8-TeCDDの吸収を10.6〜17.0%抑制し,排泄量が7.6〜11.6倍に増加した.同様に,2,3,4,7,8-PeCDFの吸収を21.2〜32.4%抑制し,排泄量が6.5〜9.4倍に増加した.さらに,青じそ,ケ−ル及びほうれん草等の緑色野菜は体内から消化管内に排出されたダイオキシン類の再吸収を抑制し,体外に排泄促進する作用があることが明らかとなった.緑色野菜は2,3,7,8-TeCDD及び2,3,4,7,8-PeCDFの排泄量が基本食に対して3.1〜4.9倍及び3.0〜3.6倍促進した.ダイオキシン類による健康影響を未然に防ぐ観点から,食品経由のダイオキシン類の消化管吸収を抑制し,さらに体内のダイオキシン類を効果的に体外に排泄促進する食生活の方法として,クロロフィル含有量が高い緑色野菜をより多く摂ることが重要である.
 
13 Chlorella accelerates dioxin excretion in rats
  Kunimasa Morita, Takahiko Matsueda, Takao Iida, Takashi Hasegawa*
Journal of Nutrition, 129, 1731-1736, 1999.
 クロレラを用いて,ダイオキシン類の体外排泄について検討した.クロレラ群は基本食群に対して,2,3,7,8-TeCDD,1,2,3,7,8-PeCDD,1,2,3,4,7,8-HxCDD,1,2,3,6,7,8-HxCDD,1,2,3,7,8,9-HxCDD,1,2,3,4,6,7,8-HpCDD及び1,2,3,4,6,7,8,9-OCDDの吸収を抑制し,それぞれ12.5,6.6,4.3,3.5,3.3,1.8,1.2倍多く糞中へ排泄した.同様に,クロレラ群は基本食群に対して,2,3,7,8-TeCDF,1,2,3,7,8-PeCDF,2,3,4,7,8-PeCDF,1,2,3,4,7,8-HxCDF,1,2,3,6,7,8-HxCDF,1,2,3,7,8,9-HxCDF,2,3,4,6,7,8-HxCDF,1,2,3,4,6,7,8-HpCDF,1,2,3,4,7,8,9-HpCDF及び1,2,3,4,6,7,8,9-OCDFの吸収を抑制し,糞中にそれぞれ12.4,14.3,8.9,3.7,3.2,1.9,3.0,1.9,1.8,1.3倍の増加が認められた.さらに,クロレラ群はダイオキシン類の再吸収を抑制することにより,体内のダイオキシン類を糞中に排泄促進する作用があることが明らかとなった.
* クロレラ工業株式会社
 
14 ラットにおけるダイオキシン類の消化管吸収に及ぼすプロトポルフィリンの効果
  森田邦正, 松枝隆彦, 飯田隆雄
福岡医学雑誌, 90(5), 162-170, 1999.
 生体成分であるプロトポルフィリンとヘミンについて,ダイオキシン類の吸収抑制と再吸収抑制に及ぼす効果についてラットを用いて検討した.0.5%プロトポルフィリン群は基本食群に対して,2,3,7,8-TeCDD,1,2,3,7,8-PeCDD,1,2,3,4,7,8-HpCDD,1,2,3,6,7,8-HpCDD,1,2,3,7,8,9-HpCDD及び1,2,3,4,6,7,8-HxCDDの糞中排泄量をそれぞれ2.1,1.7,1.4,1.4,1.5,1.1倍増加した.同様に,2,3,7,8-TeCDF,1,2,3,7,8-PeCDF,2,3,4,7,8-PeCDF,1,2,3,4,7,8-HxCDF,1,2,3,6,7,8-HxCDF,2,3,4,6,7,8-HxCDF及び1,2,3,4,6,7,8-HpCDFの排泄量をそれぞれ3.6,2.7,1.9,1.8,1.7,1.4,1.1倍増加した.さらに,プロトポルフィリン群はダイオキシン類の再吸収を抑制し,体外に排泄促進する作用があることが明らかとなった.一方,0.5%ヘミン群のダイオキシン類の排泄量は基本食群と比べて大きな差はなく,吸収抑制及び再吸収抑制による排泄促進効果は認められなかった.
 
15 Maternal body burden of organochlorine pesticides and dioxins
  Reiko Nakagawa, Hironori Hirakawa, Takao Iida, Takahiko Matsueda, Junya Nagayama*
Journal of AOAC International, 129, 1731-1736, 1999.
 1994年-1996年の3年間に125名の日本人の母親から供与された母乳について,塩素系農薬・ダイオキシンの濃度を測定した.母乳中の塩素系農薬ではb-HCHとDDEが主たるものであり,それぞれ420,330ng/g Lipidであった.ディルドリンは3ng/g Lipidで,1971年の福岡県の調査結果と比較すると,b-HCH,総DDT(DDE),ディルドリンはそれぞれ,1/18,1/8,1/40に減少していた.ダイオキシンは25pgTEQ/g Lipidであり,同時期の大阪府の調査結果と同程度であった.また,初産者において,分析対象とした化学物質項目,年齢,食生活習慣(魚や肉の摂取頻度)などとの相関関係を調査した.その結果,年齢,b-HCH,DDE,ダイオキシン類(TEQ)間には有意な正の相関があることにより,これらの汚染物の蓄積性が改めて証明された.食生活習慣とでは,PCDF(TEQ)と魚摂取頻度のみに正の相関が認められた.食生活は国によって異なるため,これは,日本人母乳の特徴であろう.
* 九州大学医療短期大学部
 
16 Decreased daily intake of PCDDs, PCDFs and Co-PCBs from foods in Japan from 1977 to 1998
  Masatake Toyoda*1, Hiroyasu Uchibe*2, Toshihiko Yanagi*2, Youichi Kono*2, Tsuguhide Hori, Takao Iida
Journal of the Food Hygienic Society of Japan, 40(6), 494-499, 1999.
 ダイオキシン類の人への暴露は主に食品由来であることが知られている.過去22年間にわたるダイオキシン類の1日摂取量の変化を知る目的で,関西地区における保存トータルダイエット試料(13食品群)を用いてダイオキシン類の分析を行った.その結果,1日摂取量はPCDDs+PCDFsが1977年の3.75pgTEQ/kg bw/dayから1998年の0.92pgTEQ/kg bw/dayに減少(約1/4)し,Co-PCBsが4.43pgTEQ/kg bw/dayから1.80pgTEQ/kg bw/dayに減少(約2/5)し,総摂取量は約1/3に低下していた.ダイオキシン類摂取量の減少傾向は厚生省が報告した日本人の母乳中ダイオキシン類濃度の低下傾向とよく一致していた(r=0.969).
*1 国立医薬品食品衛生研究所, *2 (財)日本食品分析センター
 
17 キャピラリーカラムGC/MSによる油症患者及び健常者血液中PCB分析
 −パックドカラムECD/GC従来法との比較−
  中川礼子, 中村又善, 平川博仙, 堀就英, 飯田隆雄
福岡医学雑誌, 90(5), 184-191, 1999.
 健常者19名,油症患者24名の血液中PCB分析において,従来のパックドカラムECD/GC法とキャピラリーカラムGC/MSを行い,濃度及びPCBパターン型別の比較をした.重症のA及びBパタ−ン油症患者におけるPCBパターン型別は従来法とGC/MS法での一致率は70.0-83.3%,Cパタ−ン油症患者では62.5%であった.総PCB濃度では,キャピラリーGC/MS法はパックドカラムを用いるもう一つの定量法(係数法)での結果に近く,従来法(パックドカラムを用いるパターン合わせ法)による定量値の56-61%(油症患者)-67%(健常者)であった.
 
18 油症(PCBs中毒)と周産期
  飯田隆雄
周産期医学, 29(4), 438-442, 1999.
 油症は1968年に発生した大規模な食中毒であり,確認された患者だけでも1854名にのぼっている.油症の原因物質はPCDFs, PCDDs, Co-PCBs等であり,いわゆる,ダイオキシン類であった.油症はこのダイオキシン類による中毒事件と考えられる.1979年,台湾において同様の食中毒事件が発生した.この事件も日本の場合と同様にダイオキシン類による中毒事件であった.他方,ダイオキシン類は焼却場等から発生し,食物連鎖を経てヒトの血中や母乳中からも検出される.ダイオキシン類はその高い急性毒性だけではなく,内部攪乱物質としても作用する.母親の体内に蓄積されたダイオキシン類は胎盤経由で胎児に移行し,さらには出産後母乳を介して乳児に移行するため,次世代への影響が懸念されている.これらダイオキシン類のヒトへの影響を検討する上で,油症研究は重要な意義をもち,多くの優れた総説,論文の中から周産期に関連した文献を紹介すると共に,油症患者の母乳,血液,胎盤等のダイオキシン類の分析データについても紹介した.
 
19 Effect of L-cysteine and reduced glutathioneon the toxicities of microcystin LR: The effect for acute liver failure and inhibition of protein phosphatase 2A activity
  Shigeyuki Takenaka, Ryuichi Ootsu*
Aquatic Toxicology, 48, 65-68, 1999.
 我々はマイクロシスチンLR(MC-LR)のマウス肝臓中での毒性におけるシステイン及びグルタチオンの効果を調査した.10mMのシステインと一緒に腹腔内投与されたマウスの肝臓は,明らかに正常肝臓に近く,細胞壊死等のMC-LR特有の所見は認められなかった.しかし,10mMのグルタチオンと一緒に投与した場合には,MC-LR単独投与時よりも弱いが,MC-LR特有の細胞壊死等が確認された.一方,肝がんのプロモーターであるMC-LRはプロテインフォスファターゼ1及び2A(PP 1及び2A)を阻害することで,発がんを促進させることが分かっている.我々はこのうち,PP2Aについてシステイン及びグルタチオンがMC-LRのPP2Aの酵素活性にどの様な影響があるのかを調べたところ,有意にMC-LRの阻害効果を抑制できた.さらに,グルタチオンはPP2Aの酵素活性を約2倍あげた.MC-LRが肝細胞を壊死に導く過程で,発がんプロモーションと同様にPP 1及び2A活性の阻害効果が重要であることが報告され,システイン残基にMC-LRが共有結合することが確認されている.しかし,これらの結果はMC-LRのプロモーション活性と急性肝毒性のメカニズムが異なることを示唆しており,この相違は今後,解明すべき重要な課題と考える.
* 九州保健福祉大学
 
20 福岡県下流通の健康茶に含まれる医薬品センナ及びその成分について
  毛利隆美, 森田邦正, 平川博仙
福岡県保健環境研究所年報, 第26号, 58-62, 1999.
 健康茶への医薬品類,特にセンナの混入が全国的に問題になっている.そこで,1995年から1998年にかけて,福岡県下で入手した健康茶23件について,センナ葉並びにその主成分であるセンノシドA及びセンノシドBの有無を調べた.健康茶23件中16件にセンノシドA及びセンノシドBが検出された.この16件のうち14件にセンナ葉が確認されたが,他の2件には確認されなかった.センナ葉,センノシドA及びセンノシドBが確認された健康茶14件は,明らかに薬事法違反であった.
 
21 ダイオキシンと油症
  飯田隆雄
日本油化学会誌, 48(5), 439-448, 1999.
 ダイオキシン類は主に焼却場等から発生し,環境を汚染している.環境を汚染したダイオキシン類は食物連鎖を経由し,人体に蓄積されている.ダイオキシン類はその高毒性ゆえに注目されてきたが,近年,内分泌攪乱作用も明らかになり,環境ホルモンとして社会的な関心も高い.一方,油症は1968年に発生した大規模な食中毒であり,その原因物質が主にPCDFsであったことからダイオキシン類の人体影響を研究する上で重要な意味をもっている.このダイオキシン問題について人体汚染を中心に解説し,油症の概要ならびに著者らが行ってきた患者試料についての化学的分析結果を合わせて紹介した.
 
22 Wet deposition of ammonium and atmospheric distribution of ammonia and particulate ammonium in Japan
  Kentaro Murano*, Hitoshi Mukai*, Shiro Hatakeyama*, Okihiro Oishi, Akira Utsunomiya, Takaaki Shimohara
Environmental Pollution, 102, 321-326, 1998.
 ガス状及び粒子状のトータルアンモニウム濃度は太宰府市で概ね350neq/m3であった.非海塩性の硫酸イオン濃度は,長崎県五島列島での濃度が太宰府市のそれより低かったが,2地点間の濃度推移には良い対応が認められた(相関係数0.63).一方,大気中の非海塩性の硫酸イオン及びアンモニウムイオンの濃度推移,東アジア地域の風の場,バックトラジェクトリー解析の結果から,アンモニウム成分を含む大気汚染物質は大陸から長距離輸送され五島列島付近に流れ込んでいる現象が観察された.我が国におけるアンモニウム成分の湿性沈着量はヨーロッパ中部,東部の湿性沈着量とほぼ同程度であった.アンモニウム成分の湿性沈着量が最も多いのは東京都であり,人間の活動に伴う都市大気汚染の影響であることが示唆された.
* National Institute for Environmental Studies
 
23 大気境界層中の乾性沈着 −特集「エアロゾルの沈着」−
  植田洋匡*, 王 自発*, 下原孝章
エアロゾル研究, 14, 309-316, 1999.
 大気中のガス状物質及び浮遊粒子状物質の乾性沈着メカニズムについて解説し,現在,我が国で進んでいる乾性沈着測定法について紹介した.エアロゾルの乾性沈着は測定が難しく,我が国での観測例は殆どない.これら測定法には,直接法と間接法がある.直接法は,樹幹流中の硫酸イオンのマスバランスから,沈着速度を求めた,大喜多らの方法が信頼性が高い.一方,間接法は,濃度測定法とインフェレンシャル法に大別できる.間接法としては,代理表面法により,エアロゾル中の多成分を同時に測定し,素過程と乾性沈着特性を詳細に観察した下原らの方法がある.代理表面法は沈着機構評価に最も適した方法といえる.
* 京都大学
 
24 下水道の普及と水質モニタリング結果の経年変化
  徳永隆司
福岡県保健環境研究所年報, 第26号, 63-66, 1999.
 生活排水で汚染された福岡県糸島地区の雷山川を対象に,この流域の末端に位置するモニタリング地点の水質測定結果について解析,評価を行った.その結果,生活排水による汚濁の指標であるBODに減少傾向が認められ,公共下水道の整備および合併浄化槽の設置などの生活排水対策の効果が認められた.また,これらの解析結果から,モニタリングの有効性を確認した.
 
25 流入水の窒素: リン比が高い小規模ダム湖におけるアオコ発生要因
  松尾宏, 笹尾敦子, 大久保彰人, 佐々木重行*
用水と廃水, 41(6), 35-41, 1999.
 Hダム湖は福岡県南部の中山間地にあり,流入河川の窒素:リン比が100前後と高い値を示し,アオコ(Microcystis属)発生が著しい小規模ダム湖である.このダム湖でのアオコ発生要因を解明するため,集水域の土地利用形態とその流入河川水質との関係,N/P比と植物プランクトンとの関係及びアオコ発生過程でのダム湖の全窒素,全リンの動態について検討した.ダム湖集水域の全窒素,全リンの汚濁排出源の解析結果から,茶畑などの畑地からの排出負荷が流入河川のN/P比を大きくする要因であることがわかった.ダム湖のクロロフィルa量はアオコ発生過程においてもリン制限で推移していると推察できた.また,貯水量もクロロフィルa量と関係する重要因子と考えられた.アオコ発生過程のダム湖の全窒素の主要供給源は流入河川,全リンの主要供給源は,流入河川の他に底泥からの溶出によるものと推定できた.底泥からのリン溶出量は流入河川のリン供給量に相当し,アオコ発生過程において重要と考えられた.
* 福岡県森林林業技術センター
 
26 酸性雨研究と環境試料分析: 第4章樹氷の調査と試料分析
  永淵修
酸性雨研究と環境試料分析−環境試料の採取・前処理・分析の実際−, 51-66, 2000.
 九州山岳地帯に付着する樹氷の成分分析をすることで,大気汚染物質の長距離移流に関する情報を得ることが可能になった.樹氷にはIASと呼ばれる石炭燃焼由来の粒子が含まれている.これらの粒子の由来を推定するのに流跡線解析を用いた.また,樹氷中の鉛同位体を分析することでわが国由来の同位対比とは異なる値を持つことが明らかになった.したがって,樹氷中の大気汚染物質はローカルな汚染というより長距離移流で運ばれてきた可能性が高くなった.
 
27 最近10年間における瀬戸内海底質の変動評価
  永淵修, 東義仁*1, 清木徹*2, 駒井幸雄*3, 村上和仁*4, 小山武信*5
水環境学会誌, 21, 797-804, 1998.
 最近10年間に瀬戸内海全域の底泥汚染が改善されたかどうかを評価するためにその物理・化学的状態を調査した.1980年代前半と1990年代前半のデータセットを用い,統計的解析を行った結果,響灘,周防灘,広島湾,紀伊水道の底泥が悪化し,大阪湾,播磨灘,燧灘の一部で改善傾向が認められた.しかし,過去18年間にわたって総量規制を行ってきたが,瀬戸内海全体としては顕著な底泥改善は認められなかった.
*1 大阪府公害監視センター, *2 広島県保健環境センター, *3 兵庫県立公害研究所, *4 岡山県環境保健センター, *5 和歌山県衛生公害センター
 
28 瀬戸内海における環形動物(Annelida)の生育状況と底質環境の関係
  村上和仁*1, 今富幸也*2, 駒井幸雄*3, 永淵修, 清木徹*4, 小山武信*5
水環境学会誌, 21, 757-764, 1998.
 本論文は,瀬戸内海全域を対象に,環形動物の分布と生育環境の検討を行い,水質・底質との関係を考察したものである.瀬戸内海全域でのマクロベントスの優占種は有機汚濁指標種である.環形動物の種類数および個体数は有機汚濁指標の値が低くなると多くなり,重金属濃度が高いところでは少なくなる傾向であった.我が国の代表的な有機汚濁指標種である環形動物スピオ科が他のベントスを駆逐して優占化していることから,瀬戸内海,特に内湾部で底質の有機汚染が進行していることが示唆された.
*1 岡山県環境保健センター, *2 山口県衛生公害研究センター, *3 兵庫県立公害研究所, *4 広島県保健環境センター, *5 和歌山県衛生公害センター
 
29 瀬戸内海の底質汚染および水質汚濁の現況について
  小山武信*1, 永淵修, 清木徹*2, 駒井幸雄*3, 村上和仁*4, 東義仁*5, 今富幸也*6, 牛川努*7, 日野康良*8, 高松公子*9, 蛎灰谷喬*10
全国公害研会誌, 24, 37-56, 1999.
 本論文は瀬戸内海環境情報基本調査と瀬戸内海環境管理基本調査の結果を取りまとめたものである.1973年の「瀬戸内海環境保全臨時措置法」以降,各種の法規制をかけてきたが瀬戸内海の底泥にはその効果が,底泥の改善という形で現れてないことが明らかになった.
*1 和歌山県衛生公害センター, *2 広島県保健環境センター, *3 兵庫県立公害研究所, *4 岡山県環境保健センター, *5 大阪府公害監視センター, *6 山口県衛生公害研究センター, *7 徳島県保健環境センター, *8 香川県環境研究センター, *9 愛媛県環境保全センター, *10 大分県衛生環境センター
 
30 シュロガヤツリによる池の水質浄化と水生昆虫の定着
  中村融子, 緒方健, 志水信弘, 徳永隆司
水環境学会誌, 12, 1010-1015, 1999.
 富栄養化し,無生物状態の酸化池に,シュロガヤツリを池面積の60%に植栽したところ,植物プランクトンの増殖が抑制され,pHが9から約7に低下し,透視度が改善した.その主要因は遮光による効果と考えられた.また,シュロガヤツリによる栄養塩の固定率は,負荷量に対してT-Nが約6%,T-Pが約15%であった.
 水生昆虫の種類数は,植栽4カ月後の調査開始時とその1年後では,2倍に増加し,定着が認められた.
 栄養塩をシュロガヤツリに固定し,効率よく除去する方法は,全量収穫するいかだ植栽よりも,抽水性水耕栽培方式を採用した植栽用ポットに植栽し,3カ月に一度刈り取る方法であった.最適の刈り取り高さは水面から60cmであり,栄養塩の除去量の平均値はT-Nが0.363g/m2・d,T-Pが0.089g/m2・dであった.
 
31 浄水器による硝酸性窒素の除去事例
  中村融子, 松尾宏, 馬場義輝, 徳永隆司, 北森成治, 大霜公美*1, 松尾義之*2
福岡県保健環境研究所年報, 第26号, 67-71, 1999.
 硝酸性窒素濃度が水道水質基準値を超過した井戸への対応策の一つとして,浄水器を設置し,その性能及び実用性について検討した.硝酸性窒素濃度は,7.3-63.5mg/lであったが,浄水器を通った水では<0.02-4.5mg/lで水道水質基準値を満たしており,また,除去率は,83.1-100.0%と良好であった.さらに,2つの樹脂を再生しながら交互にしようするタイプで,長期間使用可能であった.しかし,pHが低下し,水道水質基準値を満たさない検体があった.これは,炭酸水素イオン濃度に関係すると考えられた.また,原水に陰イオン類が多量に含まれている場合,処理水の塩素イオン濃度が上昇し,水道水質基準値を超える場合があるため,注意する必要がある.
*1 保健福祉部生活衛生課, *2 京築保健所
 
32 Organic components in leachates from hazardous waste disposal sites
  Akio Yasuhara*1, Hiroaki Shiraishi*1, Masataka Nishikawa*1, Takashi Yamamoto*1, Osami Nakasugi*1, Tameo Okumura*2, Katashi Kenmotsu*3, Hiroshi Fukui*4, Makoto Nagase, Yasunori Kawagoshi*5
Waste Management & Research, 17, 186-197, 1999.
 国内の11の埋立処分場からの浸出水中の有機化合物及び無機元素を定量した.無機元素に関しては,ホウ素の濃度が極めて高かった.100種以上の有機化合物が検出され,有機リン酸エステル,1,4-ジオキサン,フタル酸エステル,ビスフェノールAのようないくつかの重要な化合物が高濃度存在した.これら化合物の起源は,プラスチック廃棄物である可能性が高い.また,同定した有機化合物の全有機炭素に対する割合は予想されたよりも低かった.更に,塩素の大部分は不揮発性の物質として存在すると考えられる.
*1 国立環境研究所, *2 大阪府公害監視センター, *3 岡山県環境保健センター, *4 神奈川県環境科学センター, *5 大阪市立環境科学研究所
 
33 Naturally occurring arsenic in the groundwaters in the southern region of Fukuoka prefecture, Japan
  Hiroyuki Kondo, Yasuhisa Ishiguro, Kenji Ohno, Makoto Nagase, Mineki Toba, Makoto Takagi*
Wat. Res., 33(8), 1967-1972, 1999.
 1994年3月,福岡県県南地域の井戸水からヒ素が検出され,周辺調査の結果,広範囲の汚染が明らかとなり,その最高濃度は0.293mg/lと日本国内で過去に報告された事例の中では最高値であった.ヒ素に汚染された地下水の主要成分は,ヒドロ炭酸ナトリウム(NaHCO3)で水質は弱アルカリ性を示した.ヒ素の形態分析から,メチル化されたヒ素は検出限界(0.001mg/l)以下であった.ボーリング調査等多くのデータの解析から,ヒ素による地下水汚染は人為的汚染ではなく自然的汚染であった.また,その汚染機構は地質中ヒ素と水酸化イオン(OH-),リン酸イオン(PO43-)の並びにカルシウムイオン(Ca2+)などのイオン作用と酸化還元電位による効果の二つの要因によるものと推定された.
* 九州大学大学院工学研究科
 
34 A study on the insertion loss of a noise barrier for a directional sound source
  Gensei Matsumoto, Kyoji Fujiwara*, Akira Omoto*
J.Acoust. Soc. Jpn. (E), 20(4), 325-328, 1999.
 自動車に代表される道路交通騒音源は,エンジン,排気口,タイヤ等複数の音源をもち,音響放射に指向性がある.しかし,防音壁設置時の挿入損失に関して,音源の指向性を考慮した報告はまだ少なく,防音壁と車のボディの相互影響を考慮した報告例がある程度にすぎない.そのため,定常走行時に支配的となるタイヤ騒音を対象に,二次元音場において指向性を表現し,防音壁の効果を考察した.まず,ダブレット音源による指向性の解析からは,地面の影響を強く受けていたものの,水平方向への指向性が強いほど防音壁の挿入損失は増し,鉛直方向への指向性が強いほど挿入損失は減少することがわかった.また,2つの線音源のエネルギー和により得られた結果より,トラック相当のボディが存在すると,高い周波数帯で防音壁よりも高い位置の挿入損失が低下することがわかった.
* 九州芸術工科大学音響設計学科
 
35 福岡県における都市域及びその周辺の照葉樹林の植物 3.春日神社
  須田隆一, 笹尾敦子
福岡県保健環境研究所年報, 第26号, 72-78, 1999.
 都市近郊に残された照葉樹林における現時点での維管束植物相を把握するために,1998年5月から1999年8月にかけて,福岡県春日市に位置する春日神社の照葉樹林域(標高40-60m)を対象に調査を行った.その結果,シダ植物7科8種,種子植物67科188種,合計74科196種(2種の植栽木本及び2種の逸出草本を含む)の維管束植物を確認した.



 


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