論文等発表(平成14年度,2002年度)

1 光化学オキシダント濃度監視のための日最高濃度予測と自動メール送信
  大久保彰人,高橋洋子*,宮崎俊太郎*
全国環境研会誌,28,45-50,2003.
 光化学オキシダント濃度監視を効率的かつ合理的に行うために,日最高濃度の予測及び時間値データの自動メール送信のシステム化を行った.日最高濃度の予測では,過去の高濃度推移のパターンをもとに,ニューラルネットの学習法(誤差逆伝播法)により,時間値の時系列予測を行った.この予測により,日最高濃度に達するまでの濃度上昇推移を計算すると,実測の時間値にかなり近い予測値を出力できた.また,光化学オキシダント濃度の監視を,任意の場所で効率的に行うために,時間値データを毎時,携帯電話へ自動的にメール送信するシステムを作成した.送信先のアドレス設定を簡単にするために,ダイアローグ画面でアドレスをチェックすると設定ファイルが更新されるWindowsアプリケーションも作成した.
*福岡県環境保全課
 
2 音響管を組み込んだ防音壁による低周波音の制御
  松本源生,藤原恭司*
福岡県保健環境研究所年報第29号,106-111,2002.
 周波数にして80Hz以下の低周波音に対する苦情件数が増加しており有効な減音対策が求められているなか,伝搬経路対策として代表的な防音壁による低周波音の制御を試みた.防音壁を用いて低周波音を制御すると壁に非常な高さが必要であると考えられていたが,音響的にソフトな表面を実現する一つの手段である音響管を防音壁に組み込めば,高さに依らなくとも有効な遮音効果が得られることを示した.本検討は二次元音場を想定した境界要素法を適用した数値計算により行っており,音響管を配備すればその設計周波数周辺の帯域において音のエネルギー流を上方に転じるため防音壁背後の受音領域において高い遮音効果が得られるメカニズムを解明した.
*九州大学芸術工学研究院
 
3 Spectophotometric determination of carp vitellogenin using a sequential injection analysis technique equipped with a jet ring cell
  Nobuaki Soh*1,HIdeshi Nishiyama*1,Keiko Mishima*1,Toshihiko Imato*1,Takashi Masadome*2,Yasukazu Asano*3,Yoichi Kurokawa,Hisao Tabei*4,Seko Okutani*3
Talanta,Vol.58,1123-1130(2002)
 抗体が塗布されたマイクロビーズを,ジェットリングセルに導入するシーケンシャルインジェクション分析法が開発された.ビーズとしてアガロースゲルであるsepharoseを用い,これに固定化した抗体に抗原としてビデロジェニンを結合させ,さらに2次抗体で抗原を挟み込むサンドイッチELISA法により抗原を測定した.また操作をコンピュータ制御することにより測定の迅速化と好感度化が達成された.この手法は,簡易かつ正確にビデロジェニンを定量する代表的な手法となり得た.
*1 Kyushu University, *2 Ariake National College of Technology, *3 Hachinohe National College of Technology, *4 NTT Advanaced Technology Corporation
 
4 Flow injection analysis of alkalinity
  Takahiko Matsueda , Okihiro Oishi
福岡県保健環境研究所年報第29号, 101-105, 2002.
フローインジェクション法による天然水中のアルカリ度の簡易迅速な分析法を検討した.本法はフルオレスセインの蛍光強度のpH依存性を利用したもので,その強度はアルカリ度濃度と比例する.フロー系はリザーバー,ポンプ,ラインサンプラー,コイル及び蛍光検出器より構成され,5μlの試料をフロー系に注入し,フルオレスセインの蛍光強度の変化を測定する.蛍光検出器の励起及び蛍光波長はそれぞれ,490nm及び517nmである.検出限界値はCaCO3換算で0.5 mg/1,変動係数は4.5%であった.分析速度は1時間当たり80試料で操作は簡便である.天然水中に存在するNa+, K+, Ca2+, Mg2+, Cl-, 及び SO42-等のイオンはアルカリ度の測定に影響しない.本法の結果は滴定法の結果とよく一致した.
 
5 大量注入装置を用いたGC-MS分析法によるダイオキシン類分析
  飛石和大,堀 就英,黒川陽一,石黒靖尚,飯田隆雄
福岡県保健環境研究所年報第29号,112-113,2002.
 大量注入装置(SCLV injection system)を用いたGC-MS分析法は,ダイオキシン類分析の高感度化に有効な手法である.しかし,報告された応用例が血液中ダイオキシン類分析に限られているため,他の媒体への応用ができなかった.そこで極性の異なる3種のキャピラリーカラムについて分離特性の検討を行った.その結果,シアノプロピル系の液相を用いた強極性カラムRtx-2330による測定において,2,3,7,8-TeCDD付近の分離が良好で,従来法(JIS法)とほぼ同等の分離特性を持つことがわかった.また,クロマトグラム上の各ピークは,大量注入装置を用いない場合と比較してシャープになっていた.これは,大量注入装置を用いる測定において,目的成分はコールドトラップによりフォーカスされ,バンド幅が狭くなるためと考えられる.
 
6 牛挽肉,ポテトサラダおよび野菜のドレッシング和えからの腸管出血性大腸菌O157の検出における培養法,免疫磁気ビーズ,イムノクロマト系簡易キットの有用性の検討
  堀川和美,八柳潤*1,内村真佐子*2,斎藤眞*3,小林一寛*4,田中博*5,森良一*6
日本食品微生物学会雑誌,19,187-194,2002.
 地方衛生研究所6機関で食品に添加したO157の増菌培地,分離培地,IMSおよびイムノクロマト系キットの有用性について評価を行った.今回の結果から,細菌汚染の高い牛挽肉中のO157を検索する場合バンコマイシンの添加量が1μg/mlのCTV-TSBで増菌培養し,IMSで集菌後CT-SMACで分離培養することが推奨される.また,いずれの食材においてもIMSによる集菌は有用であり,加えて分離培地にCT-SMACを分離培養に使用することは,O157検出率が高くなるだけでなく釣菌作業の際にO157検出精度が高くなり,作業効率および経済効率が向上する.
*1秋田県衛生科学研究所, *2千葉県衛生研究所, *3前愛知県衛生研究所, *4大阪府立公衆衛生研究所, *5愛媛県立衛生環境研究所, *6前福岡県保健環境研究所
 
7 下痢原性大腸菌における付着因子保有状況とそれに基づく大腸菌検査法の一考察
  小林一寛*1,勢戸和子*1,八柳潤*2,斉藤志保子*2,寺尾通徳*3,金子通治*4,芹川俊彦*5,倉本早苗*5,藤沢倫彦*6,鈴木理恵子*6,山崎貢*7,林賢一*8,松根渉*8,安岡富久*9,堀川和美,村上光一,河野喜美子*10,山田亨*10,伊藤健一郎*11
感染症学雑誌, 76, 911-920,2002.
下痢原性大腸菌の病原性因子のうち付着性因子で作用機序の異なる3つの遺伝子eaeA, bfpA, aggRと耐熱性毒素様毒素(EAST1)を標的としたPCR法による診断法を確立し,付着性遺伝子の保有状況を明らかにした.
*1 大阪府立公衆衛生研究所, *2 秋田県衛生科学研究所, *3 新潟県保健環境科学研究所, *4 山梨県衛生公害研究所, *5 石川県保健環境センター, *6 神奈川県衛生研究所, *7 愛知県衛生研究所, *8 滋賀県立衛生環境センター, *9 高知県衛生研究所, *10 宮崎県衛生環境研究所, *11 国立感染症研究所
 
8 眼科疾患から検出されたアデノウイルス血清型の経年変化(1997〜2000年)
  梶原淳睦, 濱崎光宏, 江藤良樹, 千々和勝己, 鬼木信乃夫*1
福岡県保健環境研究所年報第29号,97-100,2002.
 流行性角結膜炎(EKC)等の眼科疾患の原因ウイルスをPCR法及び培養細胞を用いたウイルス分離法により検索した. その結果, 培養細胞を用いたウイルス分離では35株のアデノウイルスが分離され, ウイルス分離の陽性率は30.4%(35/115)であった. 一方, PCR法では73.9%(85/115)が陽性であり, PCR法はウイルス分離法の約2.4倍高感度にアデノウイルスを検出することができた. PCR法と制限酵素を用いたRFLP法により決定したアデノウイルスの血清型は1997及び98年は19型が最も多かったが, 1999及び2000年は8型の方が多くなった. 特に, 1999年5月以降は8型が主に検出され, EKCの病原ウイルスの変化が明らかになった. EKCは例年6−9月をピークとする流行を繰り返し, 流行状況は4年間で大きな差はなかった. しかし, 各年の流行を引き起こしているアデノウイルスの血清型は変化していることを明らかにすることができた.
*1 鬼木眼科医院
 
9 Isolation and characterization of Desulfitobacterium sp. strain Y51 capable of efficient dehalogenation of tetrachloroethene and polychloroethanes
  Akiko Suyama*1, Takashi Iwakiri*1, Keiichiro Kai*1, Takashi Tokunaga*2, Nobuyuki Sera, Kensuke Furukawa*1
Bioscience Biotechnology and Biochemicals., 65, 1474-1481, 2001.
 ドライクリーニングやICチップの洗浄に使用されていたテトラクロロエチレン,トリクロロエチレンに汚染された土壌より,これらの溶剤を分解する細菌を分離することを試みた.その結果,偏性嫌気性であるY51株を含め,20株程度の分解菌を分離した.特にY51株は高い分解活性を示したことから詳細な検討を加えたところ,至適温度37℃及び至適pH6.5-7.5において,約10時間で600mMのテトラクロロエチレンをジクロロエチレンまで還元的に脱塩素することが分かった.このY51株は16S rDNAのシークエンスによりDesulfitobacterium sp.に分類される硫酸還元菌であることが判明した.
*1 Kyushu University, *2 Fukuoka Research Center for Recycleing Systems
 
10 Micronucleus induction and chromosomal aberration of 1- and 3-nitroazabenzo[a]pyrene and their derivatives
  Nobuyuki Sera, Kiyoshi Fukuhara*1, Naoki Miyata*2, Hiroshi Tokiwa*3
Mutagenesis, 16, 183-187, 2003.
 環境中に広く存在するベンツピレンの6位の炭素が窒素で置換された6-アザベンツピレン(6-ABP)及びそのオキシド体(6-ABPO)について小核誘発能および染色体異常誘発能を検討した.小核試験において,6-ABPではニトロ基の置換位置との関連は認められなかったが,6-ABPOでは3位にニトロ基が置換した場合に特に高い誘発能を示した.染色体異常試験では,非代謝活性化条件下で,いずれの化合物もchromatid exchange (cte)を多く誘発したが,小核試験の場合と同様に3-nitro-6-ABPOは10ng/mlで39cteと非常に高い誘発能を示した.
*1 National Institute of Health Sciences, *2 Nagoya City University, *3 Kyushu Women's University
 
11 Genotoxicity of 255 chemicals in the Salmonella microsome assay (Ames test) and 8-hydroxyguanine (8-OH-Gua) assay for the detection of carcinogens
  Nobuyuki Sera, Yoshito Tanaka*1, Hiroko Tsukatani, Nobuhiro Shimizu, Shigeji Kitamori, Hideo Utsumi*2
J. Water Environ. Tech., 1, 25-30, 2003.
 新しい試験菌株を用いたエームス試験及び新しく開発した競合的酵素免疫測定法を用いた8-OH-Gua試験の有効性について検討した.通商産業省,環境省の化学物質データベースを基に生活環境中に残留している可能性が高い255物質を選定し,両試験法に適用した.その結果,エームス試験では83化学物質(32.5%),8-OH-Gua試験では21化学物質(8.2%)を検出することが可能であった.残り151化学物質は検出することができなかったが,従来から知られている他の試験法(小核試験,染色体異常試験など)を組み合わせることによってほぼ網羅することが可能であった.
*1 Environment Policies Division, *2 Kyushu University
 
12 初夏に某小学校で発生した小型球形ウイルス(SRSV)による集団食中毒事例
  田島静* , 千々和勝己
本公衆衛生雑誌, 50(3), 225-233, 2003.
夏季に学校給食が原因と考えられたSRSVによる集団食中毒事例が, 小学校において発生した. 初動調査から, 初発症状は嘔吐, 下痢が主であり, 発症時期が1日に集中していたことが判明し, ウイルス検査を実施した. その結果, 患者6名, 調理者1名からSRSVが検出され, 遺伝子解析により, 全てGenogroupU型のHawaii typeであることがわかった. 以上のことから, 調理従事者が原因と疑われたが, この調理従事者も給食を喫食しており, 原因究明には至らなかった. この集団中毒事例の経験から, 初動調査の重要性, 非流行期であってもSRSVの可能性を否定せずに検査を行うこと, 調理従事者は給食を喫食しないことが, 感染経路の究明に役立つということが明らかになった.
* 元福岡県粕屋保健所
 
13 Polychlorinated dibenzo-p-dioxins, polychlorinated dibenzofurans and non-ortho, mono-ortho chlorine substituted biphenyls in Japanese human liver and adipose tissue
  Shigeyuki Takenaka, Takashi Todaka*1, Matayoshi Nakamura, Tsuguhide Hori, Takao Iida, Taketo Yamada*2 , Junichi Hata*2
Chemosphere, 49,161-172, 2002.
 我々は,平成11年に採取された日本人の肝臓および脂肪組織中のPCDDs/DFs濃度を測定した.その肝臓・脂肪組織中のPCDDs/DFs濃度の平均は,それぞれ57 pg TEQ/g lipid,49 pg TEQ/g lipidであった.1,2,3,6,7,8-HxCDD, 1,2,3,4,6,7,8-HpCDD, OCDD, 2,3,4,7,8 PeCDF, 1,2,3,4,7,8-HxCDF, 1,2,3,6,7,8-HxCDF, 2,3,4,6,7,8-HxCDF, 1,2,3,7,8,9-HxCDFおよび1,2,3,4,6,7,8-HpCDFの濃度レベルは1989年のデータと比較すると著しく違っていた(p<0.05).肝臓・脂肪組織中のNon-ortho-PCBs濃度の平均はそれぞれ,20 pg TEQ/g lipid,17 pg TEQ/g lipidであった.肝臓中の3,3',4,4'-TCB濃度の平均が131 pg/g lipidと,1989年のデータと比較すると7.7倍に上がっていた.総Mono-ortho-PCBs濃度の平均はそれぞれ,13.0 pg TEQ/g lipid,21.6 pg TEQ/g lipidで,脂肪組織中で3,3',4,4',5 PeCB and 3,3',4,4',5,5'-HxCB濃度は減少していた.肝臓中では3,3',4,4',5-PeCB濃度が減少していた.
*1 (社)日本食品衛生協会 , *2 慶応大学
 
14 New method for ethephon ((2-Chloroethyl)phosphonic acid) residue analysis, and detection of residual revels in the fruit and vegetables of Western Japan
  Shigeyuki Takenaka
J. Agric. Food Chem., 50, 7515-7519, 2002.
 果物と野菜中のエテホン残留物のガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)による新しい定性・定量法を開発した.この研究の重要な点は,GC/MSを使用する前に果物と野菜のサンプルから迅速で簡単なクリーンアップを提示したことである.この方法の添加回収および分析精度は,エテホン 10 ng/g〜100 ng/gを添加した果物および野菜のサンプルを分析することで評価した.この方法を用いることで,エテホン残留物分析はより良い精度(回収率78.6〜109%,変動係数2.65〜6.41%)で行うことができた.また,選択されたイオン(m/z 110)をベースラインの基準として,観察されるノイズレベルの3倍の標準偏差を検出下限とすると,この方法でのエテホンの検出下限値は4 pgであった.ノイズレベルの8倍のSDを定量下限値とすると,そのエテホンの定量下限値は11 pgであった.
 
15 Increasing effect of nori on the fecal excretion of dioxin by rats
  Kunimasa Morita , Kazuhiro Tobiishi
Biosci. Biotechnol. Biochem. 66, 2306-2313, 2002.
 PCDD及びPCDFを2%及び10%の海苔食に添加し,消化管吸収に及ぼす効果をラットで検討した.10%の海苔投与群において,PCDD及びPCDF投与1-5日間のPCDD及びPCDFの糞中排泄量は,コントロール群と比べて,2,3,7,8-TCDDが5.5倍,1,2,3,7,8-pentaCDDが6.4倍,2,3,4,7,8-pentaCDFが6.0倍有意に増加した.再吸収抑制実験を行った結果,10%の海苔投与群において,PCDD及びPCDF投与8-35日間のPCDD及びPCDFの糞中排泄量は,コントロール群と比べて,2,3,7,8-TCDDが2.4倍,1,2,3,7,8-pentaCDDが2.3倍,2,3,4,7,8-pentaCDFが2.4倍有意に増加した.海苔は食事経由のPCDD及びPCDFを吸収抑制する効果と消化管壁から管内へ排泄されたPCDD及びPCDFを糞中へ排泄促進する効果があることを明らかにした.10%の海苔の効果はヒトの生物学的半減期を,2,3,7,8-TCDDの場合7.5年を3.3年に,1,2,3,7,8-pentaCDDの場合15.7年を7.2年に,2,3,4,7,8-pentaCDFの場合19.6年を8.6年に短縮することが示唆される.
 
16 Levels and tissue-dependent distribution of dioxin in japanese domestic leafy vegetables -from the 1999 national investigation
  Reiko Nakagawa, Tsuguhide Hori, Kazuhiro Tobiishi, Takao Iida, Tomoaki Tsutsumi*, Kumiko Sasaki*
Masatake Toyoda*:Chemosphere,48,247-256,2002.
日本産の葉菜のダイオキシン濃度を調査した.その結果,ほうれん草が平均0.07,春菊で0.13,ミツバ,チンゲンサイで0.01pgTEQ/gであった.葉菜のダイオキシン汚染について詳細に理解するために,ほうれん草の部位別(葉,茎,朱茎,主根,髭根)のダイオキシン濃度を調査した.結果は,葉は茎・朱茎よりずっと濃度が高く,一方,土壌に影響される根よりも濃度が低かった.また,可食部は非可食部よりも濃度が低かった.また,4-6塩化のPCDD/F及びPCBの一部は,葉での寄与が髭根よりも大きく,これは,土壌の付着の外にガス状のダイオキシン類の葉表面のワックスへの付着があることを示唆している.
* National Institute of Health Sciences
 
17 陰膳方式による食事経由のダイオキシン類摂取量調査
  堀 就英,芦塚由紀,飛石和大,中川礼子,飯田隆雄
福岡県保健環境研究所年報第29号,91-96,2002.
 福岡県内に在住する4名の成人から連続7日間の陰膳食事試料の提供を受け,ダイオキシン類29異性体の分析を行い,ダイオキシン類摂取量を算出した.検出下限値未満の異性体について,それらの摂取量をゼロと仮定した場合,4名のダイオキシン類平均摂取量は体重1kgあたり0.87〜1.41ピコグラムであった.また,4名のうち2名について求めたダイオキシン類の日々の変動は,それぞれ体重1kgあたり0.34〜3.76ピコグラム及び0.18〜2.36ピコグラムであった.ダイオキシン類平均摂取量はいずれも耐容1日摂取量(4ピコグラム)を下回り,また日々の摂取量をみても耐容1日摂取量を上回る例は認められなかった.ダイオキシン類摂取量の日々の変動は主として魚の摂食に起因することが示唆された.
 
18 第5章 沈着過程にかかわる計測,第2節 乾性沈着
  下原孝章
地球環境調査計測事典,第1巻 陸域編 (1) ,p450〜453.監修 ニュートン編集長/東京大学名誉教授,竹内 均,(株)フジ・テクノシステム出版,2002年12月.
 大気中のガス状及び粒子状物質は,雪や雨等の湿性降下物あるいは晴れや曇りの日の乾性降下物として地表に降下し,環境に影響を及ぼしている.このうち,乾性降下物は地表に降下する湿性,乾性降下物総量の約50%を占めると推定されている.我が国では乾性降下物評価の一手法として,大理石,綱板,木片等を環境大気中に短期間暴露し,沈着するガス状及び粒子状物質の沈着量,沈着現象を求める代理表面法が試みられている.しかし,乾性降下物の沈着は,風速,沈着する物質表面の物性などにより著しく変化する.そのため,その測定,評価は非常に難しく,沈着に関する詳細な情報は殆ど得られていない.
 本解説では,著者らが実施した独自の代理表面法について,その特徴,測定上の留意点,測定の具体例,水溶液の酸性度,飽和の影響,ガス状物質および粒子状物質の沈着の区別,沈着成分の捕集面からの離脱の影響,化学的変質の影響,大気中のガス状,粒子状物質濃度および気象の測定について紹介した.
 
19 高活性炭素繊維を用いた大気浄化技術と将来への展望
  下原孝章
「工業材料」特集−規制強化に対応する排ガス浄化材料−,p64-70,2002年12月.
高活性炭素繊維(ACF)は石油系ピッチ,ポリアクリロニトリル(PAN)等を窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で加熱溶融,紡糸し,不溶融化,賦活処理を施した繊維である.ACFは太陽光等の光を必要とせず,室温付近で窒素酸化物(NOx)の吸着,分解し,二酸化硫黄(SO2),微量化学物質を吸着する.また,吸着した微量化学物質の分解についても期待されている素材である. 
 本解説では,ACFの製造方法及び特徴,ACFと活性炭の違い,本研究の概要,室内基礎実験,戸外における環境大気浄化試験,その他の大気汚染物質の除去能力,ACF形状の設計及び活性寿命,大気浄化に対する将来の方策について既述した.ACFは自動車のフロント部に設置する自然通風方式あるいはラジエターファンの前段,エンジンの空気取り入れ口に,装着する強制採気方式等が考えられる.これらの方式では何れも電気エネルギーが不要となる.何れの方式でもACF量を増やすことにより,活性維持期間,メンテナンス期間の延長が可能であることを紹介した.
 
20 β-シクロデキストリンを酸化的二量化反応の制限媒体として用いた 2,2'-ジヒドロキシ-5,5'-ジアセチルアミノビフェニルの選択的合成
  池浦太莊
福岡県保健環境研究所年報, 29, 114-118, 2002.
 無蛍光のp-アセトアミドフェノール(AAP)がオゾンと定量的に反応して酸化縮合し,強い蛍光を発する 2,2'-dihydroxy-5,5'-diacetylaminobiphenyl(Dimer)を生成する反応は,オゾンや過酸化水素の高感度測定法として利用されている.しかし,Dimerが市販されていないことが,使用上のネックとなっていた.そこで,Dimerの簡単な合成法を検討した結果,AAPをβ-シクロデキストリンで包接した後酸化すると,副反応が抑えられ高い収率でDimerが得られることを見いだした.
 AAPは医薬品名をアセトアミノフェンと称し,鎮痛剤として広く利用されており,Dimerの簡単な合成法の開発は,医薬品の品質管理の分野においても意義あるものと考える.
 
21 日本における7Be降下量の地理的分布と特徴
  楢崎幸範,藤高和信*
保健物理,37,317-324(2002).
 日本における1989〜1995年の7Be降下量の平均値は1,500 Bq/ m2,その範囲は290〜6,500Bq/ m2であった.また,年間の7Be降下量を年間の降水量で除して求めた降水中7Be濃度は0.2〜2.8Bq/l,平均値は1.0±0.4Bq/lであった.日本の7Be降下量は石川,富山,福井などの日本海側で多く,太平洋側では幾分少なく,内陸部及び瀬戸内海沿岸部では明らかに少なかった.日本海側の地域では冬季に降水量及び降水中7Be濃度のいずれも極大を示し,このことが日本海側で年間7Be降下量が多い原因であった.太平洋側の東日本では春季と秋季に,西日本では春季に7Be降下量の増加が認められた.内陸中央帯の盆地及び瀬戸内地方では年間をとおして7Be降下量は少なかった.
* 放射線医学総合研究所
 
22 フォールアウト7Be の樹葉への捕捉及び離脱に関する評価
  楢崎幸範,高橋知之*
保健物理, 38,38-44(2003).
 フォールアウト放射性核種の樹葉への捕捉及び除去機構について検討するため,約 2年間にわたりチャノキ,ビワ及びモミ樹葉中7Be及び40K濃度の測定を行い,その季節変動の傾向について考察した.また,あわせて測定した7Beの沈着フラックス及び降水量のデータを用いることにより,フォールアウト放射性核種の葉面への捕捉及び除去を評価するモデルを構築し,その適合性について検討するとともに,導出されたパラメータ値について検討した.この結果,樹葉中7Be濃度は樹種によって大きく異なること等が明らかとなった.また,7Beの葉面への捕捉及び除去を評価するモデルはチャノキ樹葉及びビワ樹葉に対して有効であり,葉面からの環境半減期はチャ樹葉で 24日,ビワ樹葉で66日であった.
* 京都大学




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