論文等発表(平成15年度,2003年度)

1 防音壁の遮音性能に及ぼす音源指向性の影響
  松本源生,藤原恭司*
超音波テクノ,15,No.5, 93-97,2003.
 防音壁の挿入損失を音源の指向性を考慮して検討した.まず,大きさを無視できない指向性音源の例として,建物からの外壁透過音を取り上げた.内部を拡散音場と仮定し,透過音を外部音場への音源として境界要素法を適用する2次元音場モデルにより,防音壁の挿入損失が精度良く再現できることを示した.
 また,厚みが十分薄く剛な障壁に関して,音源指向性が防音壁の遮音効果に及ぼす影響について検討した.その結果,大きさが十分小さく,しかもエッジまでの距離で指向性が安定する音源に対しては,無指向性音源と比較した挿入損失の差が,指向性音圧レベル差により近似されることを示し,簡易導出式を提案した.近似の精度は,仰角が大きくなるほど小さくなるが,地面近傍では問題ない精度であることを確認した.
* 九州大学
 
2 Uptake of polychlorinated dibenzo-p-dioxins and furans in plant leaves
  Takahiko Matsueda,Yoichi Kurokawa,Hironori Hirakawa,Ryuichi Suda and Takao Iida
福岡県保健環境研究所年報,第30号,103-108,2003.
 樹木の葉へのPCDDsとPCDFsの蓄積のメカニズムを明らかにするため,2種類の落葉樹(イチョウとアメリカフウ)について,PCDDsとPCDFs濃度の経時変化を調べた. 発芽直後の新芽に比較的高濃度のPCDDs及びPCDFsが検出された. イチョウは出芽後27日まで,アメリカフウは55日まで濃度の減少が見られたが,その後,濃度の上昇が観察された.この濃度変化は短枝の外皮から芽へのダイオキシンの移動とその後の葉の急成長による希釈及び大気からの沈着によるものと考えられた.
 新芽の大気への暴露期間が短いため,新芽中のダイオキシンは大気由来とは考えられない.この見解の妥当性を評価するために,短枝部位の冬芽,茎及び表皮に分割して,各々の部分のPCDDs及びPCDFsの濃度と同属体パターンを解析した.その結果,新芽に含まれるPCDDs及びPCDFsの由来は表皮からの移行と推定された.土壌中のPCDDs及びPCDFsは根を経由して葉に濃縮されないと考えられていることから,表皮に含まれるPCDDs及びPCDFsは葉に蓄積されたものが落葉前に移行したものと考えられた.
 
3 A Longitudinal Analysis on the Association of Serum Lipids and Lipoproteins Concentrations with Blood Polychlorinated Biphenyls level in Chronic "Yusho" Paitients
  Shoji Tokunaga*, Kyoichiro Kataoka
福岡医学雑誌, 94(5),110-117,2003.
1986年から2000年までの15年間の全国油症患者追跡検診の結果をもとに,福岡県と長崎県で観察期間中5回以上受診した認定患者について,経時的に繰り返し測定された血中PCB濃度と総コレステロール,HDLコレステロール及び中性脂肪との関連を統計学的に考察した.その結果,血中PCB濃度が10倍になると血清コレステロール濃度が男で18.4mg/dl,女で19.7mg/dl上昇し,血清中性脂肪濃度が男性で43.4%,女で42.8%上昇すると推定された.
* 九州大学
 
4 殺菌効力試験用検査材料として提出された消毒薬に混入していたセラチア菌
  堀川和美
日本防菌防黴学会雑誌,31,39-40,2003.
 1988年殺菌効力試験用検査材料として提出された塩化ベンザルコニウム10%液に,開封前から細菌によって汚染していた事例があった.被検材料の汚染菌は腸内細菌科に属するグラム陰性のセラチア菌で,汚染菌数は,9×103cfu/mlであった.セラチア菌は院内感染症の原因菌としても重要である.また本菌は抗生物質や消毒薬に対して耐性を示すことでも知られている.分離菌は市販塩化ベンザルコニウム液の8%液(最終濃度0.8%液)でも殺菌効力がみられなかった.
 
5 Vibrio cholerae O8感染事例−福岡県
  堀川和美,村上光一,長野英俊,濱崎光宏,石黒靖尚,荒川英二*1,渡邉治雄*1,近藤正治*2,森田繁*2,原一美*2,江崎泰之*3
病原微生物検出情報,25(287),8,2004
 2003年8月21日にVibrio cholerae O8感染患者が発生し,当該菌はコレラ毒素産生遺伝子を保有していた.現在,感染症法2類感染症として取り扱っているコレラはVibrio cholerae O1及び139型の2型である.しかし,これら2型以外のVibrio choleraeにもコレラ毒素産生遺伝子保有株があり,今後2類感染症としての取り扱いについて検討する必要があると考えられた.
*1 国立感染症研究所, *2 久留米臨床検査センター, *3 さえき小児科・内科医院
 
6 Structure activity relationship between Salmonella-mutagenicity and nitro-orientation of nitroazaphenanthrenes
  Hiroshi Tokiwa*1,Nobuyuki Sera,Kiyoshi Fukuhara*2,Hideo Utsumi*3,Shigeki Sasaki*3,Naoki Miyata*4
Chemico-Biological Interactions,146,19-25,2003.
 ニトロアザフェナンスレン誘導体7種類,ニトロアザフェナンスレンオキシド誘導体12種類について,変異原性(TA98,TA100,TA98NR,TA98/18DNP6, YG1021,YG1024,YG1026,YG1029)を測定し,物理化学的性状との関連について検討した.その結果,変異原性は母骨格に置換する置換基の置換角度と相関することが明らかとなった.
*1 Kyushu Women's University, *2 National Institure of Health Sciences, *3 Kyushu University, *4 Nagoya City University
 
7 GC/MSによる農作物中残留農薬の一斉分析法の検討
  芦塚由紀,中川礼子
福岡県保健環境研究所年報,第30号,109-116,2003.
 農作物中の残留農薬スクリーニング法として,アセトニトリル/水抽出及び固相抽出管精製によるGC/MSの一斉分析法を検討した.リン系,塩素系,カーバメート系,ピレスロイド系等の計97農薬について,オレンジ,キュウリ,玄米を用いた添加回収試験(n=5)をそれぞれ2段階の濃度で行った.その結果,72農薬で,残留農薬分析法の標準的目安である70%−120%の良好な回収率が得られ,スクリーニング法としての有用性が示された.また,本法を用いて,県内で購入した果実7検体,野菜15検体を調査した結果,果実ではブドウ1検体とイチゴ3検体から,野菜では,ナス,ピーマン,白菜の各1検体から農薬が検出された.検出された農薬は,アセタミプリド,ピリダベン,フェナリモル,フルバリネート,アセフェート,ジエトフェンカルブ,イプロジオン,フェンバレレートで,いずれも農薬の残留基準値以下の濃度であった.
 
8 油症患者血中ダイオキシン類レベルの追跡調査(2001年)
  飯田隆雄,戸高 尊*1,平川博仙,飛石和大,松枝隆彦,堀 就英,中川礼子,古江増隆*2
福岡医学雑誌,94(5),126-135,2003.
 平成13年度に油症患者78名からインフォームドコンセントを得て採取された血液からダイオキシン類を測定した。この分析は、我々が開発した5mlの血液からダイオキシン類を検出測定する超微量高感度迅速分析法で行った。PCBのガスクロマトグラムパターン(GC-パターン)がAタイプを示す20名の総TEQ濃度の平均値は370pg TEQ/g lipid、Bタイプを示す31名は370pg TEQ/g lipid、Cタイプを示す25名は66pg TEQ/g lipidは29pg TEQ/g lipidであった。GCパターンがAおよびBタイプの患者は一般人と比べて血中ダイオキシン類濃度がかなり高いが、Cタイプの患者は一般人と同程度の値であった。血中ダイオキシン類TEQ濃度の内訳(PCDDs:PCDFs:non-ortho PCBs:mono-ortho PCBs)はAタイプ及びBタイプの内訳はほとんど同じで、これは一般人のそれとは大きく異なっていた。他方、Cタイプの内訳は一般人のそれに類似していた。
*1 社団法人 日本食品衛生協会, *2 九州大学
 
9 血中PCBパターン判定における従来法と異性体別分析法の同等性について
  中川礼子,芦塚由紀,堀就英,平川博仙,飛石和大,飯田隆雄
福岡医学雑誌,94(5),144-147,2003.
 油症患者の血中PCBのパターン判定について,従来法であるパックドカラム-電子捕獲型検出器(ECD)付きガスクロマトグラフ(GC)(標準品としてKC-500:KC-600=1:1の混合溶液を用いたパターン合わせ法)とキャピラリーカラム-GC/高分解能質量分析計(HRGC/HRMS)による異性体別分析法との同等性について検証した.パターン判定は,A又はBパターンについては98.2%,Cパターンについては94.3%の一致率を示し,両者の方法で同等性が認められた.これにより,より毒性評価が正確にできる異性体別分析法への移行が可能であることが示された.
 
10 Measurement of blood dioxin in human blood : Improvement of analytical Method
  Takao iida and Takashi Todaka*
Industrial Health, 41(3), 197-204,2003.
 日本全国の油症患者の血中ダイオキシン濃度を迅速に測定するため、高速溶媒抽出法、大量溶媒注入装置付きGC/MS及びカラムクリーンアップ系のダウンサイジングによる超微量迅速底療法を確立した。現在、油症患者約400名の血中ダイオキシンをこの方法によって分析中である。
* Japan Food Hygiene Association
 
11 New protocol of Dioxins analysis in human blood
  Takashi Todaka*,Hironori Hirakawa,Kazuhiro Tobiishi and Takao iida
福岡医学雑誌,94(5),148-157,2003.
 5gの血液量でダイオキシン類分析を可能にする測定系および血液試料の前処理法を検討した。すなわち、高速溶媒抽出装置による血液試料からの脂質の抽出法、従来法の1/4スケールでのカラムクリーンアップ法および大量溶媒注入装置(SCLV InjectionSystem)を装備したHRGC/HRMSを用いて高感度測定の一連の分析方法について検討し、超高感度迅速分析法を確立した。大量溶媒注入装置の装備によりHRGC/HRMSの相対感度は10倍程度向上した.同一の血液を用いて行った従来法との比較検討結果から、5gの血液量でダイオキシン類濃度が十分測定可能であることが確認された.さらに、従来法に比べ血液試料の前処理段階で費やす時間を大幅に短縮することができた.本法は5g程度の少量の血液量でダイオキシン類を測定できるだけでなく、多数のサンプルを効率よく、かつ迅速に処理するのに効果的な方法である.
* Japan Food Hygiene Association
 
12 Frequency of SCEs in Japanese Infants Lactatioally Exposed to Organochlonone Pesticides
  Junya Nagayama*1,Mayumi Nagayama*1,Reiko Nakagawa,Hironori Hirakawa,Takahiro Matsueda Takao Iida and Jun'ichiro Fukushige*2
福岡医学雑誌,94(5),166-173, 2003.
 ヒト母乳中には様々な化学汚染物質が残留していることがわかっている。今回、健康な母親から採取した母乳中に残留するDDT、HCH等の農薬濃度と授乳を受けた乳児の血液中SCEの105組について、その相関を調べた。その結果、DDTやHCHの増加によって、SCEが影響を受けており、何らかの遺伝毒性があることが示唆された。
*1 Kyushu University, *2 Fukuoka Children's Hospital
 
13 SO2,NOxを除去できる新しい高活性炭素繊維
  下原孝章
「図解 エコマティリアルのすべて」−環境新材料研究会編−,工業調査会,p.230-235,2003.
 高活性炭素繊維は光照射を必要とせず,室温付近の温度で,環境空気中の窒素酸化物,二酸化硫黄,微量化学物質などを吸着,除去する優れた能力をもっている.また,最近になって,高活性炭素繊維は窒素酸化物を無害な窒素ガスと水に分解できる触媒的な作用をもつことが分かってきた.現在,独立行政法人 環境再生保全機構(旧「公害健康被害補償予防協会」)からの受託研究として,九州大学との共同研究によりその浄化機能を向上させるための技術改良,実証化に向けた調査研究を行っている.
 
14 福岡県における室内化学物質の実態調査
  力 寿雄,柳川正男,濱村研吾,大石興弘,岩本眞二,中村又善
福岡県保健環境研究所年報,第30号,117-124,2003.
 新築住宅における総揮発性有機物(TVOC;Total volatile organic compounds)を様々な分析方法で測定することにより,TVOCについて,測定方法の確立,実態の把握を目的とした調査を福岡県内の全15戸の住宅において実施した.揮発性有機化合物(VOC;Volatile organic compounds)については,アクティブ法により116成分が定量可能であったが,テルペン類の定量には2種類の捕集管の併用が必要であった.また,パッシブ法によりハロゲン化炭化水素類やエステル類の空気中濃度を推測することが可能であった.本調査結果から,TVOC値の高い住宅は築3ヶ月以内の新築住宅が中心であったが,石油系暖房器具の使用の影響もあると推察された.また,室内空気中主要物質について,人の1日吸入暴露量の推定を行った.
 
15 Mutagenic activity in roadside soils
  Hiroko Tsukatani,Yoshito Tanaka,Nobuyuki Sera,Nobuhiro Shimizu,Shigeji Kitamori,Naohide Inoue*
The Journal of Toxicological Sciences,27(3),183-189,2002.
 久留米市内幹線道路の中央分離帯,歩道及び道路沿い公園内の土砂試料の変異原活性をAmesテストにより調査した.また,多環芳香族炭化水素類(PAHs)及び重金属濃度も調べた.その結果,ネズミチフス菌TA98,TA100株に対して変異原活性が認められ,変異原活性が高いものほどPAHs,重金属濃度も高くなる傾向がみられた.また,YG株でより高い活性を示したことから,ニトロアレーン,ヒドロキシルアミンの存在が示唆された.さらに,中央分離帯,歩道,公園内の順に変異原活性,PAHs及び重金属濃度が低くなる傾向がみられ,樹木による影響あるいは距離による減衰が考えられた.
*Kyushu University
 
16 Validity of mutagenic activity as an indicator of river water pollution
  Hiroko Tsukatani,Yoshito Tanaka,Nobuyuki Sera,Nobuhiro Shimizu,Shigeji Kitamori,Naohide Inoue*
Environmental Health and Preventive Medicine,8(4), 133-138,2003.
 変異原性試験の水質汚濁指標としての重要性を明らかにするために,九州北部地域の河川で採取したブルーレーヨン抽出物の変異原活性を調べ,従来の水質汚濁指標の値との比較を行った.試料抽出物の中でネズミチフス菌YG1024,YG1041株に対して他の試料よりも高い変異原活性を示すものが確認された.今回の試料について,変異原活性と従来の水質汚濁指標との間には特に相関はみられなかったことから,従来の水質汚濁指標により変異原活性を予測することは困難であることが示唆された.これらの結果から,変異原性試験のような生物試験による評価は水質汚濁指標として重要であると考えられた.
* Kyushu University
 
17 博多湾におけるホトトギスガイが貧酸素水塊に与える影響
  熊谷博史,山崎惟義*1,渡辺亮一*1,藤田健一*2
環境工学研究論文集,40,595-606,2003.
 博多湾におけるホトトギスガイの消長の挙動を知るため,その分布を調査した.ホトトギスガイは貧酸素水塊の発生しない条件下で年間9割近くが死亡していた.また,得られた殻長−個体数分布をもとに個体数の数値計算を行い,おおむねその季節変化を再現できた.さらに,殻長−乾燥身質量のアロメトリー式を用いて,各地点・各月のホトトギスガイの死亡数・乾燥死亡質量を算定したうえで,ホトトギスガイのCNP含有量を用いて,それらを好気的に分解する上で必要な酸素量を推定した.その結果,晩秋に起こる貧酸素水塊によるホトトギスガイの絶滅は貧酸素水塊の二次的被害を拡大することが想定された.
*1 福岡大学, *2 九州環境管理協会
 
18 工場排水処理施設に関する技術相談事例−味噌製造事業場の活性汚泥の管理と全リンの関係−
  熊谷博史,志水信弘,永淵義孝,松尾宏,中村又善,若松美知子*
福岡県保健環境研究所年報,第30号,142-147,2003.
 全リンの排水基準値を超過した味噌製造業者の原因究明を行うために排水処理調査を行った.各工程の排出水及び排水処理施設の活性汚泥を分析した.その結果,調査した各工程排水・活性汚泥の物理的性状に問題はなかった.一方,曝気槽の活性汚泥中のリン含有量は一般の値より低く,曝気槽中の溶存酸素も不足する傾向にあった.原因は高濃度に存在していた曝気槽内の活性汚泥が,間欠曝気の採用・曝気装置の不具合等の原因により嫌気的条件下におかれた為に,高濃度の活性汚泥中から水中への大量のリンの放出が起こったためと推察された。曝気量増加・汚泥の引き抜き等の提案を行ったところ,活性汚泥中のリン含有量も増加し,放流水中の全リン濃度も大幅に低下した.
* 山門保健福祉環境事務所
 
19 Seasonal variation of 7Be deposition in Japan
  Yukinori Narazaki,Kazunobu Fujitaka*1,Shuichi Igarashi*2,Yoichi Ishikawa*3,Naoto Fujinami*4
Journal of Radioanalytical andNuclear Chemistry,256, 489-496,2003.
 1989−1995年において日本の45都道府県(26゜18'N,127゜54'E-43゜04'N,141゜27'E)に降下した7Beの長期変動から地域ごとの季節変動を明らかにした.北陸を中心とした日本海側の地域は冬にピークを示すWinter peak,太平洋側の東日本ではSpring peakと9月にピークを示すDouble peaks,西日本ではSpring peakだけを示すSingle peak,内陸中央帯ではNon peakの形を示した.4タイプの季節変動は大気中の7Be濃度に必ずしも支配されず,四季の変化による大気の流れ等の気象学的因子や局地的な地形によって相違が生じ,一部では降水量との関係も認められた.
*1 National Institute of Radiological Sciences, *2 Fukui Prefectural Environmental Radiation Monitoring Center, *3 Environmental Radioactivity Research Institute of Miyagi, *4 Kyoto Prefectural Institute of Hygienic and Environmental Sciences
 
20 福岡県における90Sr及び137Csの濃度分布と推移(1989−2000年)
  楢崎幸範,田上四郎
保健物理,38,148-153,2003.
 1989−2000年の環境(降下物,土壌,日常食,陸水,海水及び海底土)中90Sr,137Csの分析結果を対象に環境中での濃度分布と特徴を解析した.各試料中の90Sr,137Csは緩やかな経年減少傾向が認められる.降下物中の90Srは1997年以降検出されず,137Csも希であった.土壌中の90Sr,137Csは長期に残留していた.表層土壌中の90Sr,137Cs濃度は平均5.3Bq/kg乾土及び平均6.0Bq/kg乾土であった.都市部と漁村部の日常食中の90Sr,137Cs濃度の有意な差は食事内容や食事量が原因と考えられた.陸水及び海水中の90Sr濃度に有意差はなかった.海水中に検出される137Csは陸水中には検出されなかった.一方,海底土中に90Srは検出されないが,137Csは検出され,両核種の挙動には著しい差異が認められた.
 
21 降下物中の放射能測定における大陸起源エアロゾルの影響(第2報)
  石川陽一*1,木立博*1,伊藤節男*1,佐々木俊行*1,楢崎幸範,田上四郎,鈴木利孝*2
宮城県原子力センター年報,第20巻,5-9,2004.
 2000年以降の春期を中心として,アジア大陸からのエアロゾル(黄砂)にともなう降下物試料中には137Csが検出される.その起源及び発生メカニズムの解明のため,東北地方を横断する緯度上で降下物を採取した.その結果,137Cs降下量は日本海側地域で高い傾向が見られた.また,宮城県と福岡県で大気浮遊じんを採取して137Csを測定したところ,137Cs濃度は大陸起源エアロゾル飛来時に高い値を示した.
*1 宮城県原子力センター, *2 山形大学
 
22 Bio-kinetics of radon ingested from drinking water
  Tetsuo Ishikawa*1,Yukinori Narazaki,Yumi Yasuoka*2,Shinji Tokonami*1,YujiYamada*1
Radiation Protection Dosimetry,105,65-70,2003.
 ホールボディカウンタを用いてラドンの胃からの消失速度を評価した.ラドンを飲料水として摂取した二人の被験者について,胃の上にNaI検出器を固定して測定を行った.214Pbと214Biから放出されるガンマ線の計数率を摂取後の時間とともに記録した.ラドン及びその子孫核種に関する体内動態を表現したコンパートメントモデルを用いて,これらの計数率データの解析を行った.すなわち,モデルが実験データにフィッティングするように,胃からのラドンの消失速度などのパラメータを変化させた.従来,ラドンの胃からの排出は水の排出速度と同等であると考えられており,胃からの排出に関する半減期は20分というのが典型的な値である.しかしながら本研究では,以前のモデルで考えられていたよりも長く胃の中に留まっていることが示唆された.
*1 National Institute of Radiological Sciences, *2 Kobe Pharmaceutical University
 
23 地下水中ラドン濃度測定装置の比較 −液体シンチレーションカウンタ,IM泉効計,電離箱,ラドンモニタで得られた結果−
  石川徹夫*1,安岡由美*2,楢崎幸範,床次眞司*1,石井忠*3,須田博文*4,山田裕司*1
Radioisotopes,53,21-28,2004.
 水中ラドン濃度測定装置の信頼性確認のために,同一水源から採取したサンプルを用いて,4種類の装置による比較実験を行った.液体シンチレーションカウンタに対する他の装置の測定値との比較では,IM泉効計以外の2種類の装置(バブリング装置+電離箱式,静電捕集式ラドンモニタ)では±3%以内であった.一方,IM泉効計は試料Aについて47%,試料Bについては22%の差が生じた.IM泉効計は「鉱泉分析法指針」に指定されている分析装置であり,従来から温泉水の分析に用いられており,校正方法等の検討が必要である.
*1 放射線医学総合研究所, *2 神戸薬科大学, *3 山梨大学, *4 香川大学
 
24 電解法による地下水中の硝酸性窒素の基礎的除去実験
  松尾宏,笹尾敦子,永淵義孝,石橋融子,西川雅高*1
福岡県保健環境研究所年報,第30号,131-136,2003.
 水の電気分解によって生ずる強酸性電解水は殺菌作用があることから,殺菌剤として農業分野で電解装置を導入する事例もみられる.電解装置は原理的に硝酸性窒素も濃縮・分離できると考えられ,畑地周辺の硝酸性窒素汚染井戸水から窒素成分を除去し,肥料として再利用することが可能となる.基礎的実験を行うため,電解槽の分離膜に多孔質膜を用い,電極はチタン板に白金をコーティングした電解装置を試作した. 44mg/lの硝酸性窒素で汚染された地下水を試料として用い,電解装置の電極に印加電圧0‐20Vで5時間通電し,硝酸性窒素の分離・濃縮に関する検討を行った.その結果,印加電圧20V,2時間の通電で,陰極槽の硝酸性窒素濃度は1.7mg/lまで減少し,陽極槽でpH2.2,硝酸性窒素86mg/lの強酸性濃縮水が得られた.電解装置による硝酸性窒素の分離・濃縮が可能であることがわかった.
* 独立行政法人国立環境研究所
 
25 電気透析装置と生物脱窒装置による硝酸性窒素汚染地下水のオンサイト浄化
  馬場義輝,松尾宏,石橋融子,永淵義孝,高橋洋子*1,野中信一*2,平田健正*3,西川雅高*4
水環境学会誌,26(6),361ー367,2003.
 硝酸性窒素汚染地域で浄化システムを14ヶ月間運転し,その窒素除去効果及び周辺環境への影響を調べる実証試験を実施した.浄化システムは電気透析装置と生物脱窒装置から構成され,1年間の浄化システムの運転により,試験地において96kgの窒素が地下水から除去された.
 窒素除去効果を評価するために試験地域の窒素収支及び水収支を計算した結果,試験地における1年間の窒素成分の地下浸透量は769kgとなり,浄化システムにより試験地の地下浸透窒素量の12.5%が除去されたと評価された.
 浄化システムの運転により処理水の放流先の溜池の富栄養化について調査したところ,溜池水質への影響は少ないと推定された.
*1 環境保全課, *2 神鋼パンテック, *3 和歌山大学, *4 国立環境研究所
 
26 福岡県における林地からのBOD,COD,全窒素及び全リンの流出負荷
  永淵義孝,松尾宏,佐々木重行*
福岡県保健環境研究所年報,第30号,125-130,2003.
 福岡県添田町の県営林内から流出する渓流水の水質及びその流出負荷について1999年から2001年の3年間にわたり検討した.調査対象とした3流域(W-1,W-4及びE-4)におけるBODの平均濃度は,河川の環境基準AA類型(1mg/l)をいずれも下回っていた.3 流域の渓流水ともBODとCODとの間には相関はなかった.調査結果から算出した3流域におけるBODの年間平均流出負荷量は,4.6-6.5kg/ha・年であり,CODは16.9-28.5kg/ha・年であった.一方,T-Nは 2.9-8.9kg/ha・年であり,T-Pは0.20-0.62kg/ha・年であった.これらの数値は,降下物から供給される負荷量と比較して,ほぼ同程度かそれより低いと推定された.
* 福岡県森林林業技術センター
 
27 The mutagenicity of amino-derivatives of diphenyl ether herbicides in new Salmonella typhimurium YG tester strains
  Yoshito Tanaka, Nobuhiro Shimizu, Hiroko Tsukatani, Nobuyuki Sera and Shigeji Kitamori
Water Science and Technology,46(11-12), 395-400,2002.
 4種のジフェニルエーテル系除草剤と環境中での分解過程で生じるアミノ誘導体の変異原性を従来のSalmonella typhimurium TA株と新たに開発されたYG株を用いて測定した.今回使用したYG株はニトロアレーン類やヒドロキシアミンの変異原性を高感度に検出するために開発された4株と酸化型変異原やアルキル化剤に選択的に検出する株を用いた.その結果,YG株では従来のTA株より高感度に変異原性が検出されることが明らかになり,その有用性が示唆された.また,ジフェニルエーテル系除草剤は原体よりアミノ体の方が変異原性が高いこと及び水中では微生物分解により容易にアミノ体に還元分解されることを実験的に明らかにした.
 
28 Estimation of orgnophosphoric acid triesters in soft polyurethane foam using a concentrated sulfuric acid dissolution technique and gas chromatography with flame photometric detection
  Makoto Nagase,Mineki Toba,Hiroyuki Kondo,Akio Yasuhara*1,and Kiyoshi Hasebe*2
Analytical Sciences,19(12),1617-1620,2003.
 硫酸溶解法及びガスクロマトグラフィーを用いた,軟質ポリウレタンフォーム中の有機リン酸トリエステル類{リン酸トリブチル,リン酸トリス(2-クロロエチル),リン酸トリス(2-クロロプロピル),リン酸トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル),リン酸トリフェニル及びリン酸トリス(ブトキシエチル)}の分析法を開発した.この分析法の検出限界は0.3-0.9μg/gであり,実試料から5種の有機リン酸トリエステル類がND-23.3μg/g検出された.
*1 National Institute for Environmental Studies, *2 Fuji Women's University
 
29 福岡県内小河川の大型底生動物相
  山崎正敏,緒方健,杉泰昭
福岡県保健環境研究所年報,第30号,148-158,2003.
 福岡県内15の小河川の大型底生動物の生息状況を調査した.調査は30地点で行ったが,これらのうち7地点は,優占種及び優占種以外とも,汚濁した水域や,やや汚濁した水域に生息する種類であり,ASPT値も低かった.これら以外に地点では,やや汚濁した水域や清涼な水域に生息している種類が混在しており,ASPT値による評価でも極端に不良な水環境はなく,やや良好な水環境から良好な水環境といえ,今後,水質の改善や周辺環境の改善が進めば,清涼な水域に生息する種類が増加し,生物学的に良好な環境になっていくものと思われた.また,絶滅危惧種や特殊な環境に生息する希少種,未記録種も生息しており,河川水環境の保全は河川本線のみではなく小河川の保全も重要と思われた
 
30 福岡県下の河川源流部の大型底生動物相
  緒方健,杉泰昭,山崎正敏
福岡県保健環境研究所年報,第30号,159-166,2003.
 福岡県下の5河川源流部の大型底生動物相を調べた.主要な生物群のうちカゲロウ目,カワゲラ目の個体数の差はは河川源流部周囲の日射量の影響が大きいように思われた.また,他の源流部と比べて古処山源流部において甲殻類及び貝類が特に多かったのは,石灰岩の地層と関連があるものと思われた.福岡県下の河川源流部に生息する大型底生動物の生息状況からは酸性降下物の影響を示唆するような結果は得られなかった.しかし,河川源流部の生物相は温暖化等の地球規模の環境変動の影響を受けやすいものと思われ,今後も定期的なモニタリング調査が望まれる.
 
31 中・小型の水生カメムシ目を用いた生態影響評価試験
  緒方健
日本環境毒性学会(編),生態影響試験ハンドブック,朝倉書店,pp163-170,2003.
 化学物質の水生昆虫に対する生態影響評価試験の対象生物としての水生カメムシ目の飼育法・試験法について解説した.使用した生物は,ナベブタムシ,アサヒナコミズムシ,マルミズムシの3種で,それぞれ,ユスリカ幼虫,乾燥酵母+藻類,オオミジンコを餌とすることで累代飼育が可能であった.毒性試験の方法はオオミジンコを用いた急性毒性試験方法と同様に50mlビーカーを用いた方法で可能であったが,ナベブタムシについては人口底質として小型ガラス玉を数個,アサヒナコミズムシとマルミズムシについては水草の代わりにテフロンネットを入れてやることで行動が安定しより良好な結果が得られた.



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