論文等発表(平成17年度,2005年度)

1 大規模コーホート研究の血清疫学的分析から見た日本人の発がんリスクの評価 −胃がん−
  吉村健清. 田島和雄*1(監);徳留信寛, 古野純典, 中地淳(編)
『がん予防の最前線(下)−最新の研究成果と予防戦略−』,40-48,2005.
がん死亡の中で,胃がんは死亡数,死亡率ともに最も多いがんであったが,男では,最近10年肺がん死亡にとってかわられた.女では,依然としてがん死亡のトップであるものの,大腸がん死亡数とほぼ肩を並べる程となった.胃がん死亡数は,ここ30年間,人口の高齢化のため年間約5万人程である.しかし,高齢化の影響を除いた年齢調整死亡率は,最近の30年間で急激に減少している.これは,日本人の食生活を中心とする生活習慣の変化,胃がんの集団検診の普及,胃がんの診断,治療技術の進歩によるものと考えられる.
 胃がんの原因については,塩分摂取などの食生活,ピロリ菌感染と研究が進められているが,十分解明されている訳ではない.本稿では,日本で1988年から文部省の研究費で開始された大規模コホート研究によって,2003年までに得られた胃がんに関する研究成果を述べた.
*1 愛知がんセンター研究所
 
2 第1部 国際保健医療学にかかわる領域 6 疫学
  吉村健清 他; 日本国際保健医療学会(編)
『国際保健医療学 第2版』,50-53,2005.
 疫学は人の病気(健康問題)の分布を調べ,その分布の特徴から病気を起こす要因の仮説をたて,その仮説が正しいか否か人を対象として検証をし,病気を起こす要因を探そうとするものである.こうして得られた疫学の知見をもとに,その病気の予防対策を計画する.すなわち,疫学は疾病対策の基礎情報を提供することを目的としている.
 本稿では国際保健並びに国内でも重要性が強調されている感染症対策に疫学が課す役割を述べた.
 
3 The Japan Collaborative Cohort Study (JACC Study) for Evaluation of Cancer Risk sponsored by the Ministry of Education,Science,Sports and Culture of Japan (Monbusho)  -Report of Concepts and Basic Results-
  Takesumi Yoshimura,Yutaka Inaba*1,Yoshinori Ito*2,Shuji Hashimoto*3,Akiko Tamakoshi*4,and Yoshiyuki Watanabe*5
Journal of Epidemiology(Supplement I),15,S1-S3,2005. 
文科省研究によるがんリスク評価のための大規模コホート研究(JACC スタディ)が1986年に開始された.本研究は全国24施設36疫学研究者の共同研究として実施され,吉村も参加している.今回45地区約13万人の記述疫学研究の成果と質問項目の妥当性の検討に関する研究を中心にまとめ,本書の編集責任を担った.
*1 Juntendo University,*2 Nagoya University,*3 Fujita Health University,*4 National Center for Geriatrics and Gerontology, *5 Kyoto Prefectural University of Medicine
 
4 The Japan Collaborative Cohort Study(JACC Study)for Evaluation of Cancer Risk sponsored by the Ministry of Education,Science,Sports and Culture of Japan (Monbusho) −Report of Selected Results by Site−
  Takesumi Yoshimura,Yutaka Inaba*1,Yoshinori Ito*2,Shuji Hashimoto*3,Akiko Tamakoshi*4,and Yoshiyuki Watanabe*5
Journal of Epidemiology(Supplement U),15,S87-S88,2005.
前述のSupplementTに引き続き,JACCスタディとして実施された大規模コホート研究において得られた成果を肺,胃,膵胆,肝,結腸・直腸,尿路,食道それぞれのがんについてまとめた.吉村は論文の共著者であると共に,本書の編集責任を担った.
*1 Juntendo University,*2 Nagoya University,*3 Fujita Health University,*4 National Center for Geriatrics and Gerontology, *5 Kyoto Prefectural University of Medicine
 
5 Risk of cancer after low doses of ionising radiation-retrospective cohort study in countries.
  Cardis E*, Vrijheid M*1, Yoshiura T et al.
British Medical Journal,331(7508),77,2005.
放射線低線量,低線量率長期曝露のがんリスクを推定し,職業曝露などの放射線防護基準の基礎とするため,全世界15ヶ国が参画し,後ろ向きコホート研究を実施した.約40万人(520万人年)を追跡し,がんリスクを見たところ,白血病のERRは1.93/sv(95%CI < 0, 8.47), 固形がんのERRは0.97/sv(0.14, 1.97)であった.この結果は信頼区間の大きさから従来得られているERR推定と大きく異なるものではなかった.
*1 International Agency for research on Cance
 
6 大学の利点と現場の利点
  吉村 健清
『公衆衛生』,69(8),650-652,2005.
 公衆衛生,予防医学,疫学というキーワードは大学でも行政の研究機関でも共通である.しかし2つは異なる目的をもつ事が判明した.すなわち,大学では教育・研究,行政研究所では行政施策,実施の科学的技術的支援である.しかしながら,両機関とも現場からの情報がなければ,研究も教育も行政への科学的支援もできない.従って,これからの公衆衛生,予防医学は,大学の研究者と行政研究所の研究者が共に利点を生かし合い,相互に協力,連繋し,それぞれの目的を達成できるよう努力することが必要であることを述べた.
 
7 気密性のある容器包装に詰められた食品の細菌汚染実態
  堀川和美,濱ア光宏,村上光一,石K靖尚,臂 博美*1,長野英俊*2,小熊惠二*3
日本食品微生物学会雑誌,22(3),95-102,2005.
福岡県内で販売されている容器包装詰食品5品目について一般細菌,クロストリジア,ボツリヌス毒素,水分活性及びpHを測定した.標準寒天培地に発育した細菌は,16SrDNA塩基配列に基づく相同性検索を行なった. 5品目中4品目はpHが4.6を超え且つ水分活性が0.94以上の食品であった.4品目中1品目はすべての検体から一般細菌が検出された.また,殺菌方法が記載されていない3品目の食品中2品目から細菌が検出された.食中毒予防の観点からこれらの食品の包装詰前後の加圧・加熱条件を明確にし,第三者が確認できるシステム作りが必要である.またその条件によっては,流通過程での保存方法や賞味期限の設定等に関する指導が必要と考えられた.
*1 京築保健福祉環境事務所,*2 田川保健福祉環境事務所,*3 岡山大学
 
8 Evaluation of Pulsed-Field Gel Electrophoresis Analysis Performed at Selected Prefectural Institutes of Public Health for Use in PulseNet Japan
  M. Matsumoto*1, Y. Suzuki*1, H. Nagano*2, J. Yatsuyanagi*3, H. Kurosaka*4, K. Yamaoka*5, K. Horikawa, J. Kudaka*6, J. Terajima,*7 H. Watanabe*7 and Y. Miyazaki*?
Japanese Journal of Infectious Diseases,58(3),180-183,2005.
 PFGE解析の有用性と再現性を確認するため,PulsNet Japanサーベイランスに参加している地方衛生研究所で,PFGEパターンが異なる14株のO157について解析を行なった.その結果,PulseNet Japanの確立のためには,PFGEプロトコールについて標準化が必要であることが分かった.
*1 愛知県衛生研究所,*2 北海道立衛生研究所,*3 秋田県衛生科学研究所,*4 群馬県衛生環境研究所,*5 神奈川県衛生研究所,*6 沖縄県衛生環境研究所,*7 国立感染症研究所
 
9 食中毒及び感染性胃腸炎の病原体と臨床症状
  久高潤*1, 堀川和美,瓜生佳世*2,松雪星子*3,緒方喜久代*4,河野喜美子*5,山口仁孝*5,山崎省吾*5,渡辺治雄*7,岩永正明*8
感染症学雑誌,79(11),864- 870,2005.
 食中毒及び感染性胃腸炎の潜伏時間と下痢,嘔吐,発熱,腹痛,頭痛等の臨床症状を集計し検討した.特に発生頻度の高い10病原体(Norovirus, Salmonella, Vibrio parahaemolyticus, Campylobacter jejuni, Clostridium perfringens, 腸管出血性大腸菌,毒素原性大腸菌,Shigella sonnei/flexneri (Shigella), Staphylococcus aureus, 嘔吐型Bacillus cereus)について解析を行った.対象としたのは2000年1月から2004年12月までに九州10地区の衛生研究所管内で発生した646症例である.今回の調査で,潜伏時間,血便,嘔吐,発熱の4項目では病原体別に特徴的な発現頻度を有する事が判明した.今回の結果は医療機関を受診するまでもない軽症者から入院を要した重傷者,また幅広い年代が含まれることから,保健所や衛生研究所が集団食中毒等の原因調査を行う際の有用な資料になると思われた.
*1 沖縄県衛生環境研究所,*2 福岡市保健環境研究所,*3 佐賀県衛生薬業センター,*4 大分県衛生環境研究センター,*5 宮崎県衛生環境研究所,*6 長崎県衛生公害研究所,*7 国立感染症研究所,*8 琉球大学
 
10 関節腔内注射による黄色ブドウ球菌集団感染事例
  財津裕一*1,堀川和美,野田多美枝,田代律子*2
Modern Physician,26(3),441-445,2006.
 2004年3月福岡県内の病院で,変形性関節症患者に対する関節腔内注射により,黄色ブドウ球菌の集団感染が発生した.注射の準備及び施術に関与した医師及び看護師について調査した結果,2名の看護師が準備した注射液を使用した患者のみが発症していることが判明した.さらに関係者の鼻腔,手指等から検出された黄色ブドウ球菌と患者から検出された黄色ブドウ球菌についてPFGEによるDNA解析を行なった.その結果,2名の看護師とそれぞれが関与した患者から分離された菌株のDNAパターンが一致していた.疫学及び細菌学的調査の結果から,関節腔内注射調整時に黄色ブドウ球菌が汚染したことが判明した.この治療は一般医療機関で広く行なわれており,対象者も多く,再発防止の参考とするため概要を報告した.
*1 宗像保健福祉環境事務所,*2 遠賀保健福祉環境事務所
 
11 Hepatitis E virus transmission from wild boar meat
  Li TC*1, Chijiwa K*2, Sera N*2, Ishibashi T*2, Etoh Y*2, Shinohara Y*3,Kurata Y*3, Ishida M*4, Sakamoto S*5, Takeda N*1, Miyamura T*1
Emerg Infect,11, 1958-1960, 2005.
E型肝炎ウイルス(HEV)が、野生イノシシからヒトに感染する直接的な証拠を報告する。患者は野生イノシシ肉の喫食が原因で感染したと推定されたことから、患者血清と喫食したイノシシ肉の検査を行った。検査の結果、イノシシ肉からHEV-RNAが検出されたが、患者の血清からはHEV-RNAは検出されなかった。そこで、イノシシ肉から検出されたHEV-RNAの塩基配列を基にプライマーを設計し、患者血清についてRT-PCRを行ったところ、血清からもHEV-RNAが検出された。イノシシ肉と患者血清から検出されたHEVの塩基配列を比較したところ、1980塩基のうち1979塩基が一致しており、イノシシ肉が感染源となったことを直接的に示す証拠となった.
*1 National Institute of Infectious Diseases,*2 Fukuoka Institute of Health and Environmental Sciences,*3 Tagawa Health, Welfare, and Environment Office,*4 Fukuoka Prefectual Government ,*5 Iizuka Hospital
 
12 福岡県内における野生イノシシ肉からのE型肝炎ウイルス(HEV)感染事例
  江藤良樹,石橋哲也,世良暢之,千々和勝己
2005年3月に、福岡県内の保健福祉環境事務所へ、四類感染症としてE型肝炎患者の届出があった。その後の調査により、この患者は野生イノシシ肉の喫食が原因で感染したと推定されたことから、ウイルス検査のため、当所に患者血清とイノシシ肉が搬入された。検査の結果、当県として初めてイノシシ肉からHEV-RNAが検出された。また、これらの検体の検査を国立感染症研究所に依頼したところ、同じイノシシ肉からHEV-RNAが検出された。国立感染症研究所では、さらに、イノシシ肉から検出されたHEV-RNAの塩基配列を基にプライマーを設計し、患者血清についてRT-PCRを行ったところ、血清からもHEV-RNAが検出された。イノシシ肉と患者血清から検出されたHEVの塩基配列を比較したところ、241塩基のうち240塩基が一致しており、イノシシ肉が感染源となったことを直接的に示す証拠となった.
 
13 Retrospective analysis of atmospheric polycyclic and nitropolycyclic aromatic hydrocarbons in an industrial area of a western site of Japan
  Naoya Kishikawa*, Ayuko Ihara*, Masae Shirota*, Mitsuhiro Wada*, Yoshihito Ohaba*, Nobuyuki Sera, Kenichiro Nakashima* and Naotaka Kuroda*
西日本において採取された大気試料について,13種類の発がん物質の化学分析ならびに生物試験(変異原性,DNA損傷試験)を行い,両者の相関,経年変化ならびに発生源について検討を行った.その結果,ベンツピレン,ピレンならびに1-ニトロピレンは冬季に夏季より高濃度を示し,また生物試験の結果とも良い相関を示した.経年変化では1980年頃に採取された試料において特に高い値を示し,これは採取場所が重工業地帯であることから,工場からの煤煙によるものであると示唆された.
* 長崎大学
 
14 健康食品中の脱N−ジメチルシブトラミン及びシブトラミンのHPLC分析法
  森田邦正,毛利隆美,中川礼子
福岡県保健環境研究所年報,第32号,59-63,2005.
 逆相系の高速液体クロマトグラフを使って,健康食品中の脱N−ジメチルシブトラミン及びシブトラミンの分析法を検討した.健康食品中の脱N−ジメチルシブトラミン及びシブトラミンはメタノールを用いて抽出し,Bond Elut Certify カートリッジ(固相抽出法)を用いて2%アンモニア水-メタノール溶液でクリーンアップした.高速液体クロマトグラフはカラムにLiChrosorb RP18 (4.6 x 150mm, 5microns)を,移動相にpH7の0.02mol/Lリン酸塩緩衝液/メタノール(15:85,v/v)を用い,測定波長225nmで分析した.本法による健康食品からの脱N−ジメチルシブトラミン及びシブトラミンの回収率はそれぞれ88−96%及び87−91%,定量下限値はそれぞれ0.001mg/gであった.
 
15 健康食品中のビサコジルのHPLC分析法
  森田邦正,毛利隆美,中川礼子
福岡県保健環境研究所年報,第32号,64-68,2005.
 逆相系の高速液体クロマトグラフを使って,健康食品中のビサコジルの分析法を検討した.健康食品中のビサコジルは0.1%酢酸メタノールを用いて抽出し,Bond Elut C18及びBond Elut Certify カートリッジ(固相抽出法)を用いてそれぞれ0.1%酢酸メタノール及び2%アンモニア水-メタノール溶液でクリーンアップした.高速液体クロマトグラフはカラムにLiChrosorb RP18 (4.6 x 150 mm, 5 microns)を,移動相にpH7の0.02 mol/Lリン酸塩緩衝液/アセトニトリル(55:45,v/v)を用い,測定波長260 nmで分析した.本法による健康食品からのビサコジルの回収率は73−97%,定量下限値は0.02 mg/gであった.
 
16 血中ダイオキシン類の抽出・精製法の改良および油症患者血液中ダイオキシン類濃度
  戸高 尊*,平川博仙,堀 就英,飛石和大,飯田隆雄
 油症は,PCDFsを主な原因物質としPCDDsやPCBsの影響も加わったダイオキシン類の複合的汚染による大規模な人体被害例である.油症診断基準に患者血中PCDFs濃度を取り入れて見直すという国の方針に対応するためヒト血中ダイオキシン類の極微量で迅速・精密分析法の開発と実施体制の構築を行った.@凍結乾燥法,A高速溶媒抽出装置(ASE),Bクリーンアップ系のダウンサイジング,C溶媒除去大量試料導入装置の新しい技術を導入し,「超高感度・迅速分析法」を開発,測定体制を構築した.本分析法を用いて平成13年度に福岡県の油症患者78名の血中ダイオキシン類分析を試験的に行った.この分析法をさらに改良し,平成14年度(371名),15年度(343名)の油症患者の血中ダイオキシン類濃度全国調査を実施した.

* 日本食品衛生協会

 
17 Follow-up Survey of Dioxins Concentrations in the Blood of Yusho Patients in 2002-2003
  Takashi Todaka*, Hironori Hirakawa, Hidetsugu Hori,Kazuhiro Tobiishi, Takao Iida
福岡医学雑誌,96(5),249-258,2005.
 油症は1968年に発生し西日本で1800人以上が罹患した.35年以上経過し,典型的な油症の症状はほとんど回復したが,なお,一部の患者は自覚症状に悩まされている.そこで,2002年及び2003年に,279及び269人の患者血中ダイオキシン類の追跡調査を実施した.その結果,患者の血中ダイオキシン類濃度の平均値は,それぞれ,136.4及び125.0pg/g lipidであった.これらは,一般人と比べて3.7及び3.4倍であった.また,油症の主な原因物質である2,3,4,7,8-PeCDFの患者血中濃度は2002年及び2003年で,それぞれ,一般人の 12.6及び11.6倍であった.これらの結果は,油症発生から35年以上経過した現在も患者は一般人に比べて2,3,4,7,8-PeCDF血中濃度が非常に高いことを示している.

* 日本食品衛生協会

 
18 Improvement of dioxin analysis of human blood and their concentrations in blood of Yusho patients
  Takashi Todaka*, Hironori Hirakawa, Takao Iida
Journal of Dermatological Science Supplement,1,S21-S28,2005.
油症は,PCDFsを主な原因物質としPCDDsやPCBsの影響も加わったダイオキシン類の複合的汚染による大規模な人体被害例である.油症診断基準に患者血中PCDFs濃度を取り入れて見直すという国の方針に対応するためヒト血中ダイオキシン類の極微量で迅速・精密分析法の開発と実施体制の構築を行った.@凍結乾燥法,A高速溶媒抽出装置(ASE),Bクリーンアップ系のダウンサイジング,C溶媒除去大量試料導入装置の新しい技術を導入し,「超高感度・迅速分析法」を開発,測定体制を構築した.本分析法を用いて平成13年度に福岡県の油症患者78名の血中ダイオキシン類分析を試験的に行った.この分析法をさらに改良し,平成14年度(371名),15年度(343名)の油症患者の血中ダイオキシン類濃度全国調査を実施した.

* 日本食品衛生協会

 
19 Determination of Polybrominated Diphenyl Ethers and Polybrominated Dibenzo-p-dioxins/Dibenzofurans in Marine Products
  Yuki Ashizuka, Reiko Nakagawa, Kazuhiro Tobiishi, Tsuguhide Hori, and Takao Iida
Journal of Agricultural and Food chemistry, 53, 3807-3813, 2005.
 臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)はプラスティック製品等に広く使用されてきた臭素系難燃剤であり,環境汚染が懸念されている.また,臭素系難燃剤を含む物質の燃焼によって臭素化ダイオキシン類(PBDD/DFs)が生成することが報告されている.我々は,ASE(高速溶媒抽出法)を用いたPBDEs,PBDD/DFsの同時分析法を開発し,様々な海産物の分析を行った.添加回収試験の結果,PBDEsの回収率は55.7−78.5%(RSD 5.4-17.2%),PBDD/DFsの回収率は50.0-56.4%(RSD 1.5-7.9%)であった.PBDEsは定量値のばらつきも少なく良好な結果が得られた.開発した方法を用いて生鮮魚,加工食品,海草類の分析を行ったところ,最大でブリから1162.2pg/g(total PBDEs),つづいてサバから553.5pg/gが検出された.今回の検出された海産物中PBDEsでもっとも主要な異性体は4臭素化体のBDE-47であった.
 
20 油症検診における血液中ポリ塩化クアテルフェニルの分析
  芦塚由紀,中川礼子,平川博仙,堀 就英,飯田隆雄
福岡医学雑誌,96(5), 227-231, 2005
 ポリ塩化クアテルフェニル(PCQ)は油症患者が摂取したライスオイル中に高濃度に含まれていたことが報告されており,油症患者の血液には健常者には見られないレベルのPCQが検出されることから,PCQ濃度は油症診断の有用な基準の一つとされている.従来から多くの労力と時間を必要としていたPCQの分析法を改良し,より少量の血液から迅速に行うことが可能になった.この方法を用いて平成16年度油症検診受診社62名の血液を分析した結果,PCQが検出されたのは20名であった.PCBパターンがAパターンを示す受診者におけるPCQ濃度の平均値は2.07ng/gであり,Bパターンが0.76ng/g,BCパターンが0.18ng/g,Cパターンが0.01ng/gであった.典型的な油症患者の濃度パターンであるA,Bパターンのほとんどは,現在もPCQが0.1ng/g以上の高い濃度であることがわかった.
 
21 ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)及び高分解能ガスクロマトグラフィー/高分解能質量分析法(HRGC/HRMS)による血中PCB異性体別分析
  堀 就英,飛石和大,芦塚由紀,中川礼子,戸高 尊*,平川博仙,飯田隆雄
福岡医学雑誌,96(5), 220-226,2005
 油症診断において重要な「PCB濃度と性状」及び「PCDF等のダイオキシン類濃度」の分析方法を統合して,血液PCBを異性体別に精密定量する方法を検討した.本方法はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による迅速なクリーンアップと高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計(HRGC/HRMS)による高感度分析から構成される.本方法を用いることでヒト血液から典型的に見いだされるPCB異性体,特に油症診断において重要な9種類の異性体を5グラムの試料から検出できる.この方法を用いて2004年度の油症検診で採取された66名の血液を分析したところ,68種のPCB異性体を検出した.受診者66名のPCB濃度の最高値は5.79ppbであり,これはコントロール(対照)サンプルの総PCB濃度0.77ppbに対し7.5倍高い値であった.

* 日本食品衛生協会

 
22 Effects of cooking on concentrations of polychlorinated dibenzo-p-dioxins and related compounds in fish and meat
  Tsuguhide Hori, Reiko Nakagawa, Kazuhiro Tobiishi, Takao Iida, Tomoaki Tsutsumi*, Kumiko Sasaki*, and Masatake Toyoda*
Journal of Agricultural and Food chemistry, 53, 8820-8828, 2005.
 調理による魚及び肉試料中のダイオキシン類濃度の変化を調べた.未調理と調理済み試料のダイオキシン類29化合物を異性体別に同定し濃度を比較した.検討した調理方法は,サバにおいて「切身で焼く」,「切身で煮る」,「つみれにして煮る」であり,牛肉においては「薄切りにして煮る」,「薄切りにして焼く」,「ハンバーグに成形して焼く」であって,各調理操作を3回ずつ試行した.結果として,2,3,7,8-四塩化ダイオキシン毒性等量(TEQ濃度)はサバ試料において14〜31%,牛肉においては42〜44%減少していた.加熱を伴う一般的な調理操作により動物性食品中のダイオキシン含有量は減少することが明らかになった.食品からのダイオキシン類摂取量を見積もる際はダイオキシン類含有量の変化を考慮しなくてはならない.

*National Institute of Health Sciences

 
23 *National Institute of Health Sciences−
  N. Shirahama*1, I. Mochida*1, Y. Korai*1, K.-H. Choi*1, T. Enjoji*2, T. Shimohara, A. Yasutake*3
Applied Catalysis ,57,237-245,2005.
 大気圧,室温条件下でのACFによるNOの還元反応を確立するため,尿素担持した活性炭と100〜1000ppbのNOとの反応について検討した.NOは空気中の酸素の存在下,その混合ガスを尿素を担持した活性炭に通過させることで,選択的に還元されることが分かった.この時の,ガス流量(F:ml/分)と活性炭量(W:g)の関係は,2.5×10-3から1.5×10-3の範囲にに設定した.反応は,活性炭に担持した尿素が消失するまで行なった.その結果,還元反応は以下のように進むことが明らかとなった.
 NO + 1/2O2 -> NO2  (1)
 NO2+NO+(NH2)2CO -> 2N2 + CO2 + 2H2O  (2)
ここで,(NH2)2COは,活性炭に担持した尿素である.
(1)は反応律速であるため,酸化反応を高めることがこの還元反応を進めるポイントであることが明らかとなった.一般大気中のNOxの効率的な浄化のためには,こういった活性炭に担持した尿素とNOの還元が非常に効果的といえた.

*1 九州大学*2 佐賀県工業技術センター*3 三菱重工業株式会

 
24 高活性炭素繊維のガス浄化特性と広域的な大気浄化構想
  下原 孝章
環境管理,35,25-33,2006.
 高活性炭素繊維(ACF)の特徴,私達が実施してきたACF上でNOxを分解する方法(還元・無害化法)およびNOxをACF上に捕捉,酸化する浄化方法(酸化・固定化法)等について紹介した.これらNOx浄化法のうち,還元・無害化法は,NOxが窒素ガスと水あるいは窒素ガスと水と二酸化炭素に分解されるため,ACF内に硝酸が蓄積しない.しかし,湿度に弱い欠点をもっているため,現在,その改良を検討している.一方,酸化・固定化法では,ACF内にNOxが酸化された硝酸が蓄積していくが,NOxの浄化寿命は非常に長期間であり,湿度の影響を受けにくい.そのため,酸化・固定化法による戸外でのNOx浄化実証化技術の紹介,将来構想について記述した.
 
25 高活性炭素繊維による大気浄化技術の開発研究
  下原 孝章
環境省広報雑誌「かんきょう」,平成18年3月号
 大気浄化方式としては,ポンプやサイクロンを用いる強制採気式と,自然風を駆動力とする自然通風式が考えられる.強制採気式については,室内実験,戸外実証化を行い,その技術については,概ね確立できた.一方,自然通風式については,道路の既存フェンスや都市高速道路の防音壁の一部に高活性炭素繊維(ACF)を装着する方法,自動車のバンパー他に装着し,自動車の走行風を利用する方法が提案できる.これら自然通風式は,電気エネルギーを必要とせず,設置場所をとらないため,広域的な大気浄化が可能と考えている.私達が発案し,検討しているこれらの強制採気式および自然通風式の大気浄化システムの開発の現状について紹介した.
 
26 自然放射能からみた東アジアにおけるレスと風成塵起源土壌の特徴
  古川雅英*1,赤田尚史*2,卓維海*2,床次眞司*2,郭秋菊*2,楢崎幸範
エアロゾル研究,20(4),306-312,2005.
 東アジアにおける風成塵の主要起源地と考えられる中国各地のレス(成層堆積物)を採取するとともに,日本における風成塵の堆積土壌中の自然放射能及び化学組成を分析した.中国黄土高原を覆うレスの自然放射能及び化学組成は広域にわたって均一であった.一方,日本国内での風成塵起源試料の核種濃度は中国で得た試料よりも高かった.なかでも,沖縄県に分布する赤土の核種濃度は国内で最も高かった.このことは赤土の主要母材が黄土高原ではなく,中国南東部の高自然放射線地域を起源とした可能性を示唆した.

*1 琉球大学,*2 放射線医学総合研究所

 
27 Radon Anomaly Related to the 1995 Kobe Earthquake in Japan
  Y.Yasuoka*1 , T.Ishii *2, S.Tokonami*3, T.Ishikawa*3, Y.Narazaki, M.Shinogi*1
Journal of Agricultural and Food chemistry, 53, 8820-8828, 2005.
地震の前兆現象としてのラドンの挙動を検討した.1994年11月から阪神淡路大震災(1995年1月17日)が発生する間,大気及び地下水中ラドン濃度の著しい変化が観察された.大気中のラドン濃度は年変動値における標準偏差の2倍を越えた.一方,地震前の地下水中ラドン濃度は年変動値における標準偏差の2倍以下に低下したことを明らかにした.大気中ラドン濃度の増加は,花崗岩のミクロ亀裂の形成を反映している可能性が窺えた.

*1 神戸薬科大学,*2 山梨大学,*3 放射線医学総合研究所

 
28 Enhanced indoor radon concentration by using radon-rich well water in a Japanese wooden house in Fukuoka,Japan
  Enhanced indoor radon concentration by using radon-rich well water in a Japanese wooden house in Fukuoka,Japan
Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry,266,389-396,2005.
ラドンを含む井戸水を使用している木造モルタル平屋造りの屋内ラドン濃度,水中ラドン濃度及び土壌中核種濃度を測定し,屋内ラドン濃度を高める要因及び屋内でのラドンの挙動を検討した.調査家屋における年間の屋内ラドン濃度の算術平均値は45Bq/m3 であった.井戸水中のラドン濃度は353 Bq/L と高く, 井戸水を使用する浴室及び脱衣所内のラドンは他の部屋よりも高濃度であった.浴室に隣接する脱衣所での測定では昼間と夜間の生活様式によるラドン濃度の変化が認められた.ラドン濃度は井戸水使用時に上昇し,停止すると低下する傾向がみられ,井戸水使用時には最大値964Bq/m3 まで増加した.

*1 放射線医学総合研究所,*2 琉球大学

 
29 優占二枚貝ホトトギスガイが博多湾湾奥の水・底質に与える影響
  熊谷博史,山崎惟義*1,渡辺亮一*1,藤田健一*2
水環境学会誌,Vol.29,No.1,21-28,2006.
 博多湾湾奥における優占二枚貝であるホトトギスガイを取り上げ,その生活環を定式化し生態系モデルに導入した以下の知見を得た.(1)モデルで予測したホトトギスガイの空間分布は,均一ではなく不連続なパッチ状になる.これは流況や水質・底質の地域的な差異が,その分布に影響している為である.(2)博多湾湾奥部において,夏季のホトトギスガイの死亡量は冬季の5.8-9.4倍になる.その原因として,夏季における貧酸素水塊による死亡量が自然死亡量の1.8-4.8倍になっていることが挙げられる.(3)ホトトギスガイは底質への有機物加入時期に時間遅れを生じさせるとともに,その貧酸素水塊による斃死に伴う底質への急激な加入は貧酸素水塊の助長要因となる.(4)マクロベントスは水相・底質相において,デトライタスのろ過・死亡による底質への加入といった作用を通じて物質循環を仲立ちしており,生態系モデルを構築する上での必要不可欠な構成要素である.その為,生態および水質に及ぼす作用を正確に見積もる必要がある.

*1 福岡大学,*2 九州環境管理協会

 
30 博多湾湾奥部における貧酸素水塊の発生予測
  熊谷博史,鮓本健治*
環境工学研究論文集,第42巻,277-285,2005.
 貧酸素水塊は底生生物の斃死を招き漁業に影響を与える.しかしながらその発生予測については,従来の生態系モデルを用いた方法では複雑かつ時間を要する点が問題視されている.本研究では,簡便な予測式を用いた博多湾湾奥部における貧酸素水塊の発生を予測する手法を提案した.まず貧酸素水塊の発生した年と発生しなかった年において現地調査を行い,対象領域における貧酸素水塊の発生に関わる主要因子を調査した.そして,これらの情報を用いて,有効積算降雨量を関数とした貧酸素水塊予測式を作成し,博多湾湾奥部において貧酸素水塊が発生する条件について考察した.

* 日本ミクニヤ

 
31 渓流水のトリハロメタン生成能
  永淵義孝,松尾 宏,佐々木重行*
福岡県保健環境研究所年報,第32号,69-74,2005.
 福岡県内の県営林内から流出する渓流水のトリハロメタン生成能について検討した.調査流域のW-1,W-4 及びE-4 におけるトリハロメタン生成能の平均値は,それぞれ 0.019,0.022,0.023 mg/Lであった.トリハロメタン生成能には季節変動がみられた.トリハロメタン生成能と不飽和結合を有する有機物の指標となる紫外線吸光度(E260)との間には正の相関があった.W-1 及びE-4 におけるトリハロメタン生成能の年間流出負荷量は,220-340 g/haであった.

* 福岡県森林林業技術センター

 
32 施肥による地下水の硝酸性窒素問題とその課題
  松尾宏
環境管理,34,21-28,1995.
 環境省の地下水概況調査の結果を見ると,1989年以降硝酸性窒素が調査項目の中で毎年超過率が高い項目として首位を占めてきた.福岡県でも1985年頃から硝酸性窒素の問題は県南丘陵地帯の茶畑周辺で顕著に現れてきた.硝酸性窒素問題の起源は,1913年ハーバーによる空気中の窒素と水素からアンモニアの合成したことに始まる.窒素肥料の大量生産が可能になり,穀物の生産量が急増することにより,世界人口の増加がもたらされる.窒素溶脱量は作物の種類によって異なる.溶脱率の大きい作物は硝酸性窒素の汚染源にならないよう栽培には注意を要する.施肥量の多い茶畑で水収支と窒素収支の調査研究が行われ,施肥量と流出量の関係が把握できるようになった.施肥基準の削減により流出水の硝酸性窒素濃度は漸次低下傾向を示している.汚染した地下水の浄化方法として,岐阜県で行われた透過性地下水バリア法と福岡県で実施された電気透析と生物脱窒装置による浄化システムの結果と問題点について言及した.今後の課題としては社会全体の窒素管理システムの構築が必要となる.
 
33 RDF焼却灰を利用した地盤材料の環境影響
  鳥羽峰樹,土田大輔,高橋浩司,黒川陽一,永瀬誠,宇都宮彬
福岡県保健環境研究所年報,第32号,75-79,2005.
 地盤材料であるポゾテックRは,RDF焼却灰,石炭灰及び排煙脱硫スラッジを原料とし,固化が十分に進行した1か月後には,強度基準及び重金属類の土壌環境基準を満足し,道路等の地盤材料としての性能を有することが確認されている.本研究では,本材料が固化によって重金属類の溶出を抑制することを確認するため,pH 2〜13の範囲での重金属類の溶出量を調査し,それらのpH範囲でほとんどの場合,RDF焼却灰と比較して低く抑えられていることを確認した.また,製造後初期に鉛が溶出したことから,鉛溶出量を経日的に追跡した結果,製造後徐々に溶出量が減少し1週間程度で土壌環境基準値を満足することが分かった.このときのX線回折分析結果から,カルシウムアルミネートが,鉛溶出抑制に関与していることが明らかとなった.さらに,製造後初期の鉛溶出を抑制する方法を検討した結果,硫酸アルミニウムを添加し,溶出試験液のpHを12.3以下となるように管理すれば,出荷時の鉛溶出量を土壌環境基準値以下に抑制できた.
 
34 Recent Records of Orientelmis parvula (Coleoptera, Elmidae) in Japan, with a Proposal for the Conservation
  M.Sato*1, T.Ogata, J.Nakajima*2, Y.Kamite*3
Japanese Journal of Systematic Entomology, 11, 63-66, 2005.
 セマルヒメドロムシOrientelmis parvulaは1961年に,新潟県黒川村で採集された標本を元に記載された.しかし,原産地では河川改修後絶滅したと考えられ,2003年に広島県から1個体の記録があるまで全く記録がなかった.緒方は2003年2月に福岡県那珂川で冬季に本種の成虫及び幼虫を多数採集した.本種は河川中流部にできた中州の垂直になった側面の砂と植物の根が混じった場所に生息していた.本種は後翅が退化しており,分散能力が低く,生息環境の破壊により原産地の黒川の例のように絶滅しやすいものと考えられる.なお,那珂川の標本と黒川の標本を詳細に検討した結果,同じ種と判断された.

*1 名古屋市緑区,*2 九州大学,*3 滑ツ境科学

 
35 福岡県のヒメドロムシ
  緒方 健, 中島 淳*
ホシザキグリーン財団研究報告,9, 227-243, 2006.
 福岡県下河川に生息するヒメドロムシ科の調査を行った.2亜科に属する,25種のヒメドロムシが記録された.このうち,ハガマルヒメドロムシは福岡県下以外からは記録が無い種である.他地域と比べた福岡県下ヒメドロムシ相の特徴,福岡県下におけるヒメドロムシの,時間的・空間的分布パターン等について考察を行った.

* 九州大学



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