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 カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症ってなに?
保健科学部 病理細菌課 主任技師 カール由起

 抗菌薬の不適切な使用などにより、薬剤耐性菌が増加しており、一方、新たな抗菌薬開発が減少しているため、薬剤耐性菌が国際的に大きな課題となっています。 こうした状況から、2015 年5月の世界保健総会において、薬剤耐性(AMR)に関するグローバル・アクション・プランが採択されました。また、これを受けて日本においてもAMR対策アクションプランを作成し、薬剤耐性菌を減らすための取り組みが進められています。 ここでは、近年問題となっている薬剤耐性菌の1つ「カルバペネム耐性腸内細菌科細菌」を中心に薬剤耐性菌について簡単に紹介します。


1 抗菌薬と薬剤耐性菌について

 抗菌薬とは、細菌が増えるのを抑えたり、殺菌したりする薬のことで、細菌による感染症の予防や治療に使われます。主な抗菌薬には以下のものがあります(表)。

 抗菌薬の用法・用量を守らずに使用すると、抗菌薬に抵抗性を示す菌(薬剤耐性菌)が出現して抗菌薬が効かなくなってしまうことがあります。特に、細菌感染症にかかるリスクの高い、乳幼児、高齢者、入院患者などの免疫機能が低くなっている人では、治療ができなくなると深刻な問題につながる可能性があります。

 薬剤耐性菌の代表的なものには、カルバペネム系薬剤に耐性を示す「カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)」、バンコマイシン系薬剤に耐性を示す「バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)」、複数の薬剤に耐性を示すアシネトバクターの「多剤耐性アシネトバクター」、結核菌の「多剤耐性結核菌」などがあります。

主な抗菌薬

2 CRE感染症とは?

 CRE感染症は、薬剤耐性菌による感染症の1つで、「メロペネムなどのカルバペネム系薬剤及び広域 β−ラクタム剤に対して耐性を示す腸内細菌科細菌による感染症である。」と定義されています[1]。医師は、症状や所見からCRE感染症が疑われ、検査によりCRE感染症患者であると診断した場合、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、感染症法)に基づいて、7日以内に届出を行うことが義務付けられています。

3 なぜCRE感染症が問題になるのか?

 CREは「2 CRE感染症とは?」でも触れたとおり、カルバペネム系薬剤だけでなく、他の βーラクタム系薬剤にも耐性を示します。加えて、他の系統の薬剤、例えばフルオロキノロン系やアミノグリコシド系の薬剤にも多剤耐性を獲得していることが多く、感染症を引き起こすと治療が難しくなります[2]

 カルバペネム系薬剤に対する耐性メカニズムは、様々なものが報告されています。その中でも特に、カルバペネマーゼというカルバペネム系薬剤を分解する酵素をつくる菌(CPE:carbapenemase-producing Enterobacteriaceae)は注意が必要です。CPEの多くは、プラスミド上にカルバペネム系薬剤を分解する酵素の遺伝子を持ちます。プラスミドは、別の菌種へと移動(水平伝達)することが知られており、この水平伝達により、これまで薬剤に感性を示していた(薬剤が効いていた)菌が耐性化することが危惧されています(図)。既にプラスミドの水平伝達が関与した院内感染事例も報告されており[3,4]、CPEを広げないためにもCRE感染症が発生した場合には、どういうメカニズムで耐性になっているのかを調べることが重要です。また、カルバペネマーゼには、IMP型,NDM型,KPC型,OXA-48型などの種類があり、その分布に特徴があります。例えば、国内ではIMP型の報告が多く、海外で報告されているNDM型,KPC型,OXA-48型といったカルバペネマーゼは国内ではまだ報告が少ないといったことが知られています[5]

 国内で報告の少ない(あまり広がっていない)型の侵入を早期に探知し、その広がりを抑えるためにも、どの型のカルバペネマーゼを産生しているのかを調べることが重要です。

水平伝達のイメージ

4  CRE感染症の検査

 CRE感染症の地域における薬剤耐性菌のまん延などの流行状況を把握するためには、耐性菌の詳細な解析を行う必要があります。このため、CRE感染症の届出があった場合は、当研究所をはじめとした地方衛生研究所等で耐性菌の検査を実施し、医療機関などへ情報提供することなどが求められています[6]

 当研究所では、平成29年度からCRE感染症として届出のあった耐性菌について、@ 耐性遺伝子の検出、A 阻害剤を用いたβ-ラクタマーゼ産生性の確認、B Carbapenem Inactivation Method (CIM)によるカルバペネマーゼ産生性の確認などの検査を行っています[7]

5 薬剤耐性菌を増やさない、広げないために[2]

 健康な人では、CREを過度に心配する必要はありません。病院などへお見舞いに行く際は、手洗いと消毒をしっかり行いましょう。また、海外では、CRE以外にもそれぞれの地域で流行や土着しているいろいろな病原体に感染する可能性があるため、海外で医療行為を受けた場合や、海外旅行から帰った後、体調不良等で医療機関を受診した場合は、海外に出かけていたことを医師に伝えましょう。

6 参考文献

[1] 厚生労働省 『感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について』

[2] 米国CDCが警告を発したカルバペネム耐性腸内細菌(CRE)に関するQ&A(国立感染症研究所)

[3] IASR Vol. 35 p. 289- 290: 2014年12月号 「プラスミド水平伝達が関与した院内感染事例」

[4] IASR Vol. 35 p. 290- 291: 2014年12月号「大阪市内大規模病院におけるカルバペネム耐性腸内細菌科細菌の長期間にわたる院内伝播」

[5] IASR Vol. 35 p. 281- 282: 2014年12月号「カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症」

[6] 平成29年3月28日付け健感発0328第4号 厚生労働省健康局結核感染症課長通知

[7] 福岡県保健環境研究所 年報