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 腸管出血性大腸菌(O157・O26・O111)の遺伝子解析(MLVA法)について
保健科学部 病理細菌課 研究員 大石明
主任技師 カール由起

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 大腸菌は、家畜や人の腸内にも存在します。ほとんどの大腸菌は下痢の原因になることはありませんが、このうちいくつかの大腸菌は、人に下痢などの消化器症状や合併症を起こすことがあり、病原大腸菌と呼ばれています。病原大腸菌の中には、毒素(ベロ毒素)を産生し、出血を伴う腸炎や溶血性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome、HUS)を起こす腸管出血性大腸菌(Entreohemorrhagic Escherichia coli : EHEC)と呼ばれるものがあります1)。EHECは、菌の成分(「表面抗原」や「鞭毛抗原」などと呼ばれています)によりさらにいくつかに分類されています。代表的なものは「オー157」で、そのほかに「オー26」や「オー111」などが知られています2)。 EHECは昭和57年(1982年)アメリカオレゴン州とミシガン州でハンバーガーによる集団食中毒事件があり、患者の糞便からO157が原因菌として見つかったのが最初で、その後アメリカだけでなく世界各地で見つかっています。EHECの感染は、飲食物を介した経口感染であり、菌に汚染された飲食物を摂取することや、患者の糞便に含まれる大腸菌が直接または間接的に口から入ることによって感染します1)。このため、集団感染事例や家族内感染事例における菌株の同一性、散発事例も含めた事例間の関連性および広域性の有無を把握するため、当所ではEHECのうち主要な「O157」、「O26」、「O111」について、反復配列多型解析(Multiple Locus Variable-number tandem-repeat Analysis : MLVA)法を実施しています。


 MLVA法は、細菌のゲノムにある短い縦列の繰り返し構造(リピート)に着目した方法です。例えばゲノムの中に【GATATC GATATC GATATC】という塩基配列があった場合、「GATATC」という6つの塩基が1つのリピートとなり、この塩基配列には、3リピートが存在することになります。ゲノムにはこのようなリピートが複数箇所あり、リピート数の違いから比較したい菌が同じか違うかを調べます。 当所でのMLVA法は、 @ 培養したEHECからDNAを抽出し、MLVAの標的遺伝子領域のPCRを実施、 A シークエンサーで電気泳動を実施、 B 各領域の繰り返し回数を算定し、対象となる菌株間でのリピート数を比較するといった流れで行っており、全工程を行うのにおおよそ2日程度かかります(図2参照)。 平成30年(2018年)から厚生労働省の通知3)に基づき、EHECの血清型「O157」、「O26」および「O111」による感染症や食中毒の調査で実施する遺伝子解析をMLVA法に統一し、その解析結果を全国で共有することとなりました。細菌検査は日々進化しているため、当所では、今後も新しい検査法の導入を継続し、食中毒や感染症の拡大防止に努めてまいります。

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図2.MLVA法の流れ

参考文献

1) 腸管出血性大腸菌Q&A(厚生労働省)

2) 腸管出血性大腸菌による食中毒について(神奈川県)

3) 厚生労働省「腸管出血性大腸菌による広域的な感染症・食中毒に関する調査について」

参考資料

[1] 腸管出血性大腸菌感染症とは(国立感染症研究所)

[2] 腸管出血性大腸菌O157等による食中毒(厚生労働省)