福岡県保健環境研究所
Fukuoka Institute of Health and Environmental Sciences
092-921-9940
〒818-0135 福岡県太宰府市大字向佐野39
 
トップページ 研究所紹介 研究概要 年 報 啓発資材 リンク集 アクセス
1.はじめに
 中央環境審議会水環境部会(第49回)において水質汚濁に係る公共用水域及び地下水環境基準の見直しが検討され、令和2年5月に答申されました[1]。その結果、新たに2つの物質(ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)及びペルフルオロオクタン酸(PFOA))が要監視項目に追加され[2]、モニタリングを開始することになりました。

2.要監視項目とは何か?
 要監視項目とは、人の健康に影響を与える可能性があるが、検出状況などから見て直ちに水質環境基準とはせず、環境中での濃度や検出頻度について監視努力が求められる項目です。これまでは農薬等について河川、湖沼、海域などについて26項目、地下水について24項目の監視を続けていましたが、これに新たに「PFOS及びPFOA」が追加されることになりました。

3.PFOS及びPFOAとは何か?
 PFOSPFOAは、図1に示すように炭素鎖が完全にフッ素化された人為的に合成された化学物質で、ペル-又はポリ-フルオロアルキル化合物(PFASs)と呼ばれる有機フッ素化合物の一種です。


  

 
図1 PFOS(左図)とPFOA(右図)の構造と3Dモデル
 

 

 PFOSPFOAは、優れた親水性(水に溶けやすい)と親油性(油に溶けやすい)を持つ界面活性剤として半導体製造やメッキ処理における表面処理剤や泡消火剤へ使用されていました。また、水や油をはじく(撥水撥油性)という独特の性質を持つ高分子の有機フッ素化合物は、その原料の一つとしてPFOSPFOAが使用されていました。

 PFOSPFOAは、平成17年ごろから生物への蓄積性が明らかになり、メーカーの自主的な生産中止や代替品への転換が進みました。PFOSは、図2に示すように平成20年度では国内で約6トンが使用されていましたが、平成22年度に第一種特定化学物質に指定されたため、それ以降、例外を除き国内の製造、輸入が禁止されました。PFOAは、平成22年度に国内で99トンが使用されていましたが、前述の生産中止と代替品転換により生産量は減少し、平成29年度には国内で使用されなくなりました。







図2 PFOS及びPFOAの用途使用量

3.
PFOS及びPFOAの要監視項目への追加の背景

  有機フッ素化合物の持つ他の物質にない特徴は、分子内のフッ素と炭素の結合が非常に強く、安定していることが一因です。しかしながら、その強固な安定性のため環境中では容易に分解されず、残留することが知られています。そのため、海洋や北極を含む地球上の多くの地点で、その環境やそこに生息する生物においてPFOS及びPFOAが検出されています[3]。またPFOSは、生物体内に蓄積し、生物濃縮する可能性を示す研究も報告されています[3]

 

  このような蓄積性や有害性等から残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)の第4回締約会議において、平成215月にPFOSは附属書Bに掲載され、製造・使用、輸出入を特定の用途、目的に制限する物質に指定されました。このため、日本では前述の通り平成22年度にPFOSを第一種特定化学物質に指定し、製造、輸入を原則禁止しました。またPFOAは、POPs条約の第9回締約会議において令和元年5月に附属書Aに掲載され、製造・使用、輸出入が原則禁止されました。これを受けて、日本ではPFOAについて必要な法整備が進められている状況です。

 PFOS及びPFOAをめぐる近年の世界的な動きの中で、日本では厚生労働省が水道水の水質管理を適切に行う観点からPFOS及びPFOAを水道水の水質管理目標設定項目と位置づけ、PFOS及びPFOAの合計値として暫定目標値0.00005 mg/L以下を令和241日に施行しました。また、環境省では最新の知見や水環境での検出状況を踏まえて、令和25月にPFOS及びPFOAを新たに要監視項目に追加し、暫定の指針値0.00005 mg/L以下を示しました。このため、今後は日本各地においてモニタリングが始められることとなります。

 令和元年度に環境省が全国存在状況把握調査を実施し、令和25月にその結果を発表しました。今回調査を実施した171地点では、37地点で暫定的な目標値(PFOS及びPFOAの合算値で0.00005 mg/L)の超過が確認されました。このことからPFOS及びPFOAについては、河川、湖沼、海域及び地下水を注意深く監視し、対応していくことが重要だと考えられます。

 

参考資料
[1]
 水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境基準等の見直しについて(第5次答申)、中環審第1120号、

   中央環境審議会
[2] 
水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境基準等の施行等について(通知)、環水大水発第2005281号、

   環水大土発第2005282号、環境省水・大気環境局長

[3] Technical Fact Sheet - Perfluorooctane Sulfonate(PFOS) and Perfluorooctanoic acid(PFOA),

   U.S. EPA, 2017

 

 

 

 

 





copyright©2013 Fukuoka Institute Health and Environmental Sciences all rights reserved.

トピックス
トピックス一覧へ戻る
環境科学部 水質課 専門研究員 志水信弘
河川等や地下水における新たなモニタリング項目(PFOS及びPFOA