福岡県保健環境研究所
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はじめに

 重金属類は、自然由来の成分として環境中に存在し、また人為活動に伴って環境中に排出されています。これらの重金属類の中には、人体及び水環境に対する毒性を持つものがあるため、水質汚濁防止法等により、当該成分の基準監視が行われております。

 現在では、重金属類の多くはその元素の総量で規制を設けられていますが、化学形態別の規制を設けられているものもあります。その中の一つに六価クロム:Cr(Ⅵ)があります。

 クロム化合物の多くは、環境中でCr(Ⅲ)またはCr(Ⅵ)の形で存在していますが、人体の必須元素であるCr(Ⅲ)に対し、Cr(Ⅵ)は発がん性を有する有害物質であることが知られており1、先述のようにCr(Ⅵ)として排出基準、環境基準等が定められています。このように、重金属類には化学形態毎に異なる生体影響(毒性)を持つものがあるため、それらの毒性を正しく評価するためには化学形態ごとの濃度を測定することが必要です。

 





図1 重金属類の毒性(例:クロムCr
 

 

重金属類の化学形態別分析法

 水環境中における重金属類の形態別分析法として、工場排水試験方法(JIS K 0102 [2019] に、Cr(Ⅵ)の形態別分析法(65.2.7高速液体クロマトグラフィー誘導結合プラズマ質量分析法:LC-ICP-MS法)が追加されました。これは化学形態の分離を行う液体クロマトグラフ(Liquid ChromatographLC)と誘導結合プラズマ(Inductively Coupled PlasmaICP)質量分析(Mass Spectrometry MS)を組み合わせた分析法です。

 公開されたアプリケーションノート2を参考とし、当所においても当該分析装置を用いたCr(Ⅵ)の分析法を検討し、事業場排水に対し適応可能であることを確認しました。図3は、排水基準値(0.20 mg/L, 令和641日改正)の1/20の濃度のCr混合標準液を装置に導入した際に得られたクロマトグラムです。

 

 




 

2 化学形態別の重金属類分析システム(LC-ICP-MS



3  Cr混合標準液 ( Cr()  +  Cr() ) のクロマトグラム

 

 

おわりに

 LC-ICP-MSを用いた重金属類の化学形態別分析法は、Crに限らず様々な元素に対して適応可能であると考えられます。重金属類は人体への毒性に限らず、水生生物等へも影響を与えることが知られており3,4LC-ICP-MS法による化学形態毎の重金属類の評価が進められています5。現在、当所では水環境中に存在する希土類元素の化学形態別濃度の測定等を、公益財団法人河川基金の助成を受けて取り組んでいます。

参考資料

1.詳細リスク評価書シリーズ21 六価クロム (平成20年5月、丸善株式会社)

 

2.六価クロム化合物測定方法としての高速液体クロマトグラフ - 誘導結合プラズマ質量分析法, アジレントテクノロジー株式会社アプリケーションノート

(https://www.chem-agilent.com/appnote/pdf/LC-201902WN-001.pdf)

 

3.有害性評価書 Ver. 1.0 No. 115 ニッケル化合物, 製品評価技術基盤機構

 (https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/pdf/CI_02_001/hazard/hyokasyo/No-115.pdf)

 

4.化学物質の処理リスク評価書Ver. 1.0 No. 131 亜鉛の水溶性化合物, 製品評価技術基盤機構(https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/pdf/CI_02_001/risk/pdf_hyoukasyo/001riskdoc.pdf)

 

5.ヒ素の化学形態と生物影響ならびに環境動態, 国立環境研究所HP(https://www.nies.go.jp/kanko/news/14/14-6/14-6-05.html)

 





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重金属類の化学形態別分析法:Speciation Analysis