福岡県保健環境研究所
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プラスチック製品に対する紫外線の影響
 屋外に長期間置かれているプラスチック製品が色褪せ、ひび割れているものを見たことがあるでしょうか(図1)。これは、紫外線劣化と呼ばれ太陽光に含まれる紫外線に長期間暴露されることで起こります。紫外線劣化した製品は本来の役割を果たすことが出来なくなってしまうため、特に屋外で使用するプラスチック製品は劣化を抑制する工夫が必要となります。



図1 紫外線劣化したプラスチック製品


紫外線劣化のメカニズムと影響を低減させる方法

 プラスチックが紫外線により劣化するメカニズムは図2のように推定されています[1]。紫外線のエネルギーにより@プラスチック内にアルキルラジカルが生成、A空気中の酸素と反応しペルオキシラジカルが生成、B周辺のポリマーと反応し新たなアルキルラジカルが生成という連鎖反応が起こることでポリマー鎖が切断され劣化すると考えられています。


図2 紫外線劣化の推定メカニズム


 この推定メカニズムから、プラスチック製品の劣化を防ぐためには「プラスチックがラジカル化しないように紫外線のエネルギーを吸収する方法(紫外線吸収剤)」と「生成したラジカルを補足する方法(光安定剤)」が主に用いられています。本トピックスの主題である紫外線吸収剤を使用した方法は50年以上前から用いられており、特に、「ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(BUVSs)」と呼ばれる物質が汎用性の高さから広く利用されています。BUVSsは図3のように紫外線が当たるとエネルギーを吸収しエネルギーの高い状態(励起状態)となり、熱や光を放出しながら元の状態(基底状態)に戻ります。この励起状態と基底状態の状態変化は可逆的に繰り返し起こるため、紫外線のエネルギーをBUVSsが吸収し熱や光に変換することでアルキルラジカルの生成を抑制し、プラスチック製品を保護する役割を果たします。


図3 BUVSsの紫外線エネルギー吸収における推定反応機構


残留性有機汚染物質(POPs)
 現在使用されている化学物質は医薬品、農薬、添加剤など様々存在し、安定した生活を送るために必要不可欠です。しかし、世界各国で利用された化学物質の中には、後に有害性が確認され使用が禁止された物質が存在しています。残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants, POPs)は環境中での残留性、生物蓄積性、長距離移動性、人や生物への毒性の高さが懸念される物質であり、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)により「製造・使用・輸出入の禁止」や「在庫や廃棄物の適正管理・処理」などのとるべき対策が定められています[2]
 BUVSsの一種であるUV-328は自動車の塗料や部品の添加剤等に用いられる物質ですが、難分解性や生物蓄積性が懸念されています。EUではREACH規則付属書XIVの認可対象物質リストに追加され、製造や使用に制限がかけられつつあります[3]。また、2021年1月に開催されたストックホルム条約残留性有機汚染物質検討委員会第16回会合(POPRC16)では条約対象物質とするか審議することが提案されました(図4)[4-6]。現在、詳細な議論が行われており、POPs条約対象物質となる可能性があります。当所ではUV-328を含めたベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の分析法の開発を進めており、汚染状況の把握や推移を監視できる体制の構築を行っています。



図4 POPs候補化合物(UV-328)[7]


参考資料
[1] 山下賢治:光安定剤による高分子劣化制御.日本ゴム協会誌91(12):454-459, 2018.
[2] 環境省:POPs (Persistent Organic Pollutants:残留性有機汚染物質)
[3] ECHA HP:Authorisation List
[4] Stockholm Convention HP:Sixteenth meeting of the Persistent Organic Pollutants Review Committee (POPRC.16) overview
[5] Stockholm Convention HP:Seventeenth meeting of the Persistent Organic Pollutants Review Committee (POPRC.17) overview
[6] Stockholm Convention HP:Eighteenth meeting of the Persistent Organic Pollutants Review Committee (POPRC.18) overview
[7] Stockholm Convention HP:Chemicals proposed for listing under the Convention


トピックス
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の一種UV-328がPOPs条約の規制候補物質になりました
管理部 計測技術課 主任技師 小木曽俊孝