1 中東呼吸器症候群(MERS)とは
中東呼吸器症候群(MERS)は、2012年に中東地域で初めて確認された感染症です。同年以降、
中東地域では散発的な発生が続いていましたが、2014年4月を中心に300名以上の患者報告が
ありました。その大半はサウジアラビアからの報告で、この中には医療従事者が多く含まれて
いました。また、中東地域で感染した人が帰国後発症する、いわゆる輸入例が、欧州、米国、
北アフリカ、アジアで見られています。韓国では、2015年5月に病院内で感染が拡がり、2015年
6月15日までに186名の患者報告がありました。
世界保健機構(WHO)の報告によると、2015年8月25日までに世界で報告された確認患者は
1432名で、うち507名が死亡しています。
日本ではこれまでMERSの患者が発生したことはありませんが、現在は日本の法律
※1
で2015年1月21日から「二類感染症」とされ、重要な感染症としての対応が求められています。
※1 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」
2 MERSコロナウイルスについて
MERSの原因ウイルスはMERSコロナウイルスで、2012年に中東で感染したと見られる
重症肺炎患者から、英国とオランダで発見されました。このウイルスは、2002-2003年に
流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の原因であるSARSコロナウイルスと近縁で、
コロナウイルス科ベータコロナウイルス属に分類されるRNAウイルスです。
MERSコロナウイルスは、外側にエンベロープという殻を持つウイルスで、アルコール
や塩素系消毒剤で不活化されます。
3 感染様式
MERSコロナウイルスの感染経路は、明らかになっていません。病院内での医療関係者や他の患者
への感染、家族内での感染、ラクダに接触した後の発症が見られています。呼吸器からウイルスが
検出されることから、飛沫感染が疑われますが、疫学的な調査からは、ヒト-ヒト感染は限定的
だと考えられています。また、中東地域のヒトコブラクダからウイルスが検出されたり、感染の
痕跡を示す抗体が検出されたりしていますので、ラクダからの感染も考えられます。
4 症状について
MERSの症状は、発熱、せき・息切れなどの呼吸器症状で、下痢などの消化器症状が現れること
もあります。重篤化すると、重症の肺炎を起こし死に至ることもあります。致死率は、これまで
の報告では35%です。また、感染して発症するまでの潜伏期間は、2~15日と言われています。
ウイルスに感染しても発症しないこともありますが、一方、高齢の方や糖尿病、慢性肺疾患、
免疫不全などの基礎疾患のある人では重症化する傾向があります。
5 ワクチン及び治療法について
MERSコロナウイルスに対するワクチンや特別な治療薬等はありません。そのため、患者の症状に
応じて、症状を軽くするための対症療法を行うこととなります。
6 予防について
MERSコロナウイルスが存在する可能性のある地域では、手洗い、うがいなどの基本的な衛生対策
を実施すると共に、ラクダとの接触や、ラクダの乳や肉を加熱せずに飲食することを避ける必要が
あります。
7 渡航後に注意すること
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渡航先でMERSコロナウイルス感染者との接触機会が考えられた場合は、直ちにその旨を
検疫所または最寄りの保健所に連絡してください。
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帰国してから2週間以内に、発熱、咳などの症状が現れた場合には、速やかに最寄りの
保健所に電話にてご連絡してください。
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診断が確定するまでは、不必要に人と接触しないことを心がけてください。
8 参考