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 レプトスピラ症に気をつけましょう
保健科学部 病理細菌課 主任技師 上田紗織

 夏は、川や水辺での水遊びやレジャーを楽しむ季節です。その際に注意すべき細菌感染症の1つがレプトスピラ症です。 レプトスピラ症はどのような感染症で、どういったことに気をつければいいのでしょうか?。


レプトスピラ症とは

 レプトスピラ症(leptospirosis)は、病原性レプトスピラに感染することで発生する人獣共通の細菌感染症で、国内ではワイル病や秋やみと呼ばれることもあります。レプトスピラは、らせん状の細菌(図)で、病原性を持つものと、持たないものがあると言われています。レプトスピラは、野生動物(ネズミやイノシシなど)、家畜(ウシやブタなど)、またはペット(イヌやネコなど)など、多くの哺乳動物の腎臓に定着し、尿中へと排泄されます[1]

 ヒトは、レプトスピラに感染した動物の尿または尿で汚染された水や土壌から、傷口や粘膜を介して感染します。

図 Leptospira interrogansの電子顕微鏡写真 (国立感染症研究所,細菌第一部)

レプトスピラ症の症状[2][3]

 レプトスピラ症の症状は、風邪のような症状の軽症型から、黄疸、出血、腎障害を伴う重症型(ワイル病)まで多岐にわたります。2日〜3週間の症状のない期間の後、頭痛、38〜40℃の発熱、悪感、筋肉痛、吐き気、下痢や腹痛などが現れます。また、皮膚に発疹が現れることもあります。重症型になると黄疸が現れて、いろいろな臓器の機能が失われ、死亡することがあります。

近年の日本における感染原因

 レプトスピラの感染原因は、河川などでのレジャーや遊泳、農作業や下水での作業、動物の尿や血液に直接触れる作業、家畜の飼育などがあります[2]。日本では、衛生環境の向上により、1970年代前半に比べて感染例は著しく減りましたが、近年も毎年各地で感染例が報告されています[4]

 国内では、毎年夏から秋(7月〜10月)にかけて感染例が多く、特に、河川でのレジャーや労働後に発症する事例が多く発生しています[5]。また、台風や洪水後など、増水した環境での感染例も報告されています[6]

 福岡県においても、2022年8月に、雨後に増水した河川で水遊びをした後、レプトスピラ症を発症した事例が起こりました[7]

診断・検査[8]

 レプトスピラ症の診断には、患者の検体(血液、血清、尿など)を用いた@分離・同定によるレプトスピラの検出、APCR法によるレプトスピラ遺伝子の検出、B顕微鏡下凝集法(MAT)による抗体の検出があります。

治療

 軽症型、重症型ともに、抗生物質を用いて治療を行います。

レプトスピラ症にならないために[6][9]

 現在、予防できるヒト用のワクチンはありません[3]。レプトスピラ症にならないために、水辺でのレジャー等の際には、以下に注意しましょう。

参考文献

[1] 化学療法の領域, 29: 672-678, 2013 連載 忘れてはならない輸入感染症と稀少感染症(10) レプトスピラ症

[2] モダンメディア 52巻10号 2006年 「話題の感染症 レプトスピラ症の最新の知見」

[3] レプトスピラ症(ワイル病)(Leptospirosis) (厚生労働省検疫所 FORTH (2023年8月23日閲覧))

[4] IDWR 2003年第1・2合併号掲載 「レプトスピラ症とは」 (国立感染症研究所(2023年8月23日閲覧))

[5] IASR Vol. 44 p29-30: 2023年2月号 「レプトスピラ症の発生状況」

[6] IASR Vol. 39 p202-203: 2018年11月号「平成30年7月豪雨後に尼崎市内で診断されたレプトスピラ症の一例」

[7] IASR Vol. 44 p30-31: 2023年2月号 「福岡県におけるレプトスピラ症患者の群発事例について」

[8] 感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について「43.レプトスピラ症」(厚生労働省(2023年8月23日閲覧))

[9] レプトスピラ症に注意しましょう (福岡県(2023年8月23日閲覧))