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感染者数が増えている百日咳について(2025年)
保健科学部 病理細菌課
2025年、全国的に百日咳の感染者数が増えています。福岡県内の状況も踏まえ、百日咳についてQ&A形式で紹介します。
Q1 百日咳ってなに?
A1
百日咳は、百日咳菌という細菌によって起きる感染症です。かぜ症状で始まり、次第に咳の回数が増え、短い咳が連続し、息を吸う時に笛を吹くようなヒューという音がする百日咳特有のけいれん性の激しい咳発作(痙咳発作)が起こるようになります。発作は夜間が多く、乳児では特徴的な咳がない場合があります。激しい咳発作は、約2〜3週間持続した後、徐々に減っていきます。かぜ症状が始まってから回復するまでには、約2〜3か月かかるといわれています。乳児(特に新生児や乳児期早期)の場合、肺炎、脳症を合併し、まれに致死的となることがあるので注意が必要です。
Q2 百日咳の感染経路は?
A2
感染経路は、鼻咽腔や気道からの分泌物による飛沫感染と接触感染であり、感染力が強いことが知られています。マスク着用、手洗い、アルコール消毒などの基本的な感染症対策を心がけましょう。
Q3 全国における発生状況は?
A3
百日咳は、2018年以降全ての医師が届出を行う5類全数把握対象疾患へと変更されました。全国における百日咳の感染者数(報告数)を図1に示します。百日咳の報告数は、2019年の16,846例をピークに、新型コロナウイルス感染症の流行とそれによる感染対策の普及が進む中、大幅に減少していました。しかし、新型コロナウイルス感染症に対する感染対策が緩和されて以降、2024年から増加に転じ、2025年は6月1日までの速報値で既に25,037例と、2018年以降最も多い報告数となっています1)。

図1 全国における百日咳の報告数
Q4 福岡県における発生状況は?
A4
福岡県における百日咳の感染者数(報告数)を図2に示します。全国の傾向と同じく、福岡県における百日咳の報告数は、2019年の977例をピークに減少し、2021年から2023年にかけては30例程度で推移していました。しかし、2024年から増加に転じ、2025年は6月1日までの速報値で既に1,251例と、2018年以降最も多い報告数となっています1), 2)。
最新情報はこちらのページをご覧ください。→福岡県感染症情報(百日咳流行推移グラフ)

図2 福岡県における百日咳の報告数
Q5 福岡県における百日咳菌に対する抗体保有状況は?
A5
福岡県では、2023年に百日咳菌に対する抗体保有状況調査を行いました3)。この調査では、140名を対象に百日咳菌がつくる毒素(百日咳毒素)及び百日咳菌がつくる病原因子の一つである百日咳繊維状赤血球凝集素に対する抗体の量(抗体価)を調べました。
発症防御には百日咳毒素に対する抗体価と百日咳繊維状赤血球凝集素に対する抗体価の両方において10 EU/ml以上が必要であると考えられています4)。調査の結果、この基準を満たす割合は、0-4歳で76.5%、5-9歳で33.3%、10-19歳で28.6%、20-29歳で40.0%、30-39歳で30.0%、40-49歳で52.4%、50歳以上で30.0%であり、重症化リスクの高い乳児を含む年齢群の0-4歳で最も高いことがわかりました。従って、重症化リスクの高い乳児を含む年齢群の0-4歳では、発症防御に必要な抗体が、他の年齢群に比べて保たれていると考えられました。
Q6 百日咳の治療方法は?
A6
生後6か月以上は、抗菌薬による治療が検討されます。また、咳が激しい場合には、咳止めなどの対症療法が行われることもあります。抗菌薬ではマクロライド系抗菌薬が第一選択薬であり、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン等が用いられます。近年、マクロライド系抗菌薬が効かない百日咳菌(マクロライド耐性百日咳菌)が国内で報告されており5), 6)、その動向が注視されています。
Q7 百日咳を予防するためには?
A7
百日咳の予防には5種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)などの接種が有効です。5種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)は、生後2ヶ月から定期接種を受けることができます。詳細はお住まいの市町村にお問い合わせください。
参考文献
1) 感染症発生動向調査週報(IDWR)(2025年6月12日閲覧)
3) 片宗千春 他、「令和5年度感染症流行予測調査(ジフテリア、破傷風、百日咳)」、福岡県保健環境研究所年報第51号、139-142、2024
4) 加藤達夫:dpt 小児科診療 49, 2275-2281(1990)
5) 荒木孝太郎 他、「集中治療を必要としたマクロライド耐性百日咳菌感染症の2乳児例―沖縄県」、病原微生物検出情報(IASR)2025年2月号 46:43-45.
6) 谷口公啓 他、「マクロライド耐性百日咳菌を検出した大阪府の小児3例」、病原微生物検出情報(IASR)2025年2月号 46:43-45.