福岡県保健環境研究所
Fukuoka Institute of Health and Environmental Sciences
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アライグマの生態
 アライグマProcyon lotorは、ネコ目アライグマ科に分類される中型の哺乳類で、北アメリカに自然分布しています[1]。湿地などの浅い水辺を好みますが、森林、草原、農耕地、市街地などの多様な環境に生息可能です。雑食性で、果実や野菜、穀類などの植物質を食べるほか、爬虫類や両生類、鳥類の雛や卵、魚類、甲殻類、昆虫類なども好んで食べます。また、体格が似ている在来種のタヌキやアナグマに比べて、指が長く手先が器用で、木登りが得意なのも本種の特徴です(図1)。アライグマは、その器用な手を使って水中のエサを手探りで捕まえます。この様子が、何かを洗っているように見えたためにアライグマ(洗熊)と名付けられました。
 
 図1 アライグマの前脚の手(左)と木を登り降りする様子(右)


侵略的外来種となったアライグマ
 1970年代後半、アライグマを主人公とするテレビアニメが日本で放映されました。これ以降、アライグマがペットとして人気になり、日本に大量に輸入されるようになりました。しかし、飼育施設から逃げ出したり、気性の荒さから飼いきれなくなって捨てられるなどして、日本各地で野生化してしまいました。現在では、全都道府県に分布する状況となっています。
 野生化したアライグマは、農林水産業被害や生態系被害など様々な問題を生じさせることから、侵略的外来種とされています[1, 2]。アライグマによる被害の具体例としては、農林水産業では、スイカやトウモロコシ、イチゴなどの野菜や果物、家畜飼料、養魚場の魚などの食害が挙げられます[3]。生態系被害としては、サンショウウオ類やアカガエル類、ニホンイシガメなどの水生動物の捕食、鳥類の営巣地への侵入、樹洞の利用による在来種との生息環境の競合などが報告されています。そのほかにも、人家の屋根裏や廃屋に侵入して糞尿による汚損被害を生じさせたり、屋内に置いてある食品やペットのエサを食べるなどの被害も生じています。また、原産国では、狂犬病やアライグマ回虫、アライグマ糞線虫などの人獣共通感染症を媒介することが知られており、マダニ類を人家近くに運搬する可能性が高いことなどを含めて、国内でも健康被害につながる恐れが懸念されています。このような背景から、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)」に基づく特定外来生物に指定され、販売、飼育、保管、運搬、輸入などが規制されています。


福岡県内におけるアライグマの生息状況と対策
 県内では、2005年1月に県内で初めて朝倉市でアライグマの生息が確認されました[4]。以降、年々と分布域が拡大し、2022年度だけで40市町村において生息が確認されており(図2)、これまでの情報を含めると県内60市町村の8割以上で確認される状況となっています。また、分布拡大と生息数の増加に伴って農林水産業の被害額も増加しており(図3)[5]、問題が顕在化しています。 このような背景を受け、現在、県内では多くの市町村において「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律」に基づくアライグマの有害鳥獣駆除が実施されているほか、約1/3の市町村では、外来生物法に基づく防除計画が策定され、計画的なアライグマ対策が進められています[6]。 このほか、県ではアライグマをはじめとする外来種問題の普及啓発を進めています。ペットや観賞用植物といった身近な生物が外来種を生み出す大きな原因の一つであることから、終生飼養・栽培に関するパンフレットを作成したり[7]、様々な環境イベントにおいて外来種関連のパネルや標本、剥製を貸し出したりしています。
 
 2 2022年度におけるアライグマの発見件数 [4]より転記
 
 3 福岡県内におけるアライグマの農林水産業被害額の推移 [5]より作成


福岡県保健環境研究所における取組

 本県では、2018年に福岡県侵略的外来種リスト2018を発行しました[2]。このリストを作成するにあたり、当所では、リスト策定専門委員と協力しながら県内に定着している外来種の全種リストを作成するとともに、侵略性の評価方法の検討、分布調査などを行いました。本リストでは、県内で定着が確認されている外来種が600種以上列挙され、その中でも特に侵略性が高く対策の必要性が高い種として、アライグマやセアカゴケグモ、ブラジルチドメグサなどの動植物20種を重点対策外来種に選定しました。2021年には、侵略的外来種の防除の推進を目的に、前述した重点対策外来種20種の生態や類似種との見分け方、効果的な防除方法などを整理した福岡県侵略的外来種防除マニュアル2021を作成しました(図4)[2]。 近年では、人々の生活圏に近い里山環境において、アライグマをはじめとする哺乳類の生息状況を自動撮影カメラ等によって把握しています(図5)。また、環境DNA分析という新たな手法を用いて、そこに生息する哺乳類相を簡便に把握する手法の開発を進めています。今後も、外来種に関する調査研究や普及啓発を進めるとともに、アライグマが県内の生態系等に与える影響を明らかにするため、食性の解析などを進めていければと考えています。
 
 4 福岡県侵略的外来種防除マニュアル2021のアライグマの解説ページ

 
 図5 自動撮影カメラの設置風景(左)と撮影されたアライグマ(右)


参考資料
[1] 環境省「日本の外来種対策_生態系被害防止外来種リスト」
  (https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/iaslist.html )
[2] 福岡県「外来種について〜外来生物法と侵略的外来種リストと防除マニュアル〜」
   (https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/sinryakugairai.html)
[3] 環境省「アライグマ防除の手引き (計画的な防除の進め方)」
  (https://www.env.go.jp/nature/intro/3control/files/araiguma_tebiki_kansei.pdf)
[4] 福岡県「特定外来生物アライグマの県内分布」
  (https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/araiguma-kennaibunpu.html)
[5] 福岡県「野生鳥獣による農林水産物の被害状況」
  (https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/choju-higai.html)
[6] 環境省「日本の外来種対策_防除の確認・認定(改正法の施行前の手続きによるもの)」
  (https://www.env.go.jp/nature/intro/3control/kakunin.html)
[7] ペット外来種終生飼養普及啓発リーフレット
  (https://biodiversity.pref.fukuoka.lg.jp/kids/pdf/pet.pdf )
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侵略的外来種アライグマの問題
環境科学部 環境生物課 研究員 石間妙子
総務課