福岡県保健環境研究所
Fukuoka Institute of Health and Environmental Sciences
092-921-9940
〒818-0135 福岡県太宰府市大字向佐野39
 
トップページ 研究所紹介 研究概要 年 報 啓発資材 リンク集 アクセス
copyright©2025 Fukuoka Institute Health and Environmental Sciences all rights reserved.

レッドデータブックとは
 レッドデータブック(略称RDB)とは、絶滅のおそれのある野生生物を選定したリスト(レッドリスト;略称RL)及びその生息状況などをまとめた報告書であり、生物多様性の保全を図るための基礎資料として重要な役割を担っています。
 国際的には、国際自然保護連合(IUCN:International Union for Conservation of Nature and Natural Resources)により、1966年に初めて作成されました。
 国内においては、1989年に発行された維管束植物を対象とした「我が国における保護上重要な植物種の現状」[1]が最初のレッドデータブックであり、1991年には環境省(当時は環境庁)により動物編のレッドデータブックが発行されました[2]。その後、環境省によるレッドデータブック及びレッドリストの見直し・取りまとめ作業が数回行われており、最新版として2025年3月に植物・菌類を対象とした第5次レッドリスト・レッドデータブックが公表されました[3]。動物についても、今後順次公表されるとのことです。
 国内に生息する野生生物を対象とした環境省版レッドデータブック・レッドリストとともに、地方版レッドデータブック・レッドリストが作成されており、現在、全ての都道府県においてレッドデータブックまたはレッドリストが公表されています。


福岡県レッドデータブック
 福岡県では、最初のレッドデータブックとして、2001(平成13)年3月に「福岡県の希少野生生物−福岡県レッドデータブック2001−」が発行されました。その後、改訂版として、植物群落、植物、哺乳類、鳥類については2011(平成23)年11月に「福岡県の希少野生生物−福岡県レッドデータブック2011−」、爬虫類、両生類、魚類、昆虫類、貝類、甲殻類その他、クモ形類等については2014(平成26)年8月に「福岡県の希少野生生物−福岡県レッドデータブック2014−」(以下この2冊のレッドデータブックをまとめて「福岡県レッドデータブック2011・2014」という。)が発行されました。
 福岡県レッドデータブック2011・2014が刊行されてから10年が経過し、生息状況や生息環境などに変化が生じた掲載種が様々な分類群で確認されていること、また、県内で新たに生息が確認された希少種なども存在することから、今回、掲載種の見直し・取りまとめが行われ、2025(令和7)年3月に「福岡県の希少野生生物−福岡県レッドデータブック2024−」(編集・発行:福岡県環境部自然環境課)が発刊されました(図1)[4] [5]
 発刊と同時に、福岡県の希少野生生物ホームページも全面改訂されました[6]。冊子内容の全てが掲載されているほか、検索機能やキッズページなどが充実したものになっています。


図1 福岡県レッドデータブック2024(左:表紙、右:裏表紙)


福岡県レッドデータブック2024における掲載種数
 今回の見直しの結果、福岡県レッドデータブック2024における掲載種(亜種、変種を含む)は、全分類群合計で1,811種となりました(表1)。カテゴリーごとの内訳は、絶滅(略称EX、以下同様)67種、野生絶滅(EW)2種、絶滅危惧TA類(CR)347種、絶滅危惧TB類(EN)360種、絶滅危惧II類(VU)376種、準絶滅危惧(NT)400種、情報不足(DD)259種であり、絶滅の危険がある絶滅危惧種(CR、EN、VUの合計)として1,083種が掲載されました。
 福岡県レッドデータブック2011・2014における掲載種数は1,611種であり、今回は、そのうち1,516種が再選定、95種がカテゴリー外として評価されました。一方、新たに295種が掲載されたため、掲載種数は、差し引き200種の増加となりました。
 絶滅危惧種1,083種の分類群ごとの内訳は、植物等(植物・菌類)が554種(全体の51.2%、以下同様)、動物が529種(48.8%)でした(図2)。掲載種数が多い分類群は、植物等では種子植物454種(41.9%)、シダ植物81種(7.5%)、動物では昆虫類200種(18.5%)、貝類154種(14.2%)、鳥類71種(6.6%)、魚類58種(5.4%)の順であり、いずれも県内に生息する種類数が比較的多い分類群でした。
 今回のレッドデータブックでは、掲載種1,811種のうち、1,607種についてカラー写真が掲載され、多くの希少野生生物の姿が確認できる内容となっています(全ての写真は、福岡県の希少野生生物ホームページに掲載されています)。





図2 絶滅危惧種(1,083種)の分類群ごとの内訳


新たに絶滅が確認された種・新たに掲載された種
 絶滅67種のうち、ヒメノボタン、ギボウシランなど種子植物12種、魚類のカワヤツメ1種、ゲンゴロウ(図3)、ダイコクコガネなど昆虫類11種の計24種が、今回新たに絶滅種として掲載されました。
 一方、新たに掲載された295種のうち、植物等は104種あり、その内訳は、種子植物:コバノヒルムシロ(図4)、キバナノアマナなど60種、シダ植物:クマイワヘゴなど17種、蘚苔類:ヤマトハクチョウゴケ1種、藻類:イチマツノリなど6種、地衣類:イセチャシブゴケ1種、菌類:ナメコなど19種でした。
 動物は191種あり、哺乳類:モリアブラコウモリなど3種、鳥類:オバシギ、チゴモズなど37種、両生類:チクシブチサンショウウオ1種、魚類:シラウオ、アイナメなど36種、昆虫類:ニセコウベツブゲンゴロウ、アキアカネなど62種、甲殻類等:アナジャコウロコムシ、チスイビルなど29種、クモ形類等:アカオニグモなど3種、貝類:オキモドキギセルなど20種でした。
 これらのなかには、福岡県レッドデータブック2011・2014の刊行以降に県内で新たに確認された種も含まれています。例えば、種子植物のムカデラン、シダ植物のアミシダ、哺乳類のモリアブラコウモリ、昆虫類のキタミズカメムシ、貝類のフネドブガイなどが挙げられます。また、特用林産物(きのこ類)のブナシメジ、ナメコが絶滅危惧II類(VU)、水産有用種のクルマエビ、ガザミ、シャコ、アサリが準絶滅危惧(NT)として新たに掲載されたことが、食用資源の確保の観点からも注目されます。


図3 ゲンゴロウ:福岡県絶滅種(EX)       図4 コバノヒルムシロ:福岡県絶滅危惧IA類(CR)


絶滅危惧種の危機要因
 全分類群の絶滅危惧種1,083種おける危機要因として、最も多かった項目は産地局限:360種であり、次いで水質汚濁:249種、遷移進行:243種、森林伐採:234種、海岸開発210種の順となりました(図5)。
 産地局限は、種子植物、貝類、昆虫類などの危機要因として比較的上位に挙げられ、自然状態での生息地がもともと局所的で生息個体数も少ない種などが該当しました。 
 水質汚濁は、貝類、水生昆虫類、甲殻類などの主要な要因として挙げられており、これらの生物の生息地である水域環境の悪化及びその懸念を反映しています。
 遷移進行は、種子植物の主要な要因として挙げられており、遷移進行による二次草原や二次林などの二次的自然の縮小・消失が、これらの環境に生育する植物の存続に大きな影響を与えています。
 森林伐採、海岸開発などの開発行為に関する危機要因は、河川開発、湿地開発、ため池改修なども含めて、各分類群の生息環境に応じた個別要因として挙げられており、開発行為による生息地の改変・消失は、依然として大きな危機要因となっています。
 また、今回、シカ増加が107種で挙げられ、種子植物やシダ植物の摂食という直接的影響のほか、昆虫類などの生息環境の悪化という間接的影響も生じていると考えられます。このほか、種子植物では園芸採取が130種で挙げられており、特に園芸的価値の高いラン科植物などの盗掘被害が各地で生じています。


図5 絶滅危惧種(1,083種)の危機要因。横軸は種数,重複選択のため掲載種数と一致しない


植物群落の状況
 植物群落については、環境省レッドデータブック及び県によっては掲載外となっていますが、福岡県レッドデータブックでは、植物群落があらゆる野生生物の生息基盤(ハビタット)であることを踏まえ、掲載対象としています。
 福岡県レッドデータブック2024における掲載群落数は、カテゴリーT(緊急に対策必要)14群落、カテゴリーU(対策必要)29群落、カテゴリーV(破壊の危惧)39群落、カテゴリーW(要注意)15群落、合計97群落となりました(表2)。福岡県レッドデータブック2011における掲載群落数は89群落であり、今回除外された群落はなかったため、8群落の増加となりました。新規掲載群落は、森林群落のイチイガシ群落、海岸に生育する草本群落のハマニンニク群落、カワラヨモギ群落などでした。
 危機要因の合計数を多い順に挙げると、海岸開発:28群落、遷移進行:27群落、シカ増加:24群落、河川開発:19群落、自然災害:18群落であり、植物群落の主な危機要因として、開発行為による改変・消失、遷移進行による縮小・消失、シカ食害の三つが挙げられました。




今後に向けて
 レッドデータブック自体は捕獲規制等の法的な効果を伴うものではありません。しかし、2021(令和3)年に福岡県希少野生動植物種の保護に関する条例が施行され、その基本方針において「希少野生動植物種」とは「福岡県レッドデータブックに掲載された種」であるとして定義されたことから、今回改訂されたレッドデータブックが希少種の保護及びこれらの種の生息地や希少植物群落の保全、生物多様性の確保、さらにはネイチャーポジティブ実現のための基礎資料として、より一層重要になると考えられます。
 福岡県レッドデータブック2024の作成は、有識者・専門家等により構成される検討会議及び分類群ごとに設置された分科会により行われました。当所環境生物課職員は、これらの会議の委員として、また県事務局の一員として、現地調査、調査データの取りまとめ、カテゴリー評価、冊子の編集などにかかわってきました。レッドデータブックの掲載内容や調査データは、当所が管理する福岡県生物多様性地理情報システムに集約されます。これらの希少野生生物に関する情報は、自然環境の保護施策に貢献するとともに、当所が取り組むワンヘルス研究の基盤の一つとなるものであり、今後積極的な利活用が期待されます。

 *生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せることを意味する。生物多様性国家戦略2023-2030において2030年までに
  ネイチャーポジティブを達成するという目標が掲げられている。


参考資料
[1] 我が国における保護上重要な植物種及び群落に関する研究委員会種分科会,1989.我が国における保護上重要な植物
   種の現状.日本自然保護協会・世界自然保護基金日本委員会.
[2] 環境省自然環境局生物多様性センター,いきものログ,レッドデータブック及びリスト
  (https://ikilog.biodic.go.jp/Rdb/)
[3] 第5次レッドリスト(植物・菌類)の公表について(お知らせ)
  (https://www.env.go.jp/press/press_04578.html)
[4] 「福岡県の希少野生生物−福岡県レッドデータブック2024−」〜レッドデータブック改訂版を発刊〜
  (https://www.pref.fukuoka.lg.jp/press-release/red2024.html)
[5] 福岡県環境部自然環境課,2025.福岡県の希少野生生物−福岡県レッドデータブック2024−.
[6] 福岡県の希少野生生物−福岡県レッドデータブック− ホームページ
  (https://biodiversity.pref.fukuoka.lg.jp/rdb/)
トピックス
トピックス一覧へ戻る
福岡県レッドデータブック2024が発刊されました
環境科学部 環境生物課
総務課