福岡県保健環境研究所
Fukuoka Institute of Health and Environmental Sciences
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はじめに
 ワンヘルスセンターの中核施設である保健環境研究所の附属施設として整備中の「屋外のワンヘルス体験学習・研究ゾーン(仮称)」が、令和8年3月に「自然共生サイト(創出タイプ)」に認定されました[1]。自然共生サイトとは、「地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律(地域生物多様性増進法)」に基づき、民間等による取り組みによって生物多様性の保全が図られている地域に対して国(環境省、農林水産省、国土交通省)が認定するものです[2]。また、「創出タイプ」とは開発地などにおいて生物多様性を創出する活動を対象とするものです。この制度は令和5年度から開始され、福岡県内においては令和8年3月現在6サイトが認定されており(表1)、「屋外のワンヘルス体験学習・研究ゾーン(仮称)」はそのうちの一つとなります。



ネイチャーポジティブ社会の実現へ
 日本では2008年の「生物多様性基本法」の施行以降、生物多様性の保全と再生が環境政策の重要な柱の一つとなりました。福岡県では2013年に法定計画として「福岡県生物多様性地域戦略」を策定し、以後現在まで3回の改定を行って県域での生物多様性保全に関する施策を進めています[3]。また、2023年に公表された「生物多様性国家戦略2023-2030」では、ネイチャーポジティブの実現が新たに大きな目標として掲げられました[4]。ネイチャーポジティブは自然再興と訳され、すなわち生物多様性の損失を止め、反転・回復させることです。ネイチャーポジティブの文言は農林水産省が2023年に改定した「農林水産省生物多様性戦略」[5]、2024年に環境省・農林水産省・経済産業省・国土交通省が公表した「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」[6]、2026年に国土交通省が改訂した「グリーンインフラ推進戦略2030」[7]においても記述され、省庁をまたいで重要な社会的指針となっています。

 ネイチャーポジティブを実現するには様々な手段がありますが、その中でもっとも重要なのは、現在すでに生物多様性が豊かな場所を守ること、そして生物多様性が豊かな場所を新たにつくっていくことです。生物は環境が悪化して減少したとしても、適切な環境があれば増えることができます。したがって、絶滅しないように生息環境を保全しつつ、新たに良い環境を再生・創出することができれば、再びかつてのように豊かな生物多様性を取り戻すことができるのです。そうした中で重要な取組が、場の保全と再生そのものである「自然共生サイト」です。

「屋外のワンヘルス体験学習・研究ゾーン(仮称)」の特徴
 広さは約1ヘクタールで、生物多様性が比較的豊かだった1960年代の筑後地域の里地里山及び田園・掘割の景観・生態系を再現することを目標としています。筑後地域には多種多様な環境が存在しますが、特に矢部川流域に実際に存在するコナラ林、アカマツ林、ツブラジイ林を中心とした森林と、中山間地のため池、平地の掘割(クリーク)を中心とした水域の生物多様性の再現を想定しています(図1)。


図1 屋外のワンヘルス体験学習・研究ゾーン(仮称)のイメージ図

 「屋外のワンヘルス体験学習・研究ゾーン(仮称)」を整備するにあたり、当初から県内外の有識者からなる委員会を組織し、これまで10回以上にわたる協議を重ねて、地域の生物多様性を保全・再生するものになるようその方針をつくってきました。その中でもっとも重視しているのが「地域の遺伝的多様性を破壊しない」というものです。そのため、造成に伴い搬入する土砂は同センターが立地する矢部川流域からのものとし、植栽する植物は矢部川流域および隣接する筑後川流域産の地域性種苗としています。動物は自力で周囲から自然にやってくる種類を想定していますが、淡水魚類や一部の両生類、貝類など移動能力が低い種類については、特に希少なものを中心に、遺伝的に矢部川流域の在来集団として問題がないことを確認した上で導入する計画です。


おわりに
 現在、当研究所では「屋外のワンヘルス体験学習・研究ゾーン(仮称)」に導入予定の福岡県産の水生動物について、その遺伝的特徴に関する研究や、飼育下での増殖手法に関する研究を進めています(図2)。また、完成後は環境DNA等を用いたモニタリング調査の実施や適切な維持管理に関する専門的観点からの助言、さらに当サイトを活用した生態学的研究にも取り組んでいく予定です。研究成果については適宜発信していき、自然共生サイトとしてネイチャーポジティブに関する学びの場になるよう、今後の整備に尽力していきます。


図2 県条例指定種セボシタビラと人工授精した卵


参考資料
[1] 福岡県「屋外のワンヘルス体験学習・研究ゾーン(仮称)が 「自然共生サイト」に認定されました!」
https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/kyousei-okugai.html

[2] 環境省「自然共生サイト」
https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/kyousei/

[3] 福岡県「福岡県生物多様性戦略2022-2026」
https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/fukuokaprefefurebiodiversity2022-2026.html

[4] 環境省「生物多様性国家戦略 2023-2030〜ネイチャーポジティブ実現に向けたロードマップ〜」
https://www.env.go.jp/content/000124381.pdf

[5] 農林水産省「農林水産省生物多様性戦略」
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/c_bd/bds_maff/index.html

[6] 環境省「ネイチャーポジティブ経済移行戦略について」
https://www.env.go.jp/page_01353.html

[7] 国土交通省「グリーンインフラ推進戦略」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000017.html
トピックス
屋外のワンヘルス体験学習・研究ゾーン(仮称)が自然共生サイトに認定
環境科学部 環境生物課