はじめに
わが国では、気候変動の影響により夏季の猛暑日や熱帯夜の数が年々増加しています
[1]。 これに伴い、熱中症による救急搬送者数は毎年数万人を超え、死亡者数は5年移動平均
※で 1,000人を超える高い水準で推移しています(
図1)
[2]。
図1 熱中症による死亡者の状況 5年移動平均(全国)
出典:環境省、熱中症対策の今後の在り方について 資料3
https://www.env.go.jp/content/000106930.pdf (元データ:人口動態統計より環境省が作成)
※移動平均とは、データの変動(ばらつき)を滑らかにして、長期的な傾向を把握するために用いられる手法です。
ここでの5年移動平均は、その年を含む直近の5年間のデータの平均値を計算したものです。
福岡県においても、熱中症による救急搬送者数は、2022年から2年連続で3,000人を超えており、2024年も8月18日時点で3,608人と、3年連続で3,000人を超える見込みです(
図2)
[3]。
図2 熱中症救急搬送者数(福岡県)
今後、地球温暖化が進行すれば、極端な高温の発生リスクも増加することが見込まれ、熱中症による被害がさらに拡大する恐れがあります[4]。
改正気候変動適応法について
こうした状況を踏まえ、熱中症対策を一層強化するために、気候変動適応法及び独立行政法人環境再生保全機構法の一部を改正する法律(以下、「改正気候変動適応法」とします)が令和5年4月に成立し、令和6年4月に全面施行されました[5, 6]。 改正気候変動適応法では、熱中症対策実行計画の法定計画への格上げ、熱中症警戒情報の法定化、熱中症特別警戒情報の創設、市町村長による指定暑熱避難施設(クーリングシェルター)及び熱中症対策普及団体の指定の制度が新たに措置されました。
今回は、改正気候変動適応法に関連する内容の一部をご紹介します。
・熱中症特別警戒情報、熱中症警戒情報とは
改正気候変動適応法では、令和3年から本格的に運用が開始された熱中症警戒アラートが「熱中症警戒情報」として法律に位置づけられました。 さらに、より深刻な健康被害が発生する可能性がある場合には、新たに一段上の「熱中症特別警戒情報」が発表されることになりました
[7]。
これらの警戒情報は、暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature)に基づいて発表されます。「熱中症警戒情報」は、府県予報区等内のいずれかの地点での暑さ指数が33(予測値)に達する場合に発表されます。一方、「熱中症特別警戒情報」は、都道府県内すべての地点で暑さ指数が35(予測値)に達する場合に発表されます(
図3)。
図3 熱中症警戒アラート・熱中症特別警戒アラートについて
出典:気象庁、令和6年度「熱中症警戒アラート」の運用開始について【資料1】
https://www.jma.go.jp/jma/press/2404/16a/siryou1.pdf
実際には暑さ指数が31以上の場合でも、十分に危険な状態であるため、注意が必要です。そのうえで、警戒情報を参考にしながら熱中症対策に取り組む必要があります。
全国の情報提供地点(約840地点)の暑さ指数(WBGT)は、
熱中症予防情報サイト(環境省)にて確認できます。
・指定暑熱避難施設(クーリングシェルター)とは
改正気候変動適応法では、市町村長が冷房設備を有する等の要件を満たす施設(公民館、図書館、ショッピングセンター等)を指定暑熱避難施設 (クーリングシェルター)として指定できる制度が設けられました。
そして、改正気候変動適応法において新たに創設された熱中症特別警戒情報が発表された場合には、クーリングシェルターを開放することが義務付けられています
[8]。
指定暑熱避難施設の指定基準は、以下のとおりです。
- 適当な冷房設備を有していること。
- 熱中症特別警戒情報が発表された際に、クーリングシェルターを必要としている方々に開放できること。
- 必要かつ適切な空間を確保できるように管理すること。
クーリングシェルターの設置は、地域で冷房設備が整った場所をあらかじめ確保し、高齢者や諸事情でエアコンを使用できない方々が、 熱中症特別警戒情報が発表されるような危険な日に冷房の効いた空間に避難できるため、熱中症発生リスクの低減が期待できます。
なお、県内のクーリングシェルターに関する情報は、
ふくおかエコライフ応援サイト (福岡県、福岡県地球温暖化防止活動推進センター) からご確認いただけます。
福岡県気候変動適応センターについて
福岡県気候変動適応センター(以下、適応センターとします)は、気候変動による影響や適応策に関する情報の収集・発信拠点として、令和元年8月に福岡県保健環境研究所に設置されました。 適応センターでは、改正気候変動適応法を踏まえ、熱中症予防に関する注意喚起の強化に努めています。
適応センターが取り組んでいる熱中症予防に関する活動内容を、以下にご紹介します。
・SNSでの情報提供・注意喚起
X(旧twitter)を用いた熱中症予防に関する情報提供、注意喚起を行っています。
・
熱中症対策パンフレットの作成
・
適応センターホームページによる情報提供
気候変動適応に関する情報を掲載しています。
最後に
改正気候変動適応法では、熱中症警戒情報の発信やクーリングシェルターの整備など、様々な対策を通じて熱中症対策を強化しています。 こうした社会全体での取り組みに加え、毎年のように続く厳しい暑さに対応するためには、個人でも積極的に熱中症予防に取り組むことが重要です。