福岡県保健環境研究所
Fukuoka Institute of Health and Environmental Sciences
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    医薬品成分を違法に含む健康食品(無承認無許可医薬品)について
                                  保健科学部 生活化学課 主任技師 重富敬太
はじめに
 「健康食品」と聞くと何を思い浮かべますか?私たちが口から摂取するものは、食品と医薬品(医薬部外品を含む)に分けられます。一般的に、「健康食品」は健康の維持・増進に役立つと謳った食品全般のことを指します。 食品には医薬品のように効能効果を表示することは原則として認められていませんが、国の制度に基づいて安全性や効果が確認された「特別用途食品」や「保健機能食品」は特定の保健機能や栄養機能を表示することが認められています[1](図1)。 一方で、「特別用途食品」と「保健機能食品」を除いたその他の健康食品は「いわゆる健康食品」と呼ばれており、国の制度のもと安全性や有効性が確認されていません。 「いわゆる健康食品」の中には医薬品的な効能効果を謳った製品や医薬品成分を違法に配合しているような悪質な製品もあります。 このような製品は無承認無許可医薬品として分類され、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)よる取締りの対象となります。 また、本来であれば医薬品は有効性や安全性等に関する厳密な審査を経て製品として承認されていますが、無承認無許可医薬品は有効性や安全性等が確認されておらず、品質が保証されていないため、摂取すると健康被害を生じるおそれがあります。
図1 健康食品の分類
無承認無許可医薬品による健康被害
 最近ではインターネットやSNSを経由して、国内外から健康食品を容易に入手できるようになりました。無承認無許可医薬品として公表された製品の大半もインターネット経由で入手されています。令和4年度はインターネット経由で販売されていた同一のダイエット用健康食品による健康被害が複数の自治体から公表され、この製品から医薬品成分であるシブトラミンが検出されました[29]。他にも、花粉症への効果をほのめかした健康茶に医薬品成分のステロイドが含有されており、健康被害をもたらした事例がありました[10]
 福岡県内でも医薬品成分を含有した「いわゆる健康食品」(無承認無許可医薬品)による健康被害が発生しています[11]。令和元年7月にインターネットを通じて台湾から入手したダイエット用製品を摂取した20代女性が吐き気、全身倦怠感、動悸、胸痛などの体調不良を訴えた事例がありました。同製品はカプセル2種類と錠剤5種類から成るもので、7成分の医薬品成分が検出されました(図2)。この製品は「ホスピタルダイエット」などと称される製品で、過去にも複数の自治体から健康被害事例(死亡事例を含む)が公表されています。
図2 福岡県内で発生した無承認無許可医薬品による健康被害
健康食品買上げ検査による健康被害の未然防止
 福岡県では医薬品成分を含有した違法な健康食品による健康被害を未然に防ぐために、強壮や痩身等の目的の健康食品を中心にインターネット等で買上げ検査(抜き打ち検査)を実施しています。県内の販売業者から違反製品が見つかった場合は、当該事業者の責任で市場から製品を回収させ、販売業者が他自治体である場合には、管轄する自治体に通報を行います。併せて、福岡県から報道発表するほか、福岡県及び厚生労働省のホームページに製品名や医薬品成分等を公表し、摂取中止について広く呼びかけています。
 令和4年度の買上げ検査では、はちみつとキャンディーから医薬品成分が検出されました[1213](図3)。検出された医薬品成分は、「タダラフィル」と「クロロプレタダラフィル」でした。タダラフィルは国内で医薬品として承認されている成分で、キャンディーでは1個あたりにタダラフィルが約40 mg含まれていました。医薬品(勃起不全治療剤)として承認されたタダラフィル製剤の成人に対する用量は通常1日1回10 mgであるため、このキャンディーには医薬品の約4倍量のタダラフィルが含まれていることになり、このような製品を摂取した場合は重篤な健康被害につながるおそれがあります。また、クロロプレタダラフィルはタダラフィルに似た化学構造をもつ類似化合物ですが、国内で医薬品として承認されている成分ではありません。加えて、タダラフィルと類似の作用を有すると考えられるため、健康被害を発生するおそれが否定できません。
図3 令和4年度の買上げ検査で医薬品成分が検出された健康食品
さいごに
 近年、健康志向の高まりを背景に健康食品を利用する人が増えています。厚生労働省の調査によると、最近では20歳以上の3割もの人が健康食品を利用しているようです[14]。インターネットやSNSを経由して様々な健康食品を容易に入手できるようになったことで、無承認無許可医薬品による健康被害はより身近なものとなっています。また、無承認無許可医薬品によって健康被害が生じた場合は「医薬品副作用被害救済制度(※)」の対象にならないことにも注意が必要です。健康食品の利用は消費者の判断に任せられているので、このような健康被害から身を守るためには消費者自身が的確な判断をすることが重要です。医薬品のような効能効果を謳った製品や少しでも怪しいと思った製品は購入しないようにしましょう。また、公表されている無承認無許可医薬品の多くは強壮や痩身の目的で販売されているため、これらの目的で宣伝されている健康食品は注意が必要です。
 健康維持の基本は栄養バランスの取れた食生活、適度な運動、十分な休養です。「痩せる」、「体の調子が良くなる」といった謳い文句は非常に魅力的に感じますが、健康食品は健康に役立つ補助的なものと捉え、食生活、運動、休養の質を高めることを心がけましょう。
※医薬品を適正に使用したにもかかわらず副作用による一定程度以上の健康被害が生じた場合に、医療費等の給付を行い、これにより被害者の救済を図る制度。   
参考URL
[1] 厚生労働省「健康食品による健康被害の未然防止と拡大防止に向けて」(2016年2月改訂)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000113707.pdf
[2] 厚生労働省発表資料「医薬品成分を含有する製品による健康被害(疑い)の発生について」(令和4年6月7日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26097.html
[3] 厚生労働省発表資料「医薬品成分を含有する製品による健康被害(疑い)の発生について」(令和4年6月15日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26252.html
[4] 北九州市発表資料「医薬品成分を含有する製品の発見について」(令和4年6月22日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000954664.pdf
[5] 宮城県発表資料「医薬品成分を含有する製品による健康被害(疑い)の発生について」(令和4年6月27日)
https://www.mhlw.go.jp/content/0627press.pdf
[6] 宮崎県発表資料「医薬品成分を含有する製品の発見について」(令和4年6月28日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000957838.pdf
[7] 厚生労働省発表資料「医薬品成分を含有する製品による健康被害(疑い)の発生について」(令和4年6月14日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26241.html
[8] 川口市発表資料「ダイエット用食品から医薬品成分が検出されました」(令和4年6月17日)
https://www.mhlw.go.jp/content/tyuuikanki20220617.pdf
[9] 滋賀県発表資料「医薬品成分を含有する製品の発見について」(令和4年7月8日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000962669.pdf
[10] 独立行政法人国民生活センター発表資料「花粉症への効果をほのめかした健康茶にステロイドが含有
  −飲用されている方は、医療機関にご相談を−」(令和5年4月12日)
https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20230412_1.html
[11] 福岡県発表資料「医薬品成分を含有する製品の服用による健康被害(疑い)の発生について」
  (令和元年8月20日)
https://www.mhlw.go.jp/content/11126000/000538236.pdf
[12] 福岡県「健康食品買上げ検査の結果について」(令和4年11月21日)
https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/kenko-r4-1.html
[13] 福岡県「健康食品買上げ検査の結果について」(令和5年3月22日)
https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/kenko-r4-2.html
[14] 厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html

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