サルモネラ及びその検査法
サルモネラの検査は、他の細菌に比較し簡単です。それは、サルモネラが非常に均一な集団であり、例外的な性状を示す菌株が少なく、かつ検出法が研究され尽くしているなどの理由によります。
サルモネラの検査で大切なことは、目的にあった検査法を選択することです。コスト、検出率、迅速な結果、それらをすべて同時に満たす方法はありません。なにを優先するかを決めることが大切です。
1.サルモネラ概説
(1)サルモネラの定義
サルモネラは、グラム陰性の桿菌:運動性(わずかの例外がある)。好気性および通性嫌気性、カタラーゼ陽性:オキシダーゼ陰性、糖を発酵的に分解しガスを産生、通常Simmonsクエン酸塩陽性(ただし血清型Typhi はガス非産生で、Simmonsクエン酸塩陰性の重要な例外)(坂崎利一監訳、医学細菌同定の手引き第3版、1993、近代出版、東京、より)。
(2)サルモネラの特徴
- 検査し易い細菌であること。
- 人獣共通感染症の原因菌であること。
- 比較的均一な集団であること。
- 多くの血清型に分かれること。
- 宿主域が、非常に狭い血清型と、比較的狭いもの、そして非常に広いものの3種に分かれること。
- 環境中で長く生き残ることができ、さらにこれが宿主に感染し得ること。
(3)サルモネラの進化
3-1 大腸菌との分岐と、糞便汚染指標菌たりえないこと
サルモネラは、今から1億6千万年から1億8千万年ほど前に、大腸菌等と共通の祖先から 枝別れしたと考えられています (Christensen et al., 1998)(分岐時期には諸説あり)。この時代は恐竜が生息していたころです。まだ鳥類は出現していません。小型の哺乳類は出現しています。
その後大腸菌は哺乳類及び 鳥類の消化管後部に生存するようになりました。一方サルモネラは哺乳類、鳥類のみならず、爬虫類、両生類、魚類、および一部昆虫の体内、あるいは体表に生息するようになりました。この生息場所の違いが、汚染指標菌としての大腸菌と サルモネラの違いに現れています。すなわち、糞便汚染の指標菌として大腸菌を用いることは、恒温動物の糞便汚染の有無を判断する上で 意味のある検査となりますが(ただし熱帯の自由生活大腸菌を除く)、サルモネラを用いた場合、サルモネラ陽性が魚類由来等の糞便汚染を意味することもあるので、公衆衛生上の意味を持たないということです (Winfield & Groisman, 2003)。
3-2 SPI-1の獲得とPCRプライマー
多くの病原細菌は病原性に関与する遺伝子のあつまりであるPathogenicity Island (PAI) とよばれる遺伝子群を他の細菌から獲得して、病原性を得ることがあります。PAI には非常に多くの種類があります。
サルモネラと大腸菌の分岐に言及すると、サルモネラの場合には、このPAI の一種であるサルモネラ-PAI (SPI) の1(SPI-1)を獲得したとき、大腸菌と分かれたと考えられています (Groisman & Ochman, 1997, Baumler et al., 1998)。そして このSPI-1 の中には 我々が、サルモネラの検出の際に PCR 法で標的とする invA を含んでいます (Hensel, 2006)。
3-3 恒温動物に適応したサルモネラの分岐
大腸菌と分岐した後、SPI-2 の全ての部位を獲得したサルモネラ(S. enterica)と獲得しなかったサルモネラ (S. bongori) にわかれました。このSPI-2 により、宿主のマクロファージ等の攻撃から免れる(エスケープ)能力を獲得しています。同時に、PCR 法で標的とするサルモネラエンテロトキシン関連遺伝子 を獲得しました。 (Hensel, 2006)。さらに、恒温動物の体内で増殖できるサルモネラ (S. enterica 亜種enterica ) と、それ以外に分かれています。
3-4 チフス菌の分岐
S. enterica 亜種enterica の中で SPI-8 を獲得した血清型は、チフス菌として 分岐しました。チフス菌の分岐は、今から約5万年前と考えられています (Kidgell et al., 2002)。ここで大切なことは、サルモネラの中に、特定の動物種のみを宿主とする血清型が分岐したことです。この宿主域の狭い血清型は、特定の宿主だけに感染すればいいので、一部のアミノ酸を合成できなかったりします。それらは、我々の検査にも影響を与えます。
3-5 細菌学上でのサルモネラの歴史(乳糖の非醗酵と、遅れて醗酵)
1893年、米国の疫学者・病理学者 Theobald Smith (1859 - 1934) は、多くのグラム陰性菌を、乳糖を醗酵するものと しないものの2つに分類することが可能であることを発見しました (Vandamme et al., 1996)。そして乳糖を醗酵しないグループにヒトの赤痢に関連する菌が多く含まれることもわかってきました。その後、乳糖を遅れて醗酵するグループが見つかり、これはパラコロングループと命名されました。サルモネラは、この乳糖を醗酵しないグループの菌と、パラコロングループの菌(亜種arizonae など)を含んでいます。サルモネラは、病理学者Salmon (1850 - 1914)の栄誉(サルモネラを初めて分離した偉業)を称え命名されました。しかし、実際にサルモネラを、初めて発見したのは、Theobald Smith であるとされます。
(4)サルモネラの分類
| 属 | 種 | 亜種 | 含まれる血清型数(2579) | その他 | |
|---|---|---|---|---|---|
| Salmonella | enterica | enterica | (又は 亜種 I) | 1531 | ヒトに感染する ほとんどのサルモネラを含む |
| salamae | (又は亜種II) | 505 | |||
| arizonae | (又は亜種 IIIa) | 99 | 時にヒトに感染 | ||
| diarizonae | (又は 亜種 IIIb) | 336 | |||
| houtenae | (又は亜種 IV) | 73 | |||
| indica | (又は亜種VI) | 13 | |||
| bongori | 旧 亜種 V | 22 | |||
文献 (Shelobolina et al., 2004) 参照
| 宿主域 | 含まれるサルモネラの血清型 | 宿主 | 培養するのに特に必要な栄養素 (重要) |
|---|---|---|---|
| 1種類の動物 | チフス菌 (S. Typhi) |
ヒト | トリプトファン |
| パラチフスA (S. Paratyphi A) |
ヒト | シスチン、アルギニン | |
| パラチフスC (S. Paratyphi C) |
ヒト | ||
| Sendai | ヒト | ||
| Abortusovis など | 羊 | シスチン、ニコチン酸など | |
| 数種類の動物 | Choleraesuis | 豚 >ヒト | |
| Dublin など | 牛 >ヒト、羊 | ニコチン酸 | |
| 多くの種類の動物 | エンテリティディスなど 多くの血清型 |
様々な動物 | ― |
文献 (Uzzau et al., 2000) を改変
(5)サルモネラで起こる病気
サルモネラにより起こる病気は、チフス菌、パラチフスA菌、Sendai等による腸チフス・パラチフスなどの全身感染と、非チフス性サルモネラによる食中毒に大別されますが、非チフス性サルモネラによる化膿性疾患や、全身感染の発生も散見されます。集団食中毒事件は、日本では 多くの場合、血清型エンテリティディスによる事例が多く、施設等では この血清型によるヒト・ヒト感染も散見されます(未発表データ)。また、散発事例は年間を通して発生しています (Murakami et al., 2007)。そのため国の食中毒集計を大きく上回るサルモネラ症患者が発生していると考えられます。
(6)サルモネラの分布
6-1 家畜・家禽
鶏は、サルモネラの最も重要な レゼルボア(菌の運び手・蓄積場所、病原巣)です。産業鶏は、産卵鶏と ブロイラーに分けられますが、そのどちらにも高い頻度で感染しています。私どもは、一カ所の産卵鶏農場にて、1995年から3年間で55の試料を検査し、11試料からサルモネラを分離しました。また、ブロイラー農場では35農場を検査し20の農場からサルモネラを分離しています (Murakami et al., 2001)。注意すべきは、カンピロバクターは、鶏が生まれた時には 個体に感染しておらず、農場に導入されてから感染する (Rivoal et al., 2005) という報告がありますが、サルモネラの場合には、親から子へ垂直感染 (Humphrey et al., 1989) することです。
ウズラや、アイガモも同様に注意すべき存在です。
牛、豚も サルモネラに感染していますが、その感染率は低いものです。日本では、豚2.8%、牛で0.5%程度 (Ishihara et al., 2009) です。
6-2 食品
鶏卵
鶏卵は集団食中毒の原因として最も注意すべき食品です (Murakami et al., 1999a)。1990年代後半は、0.03% から0.6% 以上の割合でサルモネラに内部が汚染された鶏卵がありましたが、現在は、改善されています。ただし、現在 全くサルモネラが鶏卵からいなくなったわけでなく、50個程度ずつ鶏卵をプールして検査すると、1.3%あるいは5.2%といった頻度で、プールした試料からサルモネラが検出されています(2004年データ) (Humphrey, 2006)。
鶏肉
鶏肉は、散発事例(特に小児)の原因として最も注意すべき食品です (Murakami et al., 1999b, Noda et al., 2010)。私どもの検査でも、平成11年から20年までの10年間の平均で、4割 [40.7%(160検体 / 393検体)] の鶏肉がサルモネラに汚染されていました。検出されたサルモネラのうち血清型インファンティスが62.5%を占めていました(未発表データ)。
牛肉・豚肉
牛肉、豚肉の汚染頻度は、鶏肉に比べるとはるかに低いものです。オランダでは、ヒトのサルモネラ症の25%が、豚(肉)、11%が牛(肉)に起因していると考えられています (van Pelt et al., 1999) 。しかし 日本では、オランダの様に 牛肉や豚肉がサルモネラ症の原因になっているとは 考えられないと思われます(私見)。
その他の食品
特に注意すべきは、スプラウトです。
もやし、アルファルファ、カイワレダイコン、あるいはカボチャの新芽などの所謂スプラウトは、大きな食中毒事件を、たびたび引き起こしています (Taormina et al., 1999)。保育所、病院等の給食等では、必ず加熱しましょう。
大豆等の豆類及びその加工品(チョコレートなど)は注意すべき食品です。
「旧制浜松第一中学校大福餅事件」(患者2244名、死者44名)を思い出すまでもなく、サルモネラは 豆類を好むようです(私見)。サルモネラが大豆ペプトンを好むことは報告があります (van Schothorst & Renaud, 1983)。検査で用いるラパポート・バシリアディス培地も一部メーカーでは、サルモネラが好む大豆ペプトンに改良しています。サルモネラが、豆類、特に大豆を汚染しやすいことは、多くの報告があります (Andrews et al., 1979)。
スッポン(生血)は、十分に気をつけて。
スッポンによる食中毒は多発しています。加熱をしっかりしましょう。
6-3 河川
河川水等には、ある頻度でサルモネラが存在しています (Murakami et al., 2001)。これは 自然なことで、長時間 海水に触れることで、培養不能となると考えられています (Winfield & Groisman, 2003)(死滅するとは限らない)。
6-4 両生類・爬虫類
重要なサルモネラの感染源です。これらは 非常に高い確率でサルモネラを保菌しています。カメの水槽の水換えを、洗面所・台所でするなどの行為で感染しています。
6-5 ヒト
私どもが以前検査したデータでは、食品(製造)業等の従事者331,644人中106名(0.032%)から、サルモネラが分離されました (Murakami et al., 2007)。分離されたサルモネラの中で一番多い血清型はインファンティスでした。
(環境での生き残りに強いサルモネラ)
宿主を離れた 環境中では、日光(紫外線)、乾燥、pH の変化、温度の変化、捕食者(アメーバ等)の存在があり、病原細菌にとって生き残ることは 容易ではありません。しかし、大腸菌に比較し、サルモネラは環境中での生き残りに長けていることが知られています (Winfield & Groisman, 2003)。実際、我々は、サルモネラが冷蔵庫の中で長時間生き残ることや、培地上で放置されてもなかなか死滅しないことを知っています。
(7)サルモネラ症の原因食品等(感染源)
食中毒の原因
サルモネラに汚染された食品(鶏卵、鶏肉、スプラウト、スッポン、豚肉、山羊肉、牛肉、大豆等)を食して感染、発症します。
- 腸チフス・パラチフスの原因
感染者・健康保菌者(無症候性キャリア、無症候性保菌者)との接触、あるいはチフス菌・パラチフスA菌に汚染された食品を食して感染、発症します。
小児のサルモネラ症の原因
小児の場合、通常の食品のみならず、爬虫類・両生類との接触が危険です。
米国では、年間、約7万4千人が、爬虫類・両生類との接触でサルモネラに感染していると見積もられています (Mermin et al., 2004)。
21歳以下の子供の、爬虫類・両生類への接触は、サルモネラ感染の危険が大変大きく、汚染食品を食することと同程度の危険があると考えられています (Janda & Abbott, 2006)。
(8)サルモネラの集団の均一性
8-1 細菌の集団における遺伝子の変化
細菌は、自然に起こる突然変異以外に、多くの要素により 細胞内の遺伝子を変化させています。たとえば、接合、形質導入、形質転換等により、遺伝子の水平伝搬(遺伝子交換)を受けます。それらの結果、染色体上に遺伝的組み換えを起こすこともあります。これに関与するものとして、プラスミド、バクテリオファージ、トランスポゾン、インサーション・シークエンス(insertion sequence)等のmobile genetic elements(いわゆる動く遺伝子)が挙げられます。
このような遺伝子の変化のなかで、特に染色体上の遺伝的組み換えについては、これらを起こしやすい菌種(non-clonal population)と、起こしにくい菌種(clonal organismまたはクローナルポピュレーションclonal population)、及び、その中間の菌種(weakly-clonal population)があることが知られています(Spratt & Maiden, 1999, Gupta & Maiden, 2001)。
サルモネラはクローナルポピュレーション(遺伝的組み換えを起こしにくい菌種)です。クローナルポピュレーション の代表はサルモネラであり、非クローナルポピュレーション の代表は、淋菌です(Smith, 1995)。
この集団のポピュレーション・ジェネティックス(集団遺伝構成:拙訳)の研究には、現在、Multilocus sequence typing(MLST)と呼ばれる方法が用いられています。これは、菌株の酵素の遺伝子の多型を比較する方法です。
8-2 遺伝子検査における多型
また、大腸菌O157 : H7 のように、クローナルポピュレーションであっても、おそらく“動く遺伝子”の影響で (Ooka et al., 2009)、遺伝子検査(パルスフィールド・ゲル電気泳動による型別等)において、多型を示す (Whittam et al., 1998)ものもありますが、サルモネラの場合には、この分野でも多型は小さいものです
2.サルモネラの検査
(1)検査のための知識:サルモネラの特徴
サルモネラは、検査し易い細菌ですが、検査に注意すべき点もあります。
- 環境の変化に強く、取扱いの失当により菌が死滅することが少ない。
- 各血清型で、非常に均一な集団(クローナリティーが高い)であり、例外的な性状を示す菌株が少ない。
- 患者からは、長期間、多くの菌数が排泄される。
- 栄養要求性が高く検出し難い血清型がある。
- 食品業従事者等のうち、0.03%程度はサルモネラを保菌している。
(2)検査の基本姿勢と検査の流れ
検査法は モノサシといっしょです。メートル法のモノサシであっても、mmまで視認できるプラスチック製のモノサシもあれば、ノギスのように0.1mm 単位、または、それ以上 計測可能なものもあります。ましてや、尺貫法のモノサシや、外国のモノサシと混在させてしまうと、ものの長さが、まちまちになってしまいます。細菌検査も同様です。サルモネラを検査するときも、確かなモノサシに準拠することが重要です。目的に合致したモノサシに準拠したいものです。
<サルモネラ検査(抗原検査)の一般的な検査の流れ>
◆検体の採取
↓
◆検体処理
↓
◆検出
培養法(前増菌培養、増菌培養、分離培養)
遺伝子検査
免疫学的検査
↓
◆同定
(3)標準的な検査法(抗体検査を除く)
| 制作者等 | 名称等 | 参考文献 |
|---|---|---|
| 米国(FDA) | Bacteriological Analytical Manual (BAM) | 1) |
|
日本の公定法 (食品衛生法) |
食品衛生検査施設における検査等の業務管理について | 2) |
|
ICMSF (国際食品微生物規格委員会) |
Microorganisms in Foods 2: Sampling for microbiological analysis: Principles and specific applications Second edition. | 3) |
2) 食品衛生検査施設における検査等の業務管理について(◆平成16年03月23日食安監発第323007号)
3) ICMSF | International Commission on Microbiological Specifications for Foods
| 培養法・検体処理法 | |||
|---|---|---|---|
| 対象 | 方法等 | 参考 | |
|
NIHSJ法(食品からの微生物標準試験法) 国立医薬品食品衛生研究所 |
食品一般 | BPW→TT ・RV →硫化水素指標・非硫化水素指標寒天培地 | 1) |
|
日本の公定法 (食品衛生法) |
殺菌液卵 (鶏卵) |
BPW→TT ・RV →硫化水素指標・非硫化水素指標寒天培地 | 2) |
| 非加熱食肉製品 | |||
| 特定加熱食肉製品 | |||
| 加熱食肉製品 (加熱後包装) |
|||
| 米国(FDA) | Bacteriological Analytical Manual (BAM) | 食品によって検査法を指定 LB→TT ・RV →ヘクトン・エンテリック (HE) 寒天培地 など |
3) |
| 関東化学 | 食品一般 | ランバクイックサルモネラを用いた方法 | 1日間の短縮可能 |
培養法以外の簡易法 |
|||
| 簡易検査 | イムノクロマト | 培養物を供試することが一般的 | 簡便 一般に105~107 / ml 程度の菌数が必要 |
遺伝子を用いた方法 |
|||
| 各社(タカラバイオ等) | PCR法 | 培養物を供試することが一般的 | |
| 栄研化学 | ランプ法 | ||
| DNAプローブ法 | |||
2) 食品、添加物等の規格基準に定めるサルモネラ属菌及び黄色ブドウ球菌の試験法の改正について(◆平成27年07月29日食安発第729004号)
BPW:緩衝ペプトン水
LB:乳糖ブイヨン
TT:テトラチオン酸塩培地
RV:ラパポート・バシリアディス培地
硫化水素指標寒天培地:DHLなど
非硫化水素指標寒天培地:クロモアガーサルモネラ(寒天培地)など
| 培養法・検体処理法 | |||
|---|---|---|---|
| 対象 | 方法等 | 参考 | |
|
NIHSJ法(食品からの微生物標準試験法) 国立医薬品食品衛生研究所 |
食品一般 | 「TSI、LIM サルモネラには、硫化水素非産生性、運動性の弱いもの、リジン陰性といった非定型的性状を示すものがあり、また、市販のO 血清に凝集の弱いO 群型別不能のサルモネラも知られている。示された追加検査により、サルモネラの確認は可能であると考えるが、定型的性状を示さない場合は、生化学的性状試験も検討し、サルモネラの確認をする。」となっており、曖昧な基準である。 |
1) |
| 米国(FDA) | Bacteriological Analytical Manual (BAM) | サルモネラの性状を示し、一方で これが確認できればサルモネラでないと判断できる性状(尿素分解陽性など)の両方を示している。 | 2) |
(4)目的にあった検査
4-1 何の為の検査か?
何の為に検査するのでしょうか。明確にしましょう。臨床検査、環境検査、食品検査のどれでしょうか?食品検査であれば、どの程度の検出能力が要求されますか?
4-2 求められる検出限界は?・・・・発症菌数は限りなく少ない菌数
サルモネラ症の発症菌数は、非チフス性サルモネラでも最低10個程度です。通常は10の6乗といわれますが、食べ合わせの問題が大きいようです。水に入ったサルモネラ、あるいは、チョコレートでコートされたサルモネラであれば、胃での胃酸からの攻撃時間が短い、あるいは胃酸が到達しないなどの理由から、少ない菌数(10個程度)でも発症します (Blaser & Newman, 1982)。ですから、すべての危険を排除しようとすれば、求められる検出限界(菌数)は、限りなく小さなものとなります。
4-3 検査の限界
検査は、完璧ではありません。検体からサルモネラが検出されたことは、その検体がサルモネラに汚染させている、あるいは、その患者さんの体内にサルモネラが存在していたことを示します。しかし、サルモネラが検出されなかったからといって、その検体がサルモネラに汚染されていなかったことや、患者さんがサルモネラ症でないとの証明にはなりません。これらのことをよく認識する必要があります。
4-4 検体中のサルモネラの菌数が少ないとき
実際に、MPN(最確数)でも経験しますが、検体中のサルモネラの菌数が少なければ、これを検出することは 困難が伴います。同じ検体を10回検査しても、サルモネラが検出できることが 数回しかない場合もあります。
4-5 競合菌の存在
環境試料(養鶏場のふき取りなど)で よく経験しますが、プロテウス属の菌が多いと、サルモネラの分離に影響することがあります。
4-6 ロットの中のサンプリングの問題
一つのロットの中で 1つの試料だけしか検査しない場合、このロット中にサルモネラで汚染された商品が 高い割合で含まれていない限り、このロットのサルモネラ汚染を検出することは 不可能です (ICMSF, 2002)。
4-7 検査の目的と検査法
さて、もう一度 検査の目的を明確にしましょう。検査結果が早く手に入ることを一番の目的としますか?それとも、時間がかかっても 少ない菌数まで検出しますか?それは、あなたの立場によって変わってきます。工場の自主検査ですか?製品の検査ですか?他社から搬入された材料の検査ですか?臨床検査ですか?それとも、検査会社にお勤めですか?それぞれに、目的が異なります。コスト、検出率、迅速な結果、それらをすべて同時に満たす方法はありません。
(5)リスク
5-1 あなたにとっての、サルモネラ検査の結果に伴うリスク(危険に遭う可能性や損をする可能性)は何ですか?
- 本当はサルモネラが陽性である検体(同一検体で他の検査機関ではサルモネラが分離された)からサルモネラが検出できなかった(と報告した)。
- 本当はサルモネラが陰性である検体(同一検体で他の検査機関ではサルモネラが分離されなかった)からサルモネラが検出された(と報告した)。
この問題は、あなたの立場によって異なります。たとえば私なら、どちらも困った立場になるでしょう。
他にもあります。例えば、
- 検査法が、定められた方法と異なっていた(と指摘された)。
- 検査に伴う顧客情報が、外部に漏れた。
- 従業員が、サルモネラの菌株を外部に持ち出してしまった。
- 実験室内感染がおこった。
などもリスクに含まれるでしょう。
5-2 ?本当はサルモネラが陽性である検体からサルモネラが検出できなかった。の問題を、例としてとりあげてみます。
この場合、問題となるのは、2つの要素があります。
◎典型的なサルモネラが検体中に存在したが、サルモネラを、うまく分離できなかった場合。
これを防ぐための対策は、標準法どおりに検査することです。標準法どおりに 検査を実施して サルモネラが分離できなくても、 それは、「微生物は、検体中に均一に分布しない」という原則によって説明することが可能です。 ですから、食品からの微生物標準試験法検討委員会(国立医薬品食品衛生研究所)が作成している検査法、 あるいは食品衛生法に定められた方法に準拠しましょう。
◎もう一つの問題となる場合は、検体に含まれていたサルモネラが、非定形的なサルモネラであり、これをサルモネラでないと判断した場合。
サルモネラは、非常に均一な性質をもつ集団ですので、同定し易いわけですが、時として、非チフス性サルモネラであるのに、 リシンを脱炭酸しない (Yamasaki et al., 2007)、シモンズクエン酸塩培地で発育しない(十分な培養時間をかけても)、硫化水素を産生しない、 あるいは乳糖を利用して酸を産生したりする株 (McDonough et al., 2000) が存在します。これらの非定形的なサルモネラをどの程度まで、カバーすればいいでしょうか?
それは、目的にあった検査の原則に戻ります。臨床検査であれば、時として 患者さんの生命を左右することもありますので、どんな非定形的なサルモネラでも検出・同定することを求められるかもしれません。
しかし 食品検査の場合、乳糖分解性のサルモネラをサルモネラと同定できなくても、これをミス(誤謬)と一概にかたづけることはできないでしょう(その後に続く人的被害については 別問題ですが)。
食品関連の検査では、硫化水素を産生しない非定形的サルモネラは必ず検出しなければなりません。また、リシン脱炭酸試験陰性のサルモネラも多数論文が出ています (Yamasaki et al., 2007) ので、これも検出する能力を備える必要があるでしょう。
5-3 同定の原則
原則は、同定とは何かという考えです。同定 (identification) とは、サルモネラの標準菌株を定めて、その菌と同一だとみなす作業です。標準菌株は、Salmonella enterica subsp. enterica なら NCIMB 1450 (英国)[=ATCC43971(米国)=NCTC (英国)12416 ]と番号を打たれ、それぞれの細胞バンクで保管されています。設備要件が許せば、どなたでも入手可能です。この標準菌株にどれほど近いかが、サルモネラか否かの判断基準です。最終的にはDNA-DNAハイブリダイゼーションで決定されます(ハイブリッド形成率70%以上で同一菌種)。
しかし、日常検査ではそのような手間をかけることができませんので、サルモネラと確認された菌株の生化学性状を観察して、成書に記載しています。たとえば非チフス性サルモネラなら硫化水素陽性などです。ですから、その中には 多少の幅があります。硫化水素を産生しない非チフス性サルモネラも2%程度はありますので、サルモネラが100%硫化水素 陽性ではないことを我々は知っています。ですから 同定に使う判定表(成書)は、できるだけ権威のあるものが必要となります。食品からの微生物標準試験法検討委員会が作成したサルモネラの検出法にも、同定に関してははっきりしたことが記載されていません.
そこで、坂崎利一、田村和満著、腸内細菌、上巻、近代出版等を参考にして下さい。
どうしても、同定できない菌株があり、かつ必要なら、日本薬局方の「遺伝子解析による微生物の迅速同定法」に準拠した16s-rRNDの遺伝子を検査することで、同定簡易可能です(ただし、新種の細菌の場合は、この方法では同定できない)。
(6)その他の検査
6-1 血清型別
O抗原と H抗原の組み合わせで、2579の血清型に分類されています(2007年現在)。この血清型別はWhite-Kauffmann-Le Minor scheme としてパスツール研究所のホームページで閲覧可能です。(https://www.pasteur.fr/sites/default/files/imported/2016-12/veng_0.pdf)
亜種enterica では、それぞれ名前が付けられています(エンテリティディス、ネズミチフス菌など)。
6-2 注意する血清型
通常の検査では 特に血清型は必要でありませんが、チフス菌、パラチフスA菌だけは、必ず検査するようにしましょう(デンカ生研からこの二つだけは型別できる抗血清のセットが発売されています)。法的な扱いが異なります。
また 食品業界では、用いる鶏卵の検査のために、エンテリティディス (O9:gm:-) の血清型別が可能であれば理想的だと考えます。
6-3 血清型別で留意すること
ラフに変異した株が取れたときは 血清型別がでません。そこで、スムーズ-ラフ(SR)変異における スムーズ型コロニーの選別方法を紹介します。
- ハートインフュージョンブイヨンをpH 7.8に設定し(pH 7.8 のPBSで培地を作製すると簡単)、1晩培養する。
- 1エーゼを もう一度 ハートインフュージョンブイヨン(pH 7.8) に添加し、3時間培養。
- 普通寒天培地(本来は2,3,5,トリフェニル テトラゾリーム クロライド入り普通寒天培地)に画線培養する。
- リジン脱炭酸試験用培地に培養し、ラフでない株を選択する。
pHをあげた培地中では、スムーズ-ラフ型変異株のうち スムーズ型菌株が早く発育することを応用しています。
6-4 ファージ型
血清型エンテリティディスやネズミチフス菌 (S. Typhimurium) のファージ型別は、国立感染症研究所に依頼します。
6-5 感受性検査
薬剤感受性の検査法は、すでに十分確立されています。方法は、すべてClinical and Laboratory Standards Institute で 定められています。2009年1月現在、ディスク法は、その方法を記載したテキストの第10版が 出版されています。インターネットで購入することもできます。また、日本臨床検査標準協議会(JCCLS)に問い合わせると、テキストの購入の手助けや、日本語版の紹介をしてくれます。
すべてが 完全に標準化されていますので、この方法に準拠しましょう。サルモネラも 多くの耐性を獲得していますので (Asai et al., 2009) 薬剤耐性検査は、重要です。
6-6 PCR検査
PCR で注意することは 阻害物質の存在です。例えば、鶏肉を前増菌培地で培養後、その培養液をPCRにかける場合を見てみます。(i)ストマッカーにかけて培養したものの培養液をPCRにかけたものと、(ii)ストマッカーにかけずに培養した培養液をPCRにかけたものでは、(i)の方が検出率が落ちてしまいます (Kanki et al., 2009)。これは、鶏肉中の何かが、PCR反応を阻害しているためと考えられています。
臨床検査の場合、便中のサルモネラの有無を、他の菌と同時に検出する方法(マルチプレックス)が、ほぼ実用化されています (Fukushima et al., 2007)。また プライマーに関しても、既製品(タカラバイオ)や、自分で設計して合成を外注する(廉価)まで、様々な方法があります。
3.参考文献
福岡県保健環境研究所関係分
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その他
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